いいものリレー

6人めのゲスト
谷 卓さん(「オルネ ド フォイユ」運営)
プロローグ住みながら、作る。
作りながら、住む家。

「いいものリレー」、
塚本太朗さんのバトンを受け取ったのは、
Orné de Feuilles (オルネ ド フォイユ)オーナーの
谷 卓(たに あきら)さんです。
フランスをはじめ、ヨーロッパのアイテムを集めた
インテリアショップを営む谷さんは、
時間を見つけては本格的なDIYを楽しんでいます。
作りながら暮らしている、都内のおうちは、
好きなものをバランスよく取り入れた
とても心地よく、かっこいい空間でした。

ゲストキュレーター谷 卓(たに あきら)
1994年に渡仏、
2004年に「オルネ ド フォイユ」という
インテリアショップをオープン。
フランスをはじめ、国内外で見つけた
「好きなもの」を提供している。

パリでの生活から生まれたお店

――
谷さんのお店、オルネドフォイユを
出されるまでは、どういう経緯だったんですか?
僕、実家が家具屋だったんですよ。
昔は家具だけだったんですけれど、
母親が雑貨を扱いたいって言い出して。
「それじゃあ」ということで、
別の仕事をしてたんですが、辞めました。

仕事を辞めてからは雑貨屋と、お花屋さんを
ダブルでバイトしたんです。興味あったので。
そこで、雑貨の仕入先だとか、
お店を作るというのはどういう仕事なのか、
多少わかって、片足を突っ込んだ感じでした。

で、それからフランスに渡りました。
「メゾン・エ・オブジェ」という、
インテリアや雑貨の展示会が、
パリで年に2回あるんですよね。
そこに毎年通うようになって、
自分で仕入れたものを日本に送って、
みたいなことやってました。
――
なるほど。
仕入れたものをご実家に送って、販売を。
はい。でも、当時の滋賀のお店では
あんまり売れなかったんです。
どういうものが売れるのか、
いろいろなことが分かってなかったんだと思います。
自分が売りたいものを取り扱っていきたければ、
もう自分でお店出すしかないかな、って。
――
それは、何年ぐらいの話ですか?
僕がフランスに行ったのが94年で、
その後だから2000年頃ですかね。
ただ、どこに声掛けても、
多分扱ってくれないんだろうなって思いました。
いくつか買ってくれたところもありましたけど、
まぁやっぱり、僕の持って来るものの感じとか、
価格帯だと、
むずかしいのをそこで痛感しましたね。
――
どうしてなんだろう。
言い方がむずかしいですが、
「素敵すぎた」んでしょうか。
まだ時代がそういう流れじゃなかった。
谷さんが売りたいものと、欲しい人との間に
いろんなことでギャップがあったのかな。
たぶん、そうなのかなと思います。
求められてなかった。
で、自分でお店を始めたのが2004年なんです。
――
じゃあもう20年近く。
すごいですね!
自分たちは、何がしたいのか。
奥さんといろいろ考えました。
「好きなことしたらいいんじゃない?」
ってことになったとき、だいぶ前から持ってたこの本が。
――
きれいな本ですね。
「LA MAISON AU NATUREL」。
どういう意味なんですか?
日本語でいうと、「ナチュラルな家」という意味ですね。
はじめはこういう、古い、錆びたようなものとか
リネンって、いいんだろうなとは思うけど、
僕にはちょっとわからなかった。
だけど、ほんとに好きなもので
お店を作りたいって思ったときに
久しぶりにこの本を見たら、
「あ、なんか、できるかも」って気持ちが変わったんです。
蚤の市に行ったり、いろんなものを見て、
数年で多少は理解ができるようになってたんでしょうね。
――
見て、ただ「素敵だなぁ」じゃなくって、
その仕組みみたいなものを体感されたんですね。
「オルネ ド フォイユ」(葉で飾るという意味)っていう名前も、
この本から取りました。
布、植物、空間、学ぶことがとても多くって。
――
じゃあ、すごく大事なルーツのような本ですね。
そうやってできたのがオルネドフォイユ。
他にない、とてもいいお店で、
ほぼ日の社内にもファンが多いんですよ。
ありがとうございます。
ぼくも、「ほぼ日」はずーっと見てます(笑)。
オルネは、「ちょうどよい」ところを目指しています。
甘すぎず、かっこよすぎず、高すぎず。
ちょうどよいポジションになっていたら、うれしいですね。

手をかけて、作りながらの暮らし

――
打ち合わせのときに、
「途中なところも多いので、びっくりしないでくださいね」
とおっしゃっていました(笑)。
「色々、間に合わせます」とも。
このおうちは、作りながら住んでらっしゃるわけですが、
そういう、DIYみたいなことって
前からやってらしたんですか?
家の改装みたいなことの始まりは、
奥さんと一緒に住むようになったときの、
最初に入った家が、結構汚い家で。
――
それは、パリで?
あ、そうですね。
大家さんが、入居のときの補償金はいらないから、
そのお金で、内装を好きにしていいよって言ってくれて。
そこで初めて、DIYのお店に行って、
Pタイルを買って来て、ハサミで切って。
(※編集部注※
Pタイルとは‥‥薄い板状の床材のこと。
さまざまな素材、デザインがあり、
谷さん曰く、DIY初心者にもとっつきやすいそうです)

けどもう、ほんとに素人仕事だったので、
きれいにはできなかったんですけど、そこが始まりです。
フランスって、引っ越すときは、
自分のものはほとんど全部持って行く人が多くて、
電球1個が残ってたらいいぐらいなんですね。
だから僕が入ったところも、部屋によっては、
天井から電線がウネウネっと出てたり。
――
もぬけの殻。
そういうの、外国映画とかで観ますね。
そうです。まんま、それです。
もう、どうしていいのかわかんない。
その頃まだネットもなかったんで、
調べるのも気軽じゃなくて、人に聞いたり、
そこから徐々にですねー。
――
おもしろ~い。
壁紙を貼ったり、ペンキ塗ったり。
ニスとペンキの違いも知らなかったですし、
未だにちょっと不安なところもありますけど。
そうやっているうちに、次に引っ越したところでも
業者さんにお任せしつつ、自分たちでもやって。
なので、家をいじるのは、わりと当たり前な感じに
なっているかもしれませんね。
それと日本だと、全部完成してから入居。
っていう感覚ですけど、
その間にもうひと部屋借りる必要があるし、
お金もかかるので、1室だけでも使えれば、
あとは工事中でもいいやっていう生活、
昔からしてたんですよね。
――
住めればOKですね。
DIYの師匠みたいな方がいたんですか?
師匠はいないですけど、
ほとんどが雑誌とyoutubeかなぁ。
――
おぉ~!
家の内装は、ほとんどがそうですね。
あとはPinterestか、雑誌か。
今でこそ日本の職人さんも
youtubeをバンバン上げますけど、
数年前は、ほとんどヨーロッパか
アメリカの人たちだったんですよ。
なので、おのずと僕の持ってる機械は
ドイツとアメリカのものが多くなりましたね。
――
そうなんだぁ。知らないことばかりです。
パリにお住まいだったけど、アメリカ仕込なんですね。
DIY人口が圧倒的にアメリカが多いです。
道具がいっぱい揃ってますよね。
ところがフランスもそうなんですよ。
職人さんに頼むと高いので、自分でやったり。
フランスではDIYのことを、
「ブリコラージュ」っていうんですけど、
ブリコラージュができる男は評価が高いみたいな、
それぐらいできなきゃダメみたいな感じで、
やる人が多いです。
ホームセンターもいっぱいあります。
――
パリの街にもホームセンターってあるんですか?
あります。
――
あるんだ!
パリの市庁舎のすぐ横にあるデパートが
「べーアッシュヴェー」という、
もう100何年、歴史のあるところで。
そこは、地下がそういうブリコラージュ系で、
上の階にはソファの張り地とか、壁紙とか、
ペンキ、照明っていう、
インテリアを中心にしたお店なんですよ。
東京でいうと、新宿都庁の横に、
歴史あるインテリアのお店があるみたいな感じ。
――
へえー。たのしそうですねー。
もう1日中いられます。
今は、もちろん郊外にもできてますし。
そういうのが好きな人が、ずっといるんですね。
文化の成り立ちがちょっと違うのかな?
日本と違って、古い建物をそのままどう生かすかなので、
昔の古いパーツでも、多少高くはなってても、
今もストックがあったりする。
おもしろいですね。
――
それは楽しいです。
だからここでも、住みながら直してくのが、
僕らの中ではずっと普通でしたね。

ゼロから始めて、何ができるか

――
このおうちは、家を建てる、
最初の設計から始められたんですよね。
今までのノウハウもおありだし、
こうしたい、っていう夢もあったと思いますけど、
設計士さんと話しながら進めていったんですか?
ここの前の前に、鎌倉で
築20年くらいの古い一軒家を買ったんです。
そこを、リノベーションはしたんですけど、
途中でやめたようなかたちになってたんですね。
なので次こそ、ほんとに思いっ切りやりたかった。
っていうのと、
ゼロから始めて制約がない場合、
自分なら何ができるか、っていうのがあって。
――
いよいよゼロから、ですね。
「素敵な暮らし」のお店をやってるのに、
実際はちゃんとできてなかった気がして。
だから今度は、会社のスタッフも撮影なんかに
使えるようにしたんです。
プライベートなリアルも見せたいなと。
――
そういう覚悟の元に。
1階は白い壁と、工房があって、
まさにアトリエみたいでした。
今は、まだ作業場になっているだけですけどね。
――
設計からの過程は、順調だったんですか?
自分たちで、こんな模型つくって、
「こういうのできますか?」って問い合わせして、
実際に模型持って相談しに行って。
奥さんが、僕らの希望の間取りを図面にして。
大変でした。
――
奥様は建築の勉強されてたんですか?
奥様
勉強してないんです。
――
え! 全然? すごい。
つくった模型を窓際に置いて写真を撮ったり、
模型の中を、iPhoneのカメラで見てみたり。
ファイバースコープ買おうかと思ったくらい(笑)。
変なことやってましたね、ずっと。
――
楽しいけど、めっちゃくちゃ大変ですね。
でした。
家を作るのには時間がかかる、ってことが
よーく分かりました。
細かい決めることだらけで。
――
「今わからない」とか言えない、保留にできないものが。
きます、きます。けど全部選びたいんで、
換気扇も選んだり。
――
苦しい。でも、たのしい。
奥様
でも部分的に決めずに、
残しておいたのはよかったんです。
壁のタイルの色とか、玄関の色とか。
全部決めないでおいて、
そういうのは、住みながら、ゆっくり。
タイルは全部奥さんが貼りましたね。
――
えー!?
玄関のタイルも。
どんどん、めきめき上手になるんですよ。
僕は、ああいうのはできないです。
僕は言われたサイズにカットするだけ。
――
もう、棟梁だ。
そうですね(笑)。
奥様
(笑)。

狭い場所のスタイリングから始めれば

――
谷さんは、家具もご自分で作ってらっしゃいますよね。
はい。でも、無印良品の本棚を上につけて食器棚にしたり。
ほとんどそのままで、背板をつけるぐらいですけど。
IKEAとか無印良品も、好きなので。
――
ということは、
もしかして、このキッチンにもそういうものが‥‥?
そうですね。このキッチンの引き出しはIKEAです。
取っ手は自作でつけて。
これなら、気軽な感じでできるんですよ。
あっちのデスクみたいなのは、自作です。
でも板を組み合わせただけなんです。
全部直線ですから。
――
すごいですよ。
奥さんには「ちょっと高い」って言われたので、
今度、調整するのに削んなきゃなぁと。
――
なるほど。自分で作ったものなら、
そういうこともできますね。
インスタグラムで、家作りのアカウントも
運営されていて。
見てるだけで、たのしいです。
いやぁ、なかなか進んでないんですよ。
――
みんな興味があるんだなっていうのは、
すごい感じました。
いまも、うかがっていて、すごくたのしいです。
普通のことをアップしてるより、
家のことのほうが断然、反応がよくて。
僕がお店を始めた頃よりは、
アンティークを取り入れる人や、
自分でやるっていう人も確実に増えてきてますね。
――
たしかに、この20年くらいの間に、
だいぶ変わったように感じますね。
オルネさんのお店にも、
DIYしたい人も来られてますか?
昔、DIYのパーツを売るようなお店を
地下の部分でやってたんですよ。
それは一旦やめちゃって。
今度は、壁紙を作りたいなと思ってたり。
――
それは楽しみですねー。
自分でやってみよう、っていう人は増えそうですね。
ちなみに、ちょっと気軽に、
賃貸でもできるようなことってありますか?
やってみたいけど、何ならできるのかな?
みたいな人って、けっこう多いと思うんです。
僕が思ってるのは、最後の仕上げ、
スタイリングみたいなことで、
わりとイメージって変えられるんじゃないかなと。
たとえば壁に、なにかをプラスしてみる。
布を吊るだけでもいいんですよ。
――
布ものは手を出しやすい感じがします。
失敗したらたたんで、しまったり、
別の用途に使ったり。
いきなり、ノコギリやトンカチを持たなくても
いいんですね。
そうですね。
お花を飾るのも、
いつもと違うところに置いてみたり。
壁掛けの器を使ったり。
目線だけなんですけど、見え方が変わる。
――
たしかにそうですね。
家全体、広い部屋全体をしようと思うと、
ハードルが上がるんですよね。
だから、お手洗いだけとか、玄関だけとか、
リビングだったら全体じゃなくて、
どこか一部分だけ。
一極集中っていうのが簡単でおすすめかなぁと。
視線が集まるフォーカルポイントを、つくる。
たとえば、玄関はやりやすい気がします。
家の第一印象でもありますしね。
――
狭い場所からやってみる、なるほど。
雑誌やネットで素敵な玄関を見つけたら
自分でできそうなことをマネしてみる。
それがいいと思います。
壁に穴が開けられるのであれば、
さらに、もうちょっと自由度が高くなりますよね。
――
そうですよね。
くぎが打てれば、なにか掛けたりできるし、
がんばれば、簡単な棚ならつけられるかも。
あとは、僕もやってますけど、
見えないところに突っ張り棒をつけて、
S字フックとかひもで、何かを吊るしたり。
意外と上って、目線がいかないんですよ。
――
へえ~。なるほど。
キメキメにしなくても、突っ張り棒でもいいんですか。
谷さんに言ってもらうと納得です。
失敗することも、いっぱいありますけど(笑)。
――
失敗?
「失敗は必ずあると思え」な気がしますよね。
――
なるほど。
何もかもうまくいくわけない、と。
そういう前提で考えたほうがいい、っていうことかな。
この家も、失敗したところが結構あります。
電気のスイッチをつけようと思ってた場所が、
住んでみたらちょっと違ってたので、
今は壁に穴が空いたままだったり。
自分たちでやってると、
何ができて、何ができないかがわかってきますね。
きれいに出来上がったものを渡されると、
ビス穴開けるのですら、怖かったりするんですよ。
――
うーん、程度の違いはあるでしょうけど、
わかります、その感じ。
持ち家の方は特にですけど、
くぎを打ったり穴を開けたりっていうのは、
もっとそんなに怖がらなくていいんじゃないかなぁ。
――
やっていいかもしれないですね。
素人なんだから、完璧にできるわけない
っていう気持ちでやらないと、
いつまでも何もできない。
うん。そうですね。
――
谷さんも、これからも作り続けながら。
どういうふうに使うのか、って
結局住んでみないとわからないですよね。
1階のスペースも、
引越して1年くらい経ってるんですけど、
まだ、「途中」っていう状態で。
――
でも夢がありますよね。
とても楽しそう。
わはは。なんとなく、夢はあるんです。
カッコよくしたいな、っていうことなんですけど。
――
今だって、カッコいいですよ。
きっと、もっとカッコよくなりますね。
さて、谷さんが選ばれたモノを、
ご紹介お願いします。

(次回、谷さんの
「いいものリレー」がはじまります)