町田康さんと友森玲子さんの、犬といっしょにいることは。その3

ほぼ日
友森さんは、いまは猫といっしょに
暮らしていらっしゃいますが、
ミグノンにはいっぱい保護犬がいますね。
おもしろい犬がたくさんいると思いますが‥‥。
友森
はい。
おもしろくない犬はいません、ほんとに。

私はアレルギーで喘息だったから、
保護活動をするまでは、
犬は自分の身近にはいなくて、
おばさんが飼ってる犬が1匹いただけでした。

保護活動をしていると
いろんな年齢や状況の子が突然ポンと来るので、
最初はものすごく不安がありました。
例えばキューティーのように
ひどいトラウマがある子もいます。
そんな子には、
生後何年も経って知り合った私では
ケアし切れない部分があるんだろうと思っていました。
例えばケージから出たがらない場合、
それはきっと直らないと思っていたんですが、
年数をかけるとだんだん普通になってくることが
わかってきました。
町田
やっぱり年数ですか、慣れでしょうか。
友森

はい、そうだと思います。
それを見て私はちょっと感動するんだけど、
その犬が明るくなってきた頃に
はじめてイタズラが出てきます。
おどおどして怖がってかわいそうだったときは
一方的に愛があったのに(笑)、
犬が平気になってきてイタズラをはじめると、
「なんだ、このやろう」
という気持ちになります(笑)。

でもその「なんだ、このやろう」ぐらいから、
やっと対等につきあえる感じがします。
「かわいそう、かわいそう」と言ってるときは、
あくまで一方的で、きちんとした関係じゃないんです。
やっとそのくらいから対話ができて
おもしろくなっていきます。

町田
わかります。
友森
老犬やボロボロの子がミグノンに来たら、
「かわいそう」と言ったら失礼かなと思いながらも
心のどこかで
「こんなんで捨てられてかわいそうだな」
と思っていました。
でも最近は、うまく対等の目線になれて、
ヨロヨロでやってきても
その子のよさやおもしろさが
すぐに見えるようになりました。
たぶん私に余裕が出てきたんだと思います。
ほぼ日
今回、みなさんからいただいたメールを読んで、
老犬を介護する時期に、
思い出がワッと詰まっている感じがありました。
友森
老犬介護‥‥あれはもう、
ご馳走としか
言いようがない
です。
ほぼ日
ご馳走‥‥‥‥。
友森

犬や猫が具合悪いときって、
ものすごく心配ですよね。
病院にも行かなきゃいけないから
仕事もぐじゃぐじゃになっちゃう。

だけど、あんなに自分が
時間もお金も情熱も使い、気持ちを集中させて
引っ張られることは、
よく考えたらほかにないんです。
そこが究極の、私にとっての、
贅沢なのかなと思います。

看取るときの別れがつらいけど、
その前までの試行錯誤や、
一緒に過ごす時間って‥‥ね。

ほぼ日
やっぱりそれは、たのしい‥‥?
友森
楽しいというと語弊があるけど、でも、たのしい。
ほぼ日
つぎ込めるわけですもんね。
町田
あとは、犬を飼う醍醐味がもしあるとすれば、
話が通じるというか、
コミュニケーションが成立するということが
挙げられるでしょうね。
友森
そうですね。
町田
コミュニケーションが成立するのは
人間相手でも同じなんですが、
犬は、より純粋な形で成立させます。
言葉を介在させないから、気持ちだけで。
友森
下手な人間といるより楽ですよ。
町田
考えてることもわかるし。
友森
うん。見てるとわかる。
ほぼ日
へぇえ。
町田

このあいだ、
妻が留守のときに
私が犬の面倒をみていました。
12時にスピンクが「おやつくれ」と言うので、
たまたま、いつもと違うのをあげたんです。

普通、犬って、
とくにプードルはそうなんですけど、
要らんときは「要らない」と
横向くんですよ。

そのときのスピンクも横を向いたんですが、
それが、もっのすごい勢いで(笑)、
ひったくるようにおやつをくわえて、
(ガフッと勢いよく横を向き)
「‥‥こぉれじゃない!!!」

友森
怖い。ひどい(笑)。
町田
ああ、これじゃないんだ、とわかりました(笑)。
ほぼ日
すごい表現力ですね。
町田
そのくらいのコミュニケーションは、
犬は普通にとれます。
友森
犬の知能は
幼稚園児ぐらいといわれるんですが、
言語を発音できないぶん、
「それは嫌だ」と
人にわかるように表現してくれるんですよ。
町田
犬は、通じるよさがあります。
猫の場合は逆で、
何も通じないというか(笑)、
一方的に言われるだけです。
友森
猫は「人間を飼ってあげてる」ぐらいの
感じでいますよね。
町田
そうですね。
友森
猫とボール投げをしていると、
途中で「はぁぁ」という顔をしてボールを追うので
「ああ、遊んでくれてたのかな」と
わかります(笑)。
町田
むかし、家にココアという猫がいました。
たとえば私がだらけて過ごしてると、
ふと視線を感じることがありました。
高い場所からじっと、批判的な目で
ココアが見おろしているのです。
そして、
「おまえ、
 そんなのでいいのか」
みたいなことを言っていました。
いや、何も言ってないですよ。
勝手にこっちが思うだけです。
おそらくココアはぜんぜん別のことを
考えてると思いますけど、
なんだかものすごく批判的に
「あいつ、だらけてるな」
と言っているように思えてしまう。
ほぼ日
それが、猫といるときの、よろこび‥‥。
町田
そういうたのしみは、あります。

(つづきます)

2015-03-16-MON