町田康さんと友森玲子さんの、犬といっしょにいることは。その1

ほぼ日
町田さんはいま、
3頭の犬といっしょに暮らしていらっしゃいます。
町田
はい、あとは猫もいます。
▲町田家のみなさん(左より)、シード、キューティー、康(人間)、スピンク。
友森
スピンク日記』に出ていた
キューティーの保護当時の写真を見て、驚きました。
町田
うちにやってくる前、どういう状況だったのか、
はっきりとはわかっていなんですけどね。
▲『スピンク日記』(講談社文庫)より。
町田
キューティーは、うちに来た当時、
とにかくいろんなものを怖がっていました。
まず、土とか、木、石、カーペット、
歩くときに足の裏の感触が
ちょっとでも変わると、怖い。
最初はほんとうに、
この世のすべてが怖かったようなんですけども、
だんだん克服してきました。
友森
おそらく、キューティーは
ケージから出してもらっていなかったんですね。
で、1歳までそこにいて、
町田さんのとこにやってきた、と‥‥。
町田
たぶん、散歩もせず、どこにも連れていかず、という
感じやったんでしょうね。
餌もちゃんともらってなかったみたいです。
友森
スピンクときょうだいなのに
ぜんぜん違いましたよね。
足にも筋肉がなくて、目つきもどんよりしてて。
ほぼ日
いまは、こんなに‥‥。
友森
能天気そうな顔をしてるのに‥‥。
▲キューティーの、いま。
町田
とりあえずはうちで預かって
誰かにもらってもらおうと思ったんですが、
キューティーがやってきて、実際に見て、
「これをかわいいという人は
 たぶんこの世にいないな」
と思いました。
友森
ちょっとハードル高いですよね(笑)。
町田
しょうがないので、うちで引き取りました。
近所を散歩させていると
前から犬好きな人がやってきて
話しかけたりしてくれるんですが、
みなさんキューティーを話題にしないというか(笑)、
「ああ、これはまた」と
絶句するようになりました。
友森
コメントのしようがなかったんでしょうね。
町田
ある人は、
「ああ、これはまた風流な犬を‥‥‥」
必死に考えておっしゃったのでしょう(笑)。
友森
あんな子連れて歩いてる人、いないですもん。
町田
でも、おかげさんで、だんだん慣れてきました。
なにせ4年間も、ぼくを怖がってましたからね。
友森
一緒にいるのに?
町田
はい。妻だけは大丈夫でした。
しかし、妻がどうしても
泊まりがけで出かけなくてはならないときが
ありまして、
「どうすんの?」と思いました。
ぼくではなにも食べないし。
キューティーにはてんかんの持病があって、
空腹が発作のトリガーになる可能性もありました。
食べさせなければいけません。

無理やり口に押し込んで
食べさせるなどしてるうちはよかったんですが、
問題は、夜なんですよ。
夜でも当然ひとりになんかできないんで、
結局ぼくは台所にふとんを敷いて寝ました。
友森
これだけ部屋があるのに(笑)。
町田
台所で寝ていたら、突然自分がワッと起きました。
夜中の2時か3時ごろです。
キューティーは暗闇に立っていました。
ブルブルブルブル震えてました。
さわってみると、筋肉がかったーくなって
石のようになっているんです。
硬直して震えて、なにを言っても反応しないので、
「うわ、コワ」
と思って、
「おまえ、硬直震えって、なんか洋菓子か」
と口走っていました。
ほぼ日
え?
町田
ありそうでしょ?
「コウチョクブルエ」って、
なにか、ありそうじゃないですか。
友森
そんな余裕があったんですか?
緊迫してるのに(笑)。
町田
まぁ、そんなことがあったんですが、
だんだん慣れてきて、最近、ほんとにここ1~2年、
ぼくにも甘えるようになってきました。

(つづきます)

2015-03-12-THU