むかしの暦で、いまを楽しむ。 旧暦と暮らす「ほぼ日」の12か月。
2006-09-05-TUE
旧暦:閏七月十三日
お正月に「初春」って早くないですか?

前回のおさらいをかねての季節のご挨拶。
「残暑がきびしいですね!」
さて、これは正しいでしょうか。
答え。正しいです。
まるで盛夏のような暑い日が続いていますけど、
もう「立秋」(ことしは8月8日[旧暦七月十五日]でした。)
を過ぎたので、これはもう「残暑」というのが正解です。
「立秋」は旧暦(太陰太陽暦)カレンダーにも記載されていた
「二十四節気」
(それは太陽の運行をもとにした季節の区切り)のひとつで、
(ちなみに、「立秋」とは
 太陽黄経が黄経135度を通過する日をさします。)
天体観測にもとづくものなので、
新暦(西暦・グレゴリオ暦)になったからといって、
ことしの8月8日が立秋であることに、
まちがいはありません。

旧暦で使われていた、そのような日本語は
いっぱいあるのですけれど、なかには、
「旧暦の日付をそのまま新暦にしたために」
1か月以上も、ずれた感覚のままで
使われている言葉があります。
七夕もそうだし、「五月晴れ」もそうでした。

近松先生に、そういった言葉を、
もっと教えていただきましょう!

近松先生
近松
そうですね、ふつうに使っている言葉で、
違和感があるといえば‥‥たとえばお正月の言葉ですね。
「新春」とか「初春」とか言いますよね?

はい、年賀状に「初春のお慶びを申しあげます」
なんて、書きますよね!

近松先生
近松
それ、なんだかおかしな感じがしませんか?

ええ、まだすごく寒いうちに年賀状を書くので
春って言っても寒いよ〜、‥‥という気分になります。

近松先生
近松
そうでしょう。じつは、江戸時代は、
いまの1月1日は、「初春」じゃ、ないんですよ。
これもまた、旧暦と新暦のあいだの、矛盾なんです。

‥‥ええっ!


と、すっかり忘れて驚いてしまいましたが、
「新暦のお正月と、旧暦のお正月は、
 1か月以上もずれている」
ということは、すでに近松先生からおききしておりました。
すみません。

近松先生の調査によると、
平均して、現在の2月6日が旧暦の正月朔日(元日)。
この2月6日というのは、
二十四節気でいうと、「立春」の前後。
一年でいちばん寒いのが「大寒」から「立春」までで、
「立春」とはもうこれ以上寒くなりませんよ、
これからは、あたたかくなるばかりですよ、という、
一年でいちばん「うれしいしらせの日」なわけです。
(ちなみにこの日を過ぎて初めて吹く南風を
 「春一番」と言います。)

そんな時期にやってくるのが、旧暦のお正月。

その気分で、この言葉をもう一度読んでみてください。

「初春のお慶びを申しあげます」

うんうん、なんだか、
「これからあたたかくなるぞ!」な気分に満ちて、
うれしくなっちゃいますよね。


江戸時代には年賀状はなかった!


日本の郵便制度は明治4年(1871年)に始まり、
江戸時代からの飛脚にかわって、
全国に普及がはじまったのは
明治5年(1872年)のことでした。
つまり、江戸時代には年賀状というものはなかったのです。
ひとびとは、年があけると「年始回り」をして、
そのときに「初春」という言葉を使ったのが、
年賀状に受け継がれていったのではないか、
と、近松先生はおっしゃいます。

江戸と明治は地続き。
かつて使っていた用語を、
そのまま使うようになったのでしょう、と。

しかし!
「旧暦の正月朔日(元日)」を、
約1か月の「時差」をむりやり縮めて、
「新暦の1月1日」としてしまったものだから、
「初春」という言葉も、時差を超えて、
まだまだ寒い「新暦の1月1日」に
使われるようになりました。
ちなみに来年(2007年)の1月1日は、
旧暦に換算すると、なんと、まだ、
平成十八年の11月13日!
これからどんどん寒くなるじゃない、という時期です。
そんな時期に「初春」とか「新春」って
ちょっと言いにくいですよね‥‥。
なお旧暦の平成十九年正月朔日(元日)は、
新暦の、2007年2月18日です。
立春は2月4日にあたるので、
胸をはって「もうすぐ春ですね」と言ってよし、
ということになります。

──というところで、今回はここまで。
次回は、「暦がないころ」というお話をおとどけします。
おたのしみに!

近松先生のプロフィール
イラストレーター:玉井升一
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