あの『未来ちゃん』の川島小鳥さん、
		3年ぶりの新作が
		すごい造本だなと驚いていたら
		版元は、やっぱりナナロク社だった。

	第2回
	とにかく「打席」に立ちたい。
ほぼ日
ナナロク社さんでは
企画って、どうやって立ててるんですか?
村井
何しろ4人しかいませんから、
まずは雑談みたいなものから話がはじまり
「いいね」となった企画を
基本的には、進めていくって感じです。
ほぼ日
その過程で、ボツになっていくものも?
村井
まあ、明確に「ボツ!」というよりも
そんなに響かない企画は
盛り上がらないし、
じょじょに、誰も話さなくなりますね。

みんなが強烈にやりたいと思わなかったら
そのうち消えていくので
進む企画だけが前に進むって感じです。
ほぼ日
そのへんは、「ほぼ日」と似てますね。
村井
あ、うれしい。
ほぼ日
ぼくらも、誰かがものすごくやりたい企画は
だいたいオッケーになるし、
逆に、誰も動機や当事者意識を持ってない企画は
自然消滅してしまうことが多いので。
村井
そうなんだー。
ほぼ日
小鳥さんは、どう思っていますか?
ナナロク社さんのこと。
小鳥
他の会社のことをあまり知らないですが
今回の『明星』は
ナナロク社じゃなければできなかったと
思っています。
村井
作家のかたにそう言っていただけるのが、
出版社として、本当にうれしい。
ほぼ日
どうして、そう思うんですか?
小鳥
うーん、そうだなあ。

ふつうの大きな出版社ですと
営業の人と編集の人と、わかれていますよね。
だから、編集の人がいいと思っても
営業にダメって言われちゃいましたとなると、
それ以上、ぼくにはどうにもならなくて、
そこで終わりになっちゃったりして。
ほぼ日
ええ。
小鳥
でも、その、ナナロク社さんの場合は
一体化してるから、
もっとグイグイ行けるっていうか‥‥。
ほぼ日
グイグイ?
村井
いや、たぶん、4人がくっつき合ってるから、
誰かひとりを押したら、
ナナロク社全体がグイグイ押されると(笑)。
小鳥
そう、それでなんだか、できそうになったり。
風とおしの‥‥良さ?
村井
風とおしの良さ! 良い会社っぽい(笑)。
ほぼ日
アウトプットの数って、どのくらいですか?
村井
理想としているのは「年に8冊」です。

でも、なかなか理想どおりにはいかなくて
ある時期に集中しちゃって、
4ヶ月、まったく新刊が出なかったりとか
無計画にもほどがあるって感じですが
ここ最近、やっと形になってきてるかなと。
ほぼ日
刊行点数も、増えてきてる?
村井
ええ、じょじょにですけど。

ただ、去年は6冊しか出せなくて、
しかも、そのうちの4冊は
年の終わりの3ヶ月の間に出るという
バランスの悪い年でしたね。
ほぼ日
逆に言うと、4人いて6冊や8冊というのは、
1冊1冊が、それなりに売れないと‥‥。
村井
そうなんです。大変なんです(笑)。
ほぼ日
ナナロク社さんのお仕事を見ていると
自分たちの納得した企画を
ていねいに、手をかけてつくっている感じが
ものすごくするんです。
村井
そうでしょうかね。
ほぼ日
出版って、マスメディアって言われますけど
なんて言ったらいいのか、
本来、もっと規模の小さいものだったような
気がしていまして。
村井
ええ、ええ。
ほぼ日
だとするならば
「粗製乱造」と言ったら言葉は悪いですけど
「1タイトルでも多く出す」今の感じが
何だかもったいないなあと
出版にがんばってほしいファンとしては、思うんです。

そのあたりのこと、どうですか?
村井
たしかに一方では、そう言えると思います。

でも逆に、ちょっと思うのは
たくさんのものを次々につくれる環境って、
突然変異が起きる環境でもあるかなあ、と。
ほぼ日
ああ、なるほど。
村井
絶え間なく出し続けていくなかで
おもしろいものが、
いきなり「ポン!」って出てくるというか。
ほぼ日
バット振り回してたら
ものすごいジャストミートしちゃった的な?

‥‥あるかもしれない。
村井
出版って、その「粗製濫造」の部分に
おもしろみのひとつが
あるんじゃないのかなあっていう気持ちも
もう一方で、持ってるんです。
ほぼ日
出版にかぎらずですけど、
昨今の「ていねいにやってます」という流れを
体現してるようなナナロク社さんから
真逆な意見が出るとは思いもよりませんでした。

おもしろいです。
村井
ていねいさにこだわりすぎちゃうのも
「弱さ」になりうるのかなあと思ってます。

だから、今は年6冊とか8冊とかですから
ぜんぜんできてませんけど、
気持ち的には
「粗製濫造やったるぜ!」みたいな(笑)。
ほぼ日
とにかく「打席に立ちたい」ってことですね。
よくわかりました。

でもたしかに、自分が手がけた本だったら
右から左へつくった本でも、
やっぱりかわいかったりするものですよね。
村井
そう、時間がなかったから
心がこもらないってことも、ない気がする。
ほぼ日
そのようななか、
ナナロク社が出した最大のヒット作が
今、目の前にいる
川島小鳥さんの『未来ちゃん』ですが。
村井
はい。
ほぼ日
写真集で「11万部」売るなんて、
じつにめずらしいことなわけですよね。
村井
ええ、めずらしいと思います。
ほぼ日
売れたという事実がすでにありますから
今では、ぼくらのような門外漢も
「これは、たしかに売れそうだ」とか
言えますけど
はじめて見たときは、どう思われました?
村井
入社直後の坂下が
「こういう写真展があるんです」って
小鳥さんの『未来ちゃん』のDMを
見せてくれたんですが、
そこに印刷されていた写真1枚を見て、
「すごい。これは本当に、とんでもない。
 もっともっと見たい。
 今すぐにご本人に会いに行って、
 写真集にして出したいって言いたい!」
‥‥と、思いました。
ほぼ日
当時のナナロク社さんって‥‥。
村井
まだ会社を立ち上げて2~3年目、
社員の数はたったふたりの、
本当に名もない
吹けば飛ぶような出版社だったんですが
「ウチでやらせてください!」
ってお願いしたら
小鳥さん、快くOKしてしてくださって。

その後、展覧会が評判になって、
次から次へと、それこそ大手出版社からも
オファーが来たらしいんですが
小鳥さん、
「ナナロク社で」って言ってくれた。
ほぼ日
小鳥さんは、なぜ?
小鳥
んー‥‥なんでだっけ(笑)。

やっぱり、いちばんはじめに来てくれたし、
ナナロク社さん以外というのは
ぜんぜん、考えもありませんでした。
ほぼ日
うれしいことですよね。

立ち上げたばかりの小さな出版社の、
若い社長さんにしてみたら。
村井
だから、何としてでも、
絶対、最高の形にしなきゃと思いました。

写真集の初版というのは
せいぜい2000部、3000部の世界なんですが
はじめから1万6千部、刷りました。
ほぼ日
おお、勝負に出ましたね。
村井
はい、出ました。

しかも『未来ちゃん』でまだ10冊目で
実績のない出版社だったし
はじめての印刷所さんだったこともあって
印刷代を「先払い」しないと
印刷してもらえないような状況でした。
ほぼ日
「信用」がないから。はぁー‥‥。
村井
もう、お金をかき集めて、かき集めて。

あちこち駆けずり回って
ようやく集めたお金で印刷したんです。
ほぼ日
よかったですね‥‥売れて。
村井
ほんとに。
ほぼ日
でも、11万部売れるなんて思いました?
村井
んー‥‥まわりの人たちからは
「そんなに刷っちゃって大丈夫?」って
すごく心配されました。
ほぼ日
そこまで売れた前例が
なかったわけですものね、それまでは。

でも「展覧会のDMを見た」という
一瞬の出会いが
あの『未来ちゃん』の、きっかけでしたか。
村井
そうですね、本当に出会いのおかげ。

小鳥さんとの出会いはもちろん、
ナナロク社に坂下が入ったのも出会いだし、
ひとりひとりの人と、
真剣に出会っていったらできた本というか
人とのつながりのなかで
生まれてくれた写真集だなって思ってます。

川島小鳥『明星』より 

<つづきます>

2015-02-11-WED

information
小鳥さんの最新作、『明星』。

3年間で30回、台湾に通って撮りためた
約7万枚の写真。
『明星』には、そのうちの200枚ほどが
収録されています。
クスッと笑えたり、
ジッと目を離せなくなったり、
どこかノスタルジーを感じたり。
『未来ちゃん』の延長線上にありながらも
新しい小鳥さんに出会えます。
でもやっぱり「ああ、小鳥さんの写真だー」と
思えるような作品が並びます。
見ていて、たのしい写真集です。

明星

『明星』
川島小鳥 ナナロク社 3000円+税
ご購入はこちらのナナロク社さんのページ
ごらんください。

その『明星』の期間限定ショップを
		 TOBICHIにオープンします。

「HOBONICHIのTOBICHI」で
『明星』の期間限定ショップをオープンします。
会場では『明星』を
本屋さんに並ぶすこしまえに
立ち読み・ご購入いただけるほか
小鳥さんが台湾で撮った写真を展示し、
小鳥さんが台湾で見つけた雑貨を
すこしだけ、販売したりもします。
台湾の雰囲気を
のんびりと感じられるようなお店ですので、
気軽にあそびにきてください。

明星 ~小鳥がのぞいた台湾~

会場 HOBONICHIのTOBICHI
住所 東京都港区南青山4-25-14
会期 2015年2月11日(水・祝)~2月15日(日)
時間 11:00~19:00
※くわしくはこちらの特設ページをご覧ください。

川島 小鳥(かわしま・ことり)

写真家。1980年東京生まれ。
早稲田大学第一文学部仏文科卒業後、
沼田元氣氏に師事。
2006年、第10回新風舎平間至写真賞大賞受賞。
2007年、写真集『BABY BABY』 を発売。
2010年、大ヒット作『未来ちゃん』で
第42回講談社出版文化賞写真賞を受賞。
2014年、谷川俊太郎さんの詩と
コラボレーションした『おやすみ神たち』を発売。
そして2015年、3年間で30回、
台湾に通ってつくった待望の最新写真集
『明星』を刊行。

とじる