あの『未来ちゃん』の川島小鳥さん、
		3年ぶりの新作が
		すごい造本だなと驚いていたら
		版元は、やっぱりナナロク社だった。

	第3回
	明星のこと、台湾のこと。
ほぼ日
今回の小鳥さんの『明星』は
30回も台湾に通ってつくったんですよね。
坂下
はい、前作の『未来ちゃん』の刊行は
2011年3月だったんですが、
その年の6月、
小鳥さんの目線が台湾のほうへ向いてから
2014年6月まで、まる3年で30回。
小鳥
はい。
坂下
途中、語学学校に留学などもされ。
小鳥
はい、OL的な(笑)。
ほぼ日
台湾が好きになっちゃったんですか?
小鳥
そうなんです。
ほぼ日
きっかけは?
小鳥
『未来ちゃん』を撮り終わる直前に
急に「台湾へ行きたいなあ」と思ったんです。

行ったことなかったんですけど、なぜか。
そしたら、たまたま、
『未来ちゃん』の写真を展示しませんかって
台湾に呼んでくれた人がいて。

で、「イェーイ!」って(笑)。
ほぼ日
行ってみて、どうでしたか?
小鳥
すごーく、いい場所だなと思いました。
とくに、人が優しくて、距離が近くて。
ほぼ日
その感じは、
この写真集のなかにすごく出てますよね。
小鳥
あ、そうだと、うれしいです。

はじめから
『うる星やつら』みたいな本にしたいと
思ってたんたんですが、
そういうふうにできたのも、うれしくて。
ほぼ日
それは‥‥いったいどういう?(笑)
坂下
編集担当としてご説明しますと
『うる星やつら』って
ラムちゃんとあたるの物語ではあるけれど、
他にも濃いキャラがたくさん登場し、
1話完結としても読めるし、
通しのストーリーとしても楽しいですよね。

小鳥さん、そういう本にしたいって。
ほぼ日
なるほど、プリンを食べてる女の子とか、
ここに出てくる人たちって
小鳥さんの写真らしくかわいいんですけど、
それだけじゃないというか、
独特の「味わい」がありますもんね。

社長である村井さんは
今回の作品について、どう思っていますか?
村井
合計7万枚くらいのなかから
200枚強の写真をセレクトしていますけど、
どれもキラキラしている。

「あれもいい、これもいい」と思いながら
小鳥さんの3年間の仕事を拝見してました。
ほぼ日
思えば「3年間で30回」って、
ザックリ言って
ひと月に1回くらい行くような勢いですね。
坂下
この3年間、小鳥さんから、
「最近の台湾は、こんな感じです」って、
定期的に見せていただいてたんですけど、
それが毎回、とっても楽しみで。
ほぼ日
そうですか。
坂下
私、写真の専門家ではないですけど
小鳥さんの写真って
「ここがすごい!」というようなものでは
ないって気がするんです。

でも、みんなに見てほしい写真だと思う。
ほぼ日
ああ、そうかも。
坂下
見てると、なぜかうれしくなったり、
ちょっと泣いてしまいそうになったり‥‥
そういう気持ちを閉じ込めるんじゃなくて
ワーッて、
外にぐんぐん広がっていくような、
まわりが明るくなる本にしたいって思って、
つくっていました。
ほぼ日
そういう編集者の気持ちって大事ですよね。
どうしたって、本に滲み出てきますものね。
村井
そうなってたとしたら、うれしいよね。
ほぼ日
あと、川島さんに会うのははじめてですが、
こういう人だから
こういう写真が撮れるんだなと思いました。

さわやかなんだけど、親密な感じというか。
坂下
それは、撮られたほうも同じかもしれない。

というのも、私、英語ができなくて、
もちろん中国語なんかできないんですけど
台湾の人って、私がわからなくても
諦めずに、簡単な英語で
ずっと話しかけてくれたりするんですよね。
ほぼ日
人懐っこい?
坂下
そう、どうにかして
距離を縮めようとがんばってくれるんです。
小鳥
優しくて、親切で、ちょっと適当。
村井
そうなんだ(笑)。
小鳥
そして「バイバイ」って言うのが、超早い。
ほぼ日
それは、どういう‥‥?
小鳥
日本とかだと、バイバイするときに、
何度も手を振ったりして
なんか、1分くらいその儀式があるけど、
台湾の人たちは
ぼくがタクシーとかに乗り込んで
バイバイしようと振り返ったら、もういないの。
ほぼ日
そういう意味か(笑)。
小鳥
それまで、すごい盛り上がってたのに。
坂下
去り際が潔いんですよね(笑)。
ほぼ日
そういう部分も含めて、この写真集からは
台湾の人たちの親しみ感が出てますよね。

「あぁ、いい国なんだろうな」ってことを
教えてもらえるっていうか。
小鳥
はい、「楽しい星」っていうことです。
ほぼ日
ナナロク社さんとしては
今回も部数、がんばられたんですか?(笑)
村井
はい(笑)、初版で8000部なんですけど
写真集でその数というのは、やっぱり。
ほぼ日
多いぞと。
村井
もちろん内容が素晴らしいからなんですけど
「いい本なのに、
 ほんのちょっとの人しか買わない」
という現象って、
本質的じゃないなって思っているので。
ほぼ日
いい本なら、たくさんの人に買ってほしい。
村井
そうですね。本や写真集というものが
あまりにこう、
ありがたいものとして扱われるんじゃなく
ふつうの本屋で、ふつうの値段で、
ふつうの生活の延長線上で買った本が
いつのまにか
自分にとってのスペシャルな本になる。

そんな感じが、理想としてはあるんです。
ほぼ日
で、理想でありつつ、
本当は、そっちのほうが「ふつう」だとも
言えますもんね。
村井
そう。だから、一部の書店だけでなく、
いろんな町の本屋さんに、
買える値段で置かせてもらおうと思ったら
やっぱり
8000部くらいはきちんと刷らないと。
ほぼ日
おもしろいし、勉強になります。
村井
いえいえ、そんなそんな(笑)。

でもまじめな話、今回、小鳥さんが
ナナロク社から『明星』を出してくださって
本当にうれしいんですけど
だからといって、うちが、
小鳥さんの次の作品をやらせてもらえるかは
わからないですよね。
ほぼ日
ええ。
村井
だから、なんて言うんだろう、
つねに「ナナロク社とやってもいいな」って
思ってもらえる会社でいたい。

それは、
ぼくたちにとって本当にうれしいことですし
小さい会社なりの「誇り」でもあるんです。
ほぼ日
そうですよね。
村井
だからこそ、どの本も、
ちゃんとつくって、ちゃんと売りたいです。
ほぼ日
ナナロク社さんの「今後の野望」とか、
あったら聞かせてください(笑)。
村井
うちの作家の本で、ノーベル文学賞をとります。
ほぼ日
おお!
村井
いや、大きなこと言いすぎてますけど(笑)、
でも、ジャンルで言うと
ノーベル文学賞をとるのは詩人が多いんです。

だから、これからどんどん世界へ出て行って、
いい詩人がいたら
バンバン書いてもらって、うちから出して‥‥。
ほぼ日
ノーベル文学賞をとる。いいじゃないですか。
村井
野望なんで、
バカだなーって
笑われるくらいがいいんで(笑)、
そんなことを考えてたりします。

ノーベル文学賞って、
そもそも「作家個人」に与えるもので
本が対象じゃないですし。
ほぼ日
ぜひ、がんばってください。
村井
あの‥‥この話をして
そんな真剣に「がんばって」と言われたのは
はじめてなので、うれしかったな、今(笑)。
ほぼ日
いやあ、がんばってほしいですよ、本当に。

今の時代って、
大きい小さいって、あんまり関係ないですし。
村井
そうですよね、うん。
ほぼ日
昔から言われていることでしょうけど
出版社自体、
規模の割には影響力が大きいですよね。

今だって「11万部」もの本を
全国に、たった4人でばら撒いているわけで。
村井
小鳥さんの本は、海外でも売れてます。
『未来ちゃん』の場合、
11万部のうち「3万部」は
日本でつくって海外に輸出しました。
ほぼ日
そういう意味でも、期待してます。
ナナロク社さんの本の、ノーベル文学賞。
村井
ありがとうございます。
にわかに、本気になってきました(笑)。

川島小鳥『明星』より 

<おわります>

2015-02-12-THU

information
小鳥さんの最新作、『明星』。

3年間で30回、台湾に通って撮りためた
約7万枚の写真。
『明星』には、そのうちの200枚ほどが
収録されています。
クスッと笑えたり、
ジッと目を離せなくなったり、
どこかノスタルジーを感じたり。
『未来ちゃん』の延長線上にありながらも
新しい小鳥さんに出会えます。
でもやっぱり「ああ、小鳥さんの写真だー」と
思えるような作品が並びます。
見ていて、たのしい写真集です。

明星

『明星』
川島小鳥 ナナロク社 3000円+税
ご購入はこちらのナナロク社さんのページ
ごらんください。

その『明星』の期間限定ショップを
		 TOBICHIにオープンします。

「HOBONICHIのTOBICHI」で
『明星』の期間限定ショップをオープンします。
会場では『明星』を
本屋さんに並ぶすこしまえに
立ち読み・ご購入いただけるほか
小鳥さんが台湾で撮った写真を展示し、
小鳥さんが台湾で見つけた雑貨を
すこしだけ、販売したりもします。
台湾の雰囲気を
のんびりと感じられるようなお店ですので、
気軽にあそびにきてください。

明星 ~小鳥がのぞいた台湾~

会場 HOBONICHIのTOBICHI
住所 東京都港区南青山4-25-14
会期 2015年2月11日(水・祝)~2月15日(日)
時間 11:00~19:00
※くわしくはこちらの特設ページをご覧ください。

川島 小鳥(かわしま・ことり)

写真家。1980年東京生まれ。
早稲田大学第一文学部仏文科卒業後、
沼田元氣氏に師事。
2006年、第10回新風舎平間至写真賞大賞受賞。
2007年、写真集『BABY BABY』 を発売。
2010年、大ヒット作『未来ちゃん』で
第42回講談社出版文化賞写真賞を受賞。
2014年、谷川俊太郎さんの詩と
コラボレーションした『おやすみ神たち』を発売。
そして2015年、3年間で30回、
台湾に通ってつくった待望の最新写真集
『明星』を刊行。

とじる