小網代の森5周年記念企画 花さく小網代、花さく三浦! みんなで小網代にハマカンゾウを植えにいこう!

神奈川県三浦半島の先端にある、小網代の森。
一般開放から5周年を迎えた今年、
ほぼ日乗組員と「ほぼ日の学校」受講生、
みんなで小網代の森に集合して、
ハマカンゾウを植えることになりました。
当日はテキスト中継をする予定なのですが、
「そもそも小網代ってなに?」
「ハマカンゾウってどんな花?」
という読者もいらっしゃると思います。
そこで予習復習をかねて、
30年以上保全活動をされてきた岸由二さんに、
小網代の歴史、ハマカンゾウのこと、
いろいろなお話をうかがってきました!

2湿原に戻すまでのこと

──なぜ小網代の森は、
急に乾燥しはじめたのですか? 
1980年代までは美しい自然だったのに。

もともと小網代は「里山」なんです。
基本的に里山というのは、
人が田んぼをやってる土地のこと。
そして田んぼには水が必要です。
じつは田んぼって「水がたまる池」のことです。

──ああ、そうか。池ですね。

たくさんの池をつくるには、
高いところに水をためて、
そこから次の低い池に水が流れるように、
全部の池をうまくつなげています。
小網代は立地的には谷だから、
もともとは「棚田」の湿原だったんです。

──なるほど、棚田だったんですね。

ところが田んぼの水路というのは、
人の言うことを聞く必要がないから、
大雨が降ったりすると流路が変わります。
水は最短距離で下に降りようとするので、
なにもせずに放っておくと、
どんどん流れが変わってしまうんです。

──あー、たしかに。

人が農業をやってるうちは
水路をコントロールできるんだけど、
人の手を離れてしまうと、
水はどんどん低い方へ流れようとします。
そうするといままで潤っていた場所に
水が流れなくなって、
びしゃびしゃの湿地だったところが、
どんどん乾燥した土地になっていくんです。

2005年に小網代の保全が決まったとき、
全体的に乾燥地に様変わりしていました。
実際に山火事も3回ほどあった。

──そういう危険もあるんですね。

小網代は2011年に「特別保護地区」になりますが、
2009年の時点ですでに
この乾燥をどうやって食い止めるかが、
県の重要課題になっていました。

そのときある研究者が
「乾燥地になった理由は、
木が地面の水を吸って蒸発させるからで、
森の木をたくさん切れば問題は解決する」
とアドバイスしてしまった。
もちろんそんなのデタラメなんです。
だけど、その案で予算が下りてしまって、
小網代の尾根の木を3分の1切るという通達が、
急にぼくのところに届いたんです。

──えぇ?!

本来、小網代は岩山だから、
木を切ったらそれこそおしまいです。
もっとひどいことになります。
そんな無駄なことをするなら、
まだゴルフ場のほうがいいくらいです。

だからそのあと行政と交渉して
「ぼくに3ヶ月の時間をくれたら、
木を切らずに湿地帯に戻します」
と説得したんです。
3ヶ月というのは、
ちょっと大口ではあったんだけどね(笑)。

──でも、アイデアはあったんですよね?

もちろんです。
流域管理が専門だったから、
河川が氾濫しない研究をずっとしていました。
だから逆を言えば、
何をどうすれば川が氾濫して、
土地が水浸しになるかもわかる。

──おぉー!

まず、いまの川の流れを調べて、
そこに土砂が流れて河道閉塞が起こるように、
川の中に杭をいくつか打つ。
それだけで昔の農家がつくった川に
水を戻すことはできるんです。

──その作戦はうまくいったんですか?

その作戦にはひとつ問題があって、
いくら計算通り杭を打ったとしても、
大雨が降ってくれないと
水の流れは変えられないんです。

──あぁ、大雨がふらないと‥‥。

期限までに大雨が振らなかったら、
もうそこで小網代はおしまい。
そこは神頼みするしかなかった。

──そして結果は‥‥?

もうすぐ約束の期限というときに、
超豪雨が降ってきた。

──すごい!

あれは忘れもしない2009年10月18日。
その大雨のおかげで、
昔の農家が作った川に水が一気に流れはじめて、
笹原一面を水浸しにすることができたんです。
それを見た神奈川県の職員は
「岸先生は魔術師だ」って言ってましたね(笑)。

──そのときは相当な数の杭を打ったんですか?

いやいや、20本ぐらい。

──それだけ?! 

ほんとはもっと打つ予定でしたが、
予想以上の大雨が降ったおかげで、
たった1日で土砂が川をふさぎ、
流路が変わった。
かかった予算は、たぶん2万円くらい。

──魔術師だ(笑)。

2009年の10月にそういうことがあって、
木を切る必要がないことがわかってもらえました。
ただし、一度湿原になったからと言って、
そこで手を止めてしまったら、
また元の乾燥地に戻ってしまいます。

──あー、戻っちゃうんですね。

ちゃんと継続して手入れしないと、
水路がまた泥でうまっちゃうんです。
泥がたまったらすくい取って、
杭が腐っていたら新しく打ち直す。
そういう作業はいまもつづけています。

杭打ち作業をするスタッフのみなさん

──いわゆるメンテナンスの作業を、
ずっとされているわけですね。

そうです。
とにかく、そういう方法で
2014年までに谷底の乾燥していたすべての場所を
湿地に変えることに成功しました。
そこからは湿地をキープしながら、
もっと「キレイな湿地」を目指して
細かく整備している段階なんです。

小網代が湿地に戻ったと言っても、
まだまだ「トラ刈り」の状態なんです。
トラ刈りの湿地だから、
ちょっと困った草もあったりします。
それらを人の手で抜いたり、
ホタルやトンボが増えるように水路を変えたり、
チョウが集まるように
花の咲く植物を植えたりしています。

──小網代には珍しい昆虫がたくさんいますからね。

それは「小網代を湿原にする」とは別の話で、
もっともっとピカピカの、
多様性あふれる小網代にしようという計画。
それを実現させるために2012年から
「小網代にハマカンゾウの大群落をつくろう」
というプロジェクトをはじめました。

──それが今度、
ほぼ日がお手伝いさせていただく作業ですね。

そうです。
それが未来につづく大計画
「ハマカンゾウプロジェクト」です。