岸惠子さん+糸井重里 対談 かわいい人の、 ふたつの共通点。
岸さんのプロフィール

第7回 孤独と自由。
糸井 岸さんのお話を聞いてると、
ネガティブな部分は、
「艱難辛苦」っていうひと言の中に、
全部込めちゃってる感じがします。
缶詰みたいなその言葉に全部入れちゃって
「ここにあるから、いいや」みたいになさってる。
岸 そうね。そしてなおかつ、
「これがあるから、いまの私よ」
というような気持ちもしています。

私は、自分がある日ふっといなくなる、
その景色がよく見えます。
だって、世界も人生も
どんどんうつろっていくものですから。
糸井 なるほど。
でも、うつろいとして物事を考えるのは、
日本人はとても苦手だと思います。
岸 あら、そう?
糸井 日本の人は、貯めておくのが
得意なんじゃないでしょうか。
お米でいえば、蔵のなかに俵があって、
「これで飢え死にしないぞ」という
ストックの保障ですね。
だからこそ、毎日元気に畑を耕せる。
岸 パリでの結婚当初、1ヶ月に1度、
5〜6人の作家が我家に集って
ひとつのテーマを話しあったのね。
その日のテーマは「ブルジョワジーとは何か」
即座に応えたのが誰だか忘れたけど
「ブルジョワジーの特権は貯め込むこと」
と言ったの。
似ていますね。
糸井 1俵あっても、足りないから2俵にする。
蔵をいくつ持ってても、
「いやいやいや、何が起こるかわからないから、
 もっと蔵が欲しい」
と言う。そういった、
ストック型の発想をすると思うんです。

ところが岸さんは、
根っこを張ったまま動かないことのほうが
有利だと知っていたはずなのに、
抜いて出かけた。
そこから、ストックではなく
フローになっていくわけですよね。
岸 そうです。
糸井 何度でも、抜いたり植えたり、
抜いたり植えたり。
岸 そう、してるんです。
そのたびに、何かがくっついて、
何かが消えていきます。
それは当然のことではないでしょうか。
糸井 ああ、おもしろいですね。
ストック型の人から見たら、
根がないように思えたりするけど。
岸 そう。日本では
ひじょうに共感を得られないタイプです。
糸井 あるいは、
「孤独でしょう?」と言う人がいたり。
岸 そう。
だけど、孤独くらい素敵なものはないですよね。
孤独に取り込まれちゃって
暗くなったらおしまいですけど、
孤独をこっちに取り込むと
自由というものが息づいてきます。
糸井 そうですね。
いちばん大切なものは、きっとそうです、
自由ですよね。
岸 ええ。自由です。
糸井 ぼくがいまやってる
「ほぼ日刊イトイ新聞」の仕事をはじめたとき、
自分たちの理念のようなものを、
OnlyはLonelyではないという言葉にして
「Only is not lonely.」とあらわしたんです。
でたらめの英語なんですけど、
それがぼくらのスローガンなんですよ。
岸 なるほど。
糸井 夜中にひとりでいるときに、
みんなが孤独でないはずはない。
それから、ものを深く考えるときには、
必ず人はひとりです。
岸 そうです。
糸井 浅く考えたり、やりとりするときは、
チームがいいんです。
でも、命に関わるような真剣なこと考えるとき‥‥
たとえば岸さんが小さい頃に考えた
「海の果て」について考えることは、
ひとりでしかできないんですよ。
岸 ええ、そうです。
私も常にそのように思っています。
糸井 そういう人同士が、
「俺もだよ」と言い合うのが
連帯というものだとぼくは思います。
「いるんだ、俺みたいな人がもうひとり」
でも、数えてみたら、結構、いる。
岸 ええ。世界に散らばってる私の女の友達は
みんな、そういう人たちです。
ハンガリーにもいるし、
ベルギーにもいる。
みんなの話を、今回の小説に
もらっちゃったんですけどね。
みんなずけずけと、いろんな話をしてくれますから。
糸井 あぁ、そうか、そうか。
小説の中に入ってるんですね。
岸 みんな、自由でおもしろい人たちです。
糸井 類が友を呼んでるんですね(笑)。
こうしてお話ししていると、
岸さんは、意味から全部逃げちゃっても、
成り立つような生き方を
してらっしゃるような気がします。
人は、やっぱり
意味というものにとらわれすぎですから。

右なのか、左なのか、
重いのか、軽いのか、
どっちが辛くて、どっちが楽なのか。
岸 白か黒か、とかね。
糸井 「私とあなたはどっちが愛してるのか?」とか、
「それをもっと深く言ってみなさい」とか。
岸さんは、そういう問いかけを
全部消しちゃってもいいと思ってらっしゃる。
昔の日本人だったら、
「目を見ればわかる」と言ったみたいな(笑)。
岸 あぁ、昔の人、いいこと言うわねぇ。
糸井 ばれますよね。
どんなに言葉を尽くして演説したとしても。
岸 嘘も本当も、目でばれます。
糸井 意味にとらわれず、その都度、
人と人とが、触れ合ったり、悲しんだり、
喜んだりして、しかもストックがない。
岸 ストックがあったら重荷ですよ。
歩くのに大変じゃないですか。
糸井 岸さんは、それを実践してきたんですね。
岸 そうですね。
糸井 いやぁ、ほんとうにやってきたんだ。
岸 まだ途中ですけれども(笑)。

(つづきます)

 

2013-11-13-WED


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