中井貴一さん、ほぼ日の給食へようこそ。

第2回 中国の遺跡で考えたこと。

中井 糸井さんの仕事の「発想」は
「みんなが何を喜ぶか」
みたいなところから、はじまってますか?
糸井 たぶん、お互いに似てると思います。

さっき、中井さんが「お客さん」について
おっしゃったことって
ほとんど、ぼくが考えてることと同じだし。
中井 そうなんですか。
糸井 喜んでるかどうか‥‥というのは
お客さんの顔を見てみればわかることですが、
「受け取る側に立って考えてみたら
 うれしくないだろ?」
といういうような言いかたは、よくしますね。
中井 なるほど。
糸井 ま、食べておいしいから作ったとか、
動機はすごく単純なんですけど。
中井 物事を突き詰めていくと、
どんどん単純化していく気がしています。

つまり、世の中で生きていくこと自体に
「矛盾」があるじゃないですか。
糸井 ええ。
中井 だからこそ
「矛盾? ええ、ありますよ。
 で、そんな世の中を、どう楽しみます?」
というか‥‥。
糸井 いや、まったく同じですね。 
中井 ですから、
さまざまな問題が起きてしまったときこそ
「楽しみましょう」と提案していくのが、
ぼくらの仕事のような気がして。
糸井 中井さんがおっしゃっていること、
よくわかります。

ちっちゃくても光って見えたり、
あたたかく見えたりするものがあったら、
やっぱり目が行きますから。

あの‥‥『銃・病原菌・鉄』って
ベストセラーを書いた
ジャレド・ダイアモンドさんという
75歳の鳥類学者がいるんです。
中井 ええ。
糸井 そのかたが
それぞれの人生に大きな影響を与えるのは
「何年に、どこで生まれたか」
ということだと、おっしゃってるんです。
中井 生まれた年と、場所?
糸井 彼は、1937年のボストンに生まれましたが、
同年代の学生どうしでさえ
生まれた場所によって、まったく境遇が違う。

1年ずれてたら、戦争中だったかもしれない。

そう考えると、
「何年に、どこで生まれたか」
ということが、人生にとってすごく大きいと。
中井 なるほど‥‥年と場所ということでいうと
去年、中国へ行ってきたんです。

古代の王朝の歴史を探る番組で。
糸井 ええ。
中井 実在が確認されている最古の王朝、
「殷(いん)」の前の
「夏(か)」王朝についての内容でした。

紀元前2000年頃、
つまり今から約4000年前の王朝。
糸井 はい。
中井 遺跡の発掘現場付近に到着したら、
一面バーッと、ものすごいトウモロコシ畑。

で、まずは何本か、
遺跡の現場まで「歩き」のシーンを撮って。
糸井 ええ、ええ。
中井 徳川埋蔵金じゃないですけど、
「採掘現場」って
それらしいイメージがあるじゃないですか。

で、現場はどこなんだろう・・・と思いつつも
ちょっと「もよおして」きちゃったもので
「ごめん、おしっこしてきていい?」
と、スタッフに言って、木陰で、失礼して。
糸井 まあ、トイレなんかないでしょうからね。
中井 そうなんですよ(笑)。

で、ぶじ済ませてきたあとに
「そろそろ遺跡の発掘現場に行こうよ」って
スタッフに言ったら
「中井さん、ここがそうなんですよ」と。
糸井 あはは(笑)。
中井 「えっ? ここが?
 ここが、都があったところなの?」

「いま、中井さんが
 おしっこした場所、まさに、そこです」
糸井 歴史にマーキング‥‥(笑)。
中井 だって、一面のトウモロコシ畑なんですよ?
まさか、
そこに夏王朝の宮殿が建っていたなんて‥‥。
糸井 へぇー‥‥。
中井 「今、栄えている町が、
 何十年か前の昔は畑だった」
というような話はよくあるじゃないですか。
糸井 ええ。
中井 しかし、4000年もはるか昔ににさかのぼれば、
人間が溢れ、宮殿が建っていた。

それが、いまでは閑散として‥‥。
糸井 一面の、トウモロコシ畑。
中井 緑に包まれた場所に、還っていたんです。
その光景を見て、ぼくはこう思いました。

「人間の歴史とは、
 ただ繰り返してるにすぎない。
 わたしたち人間は横柄になってはいけない。
 大自然の中で『生かされている存在』であり
 地球を制してるみたいなことを
 思ってはいけないんだ」‥‥と。
糸井 なるほど‥‥おしっこしておきながら(笑)。
中井 ‥‥ええ、そのことについては
たいへん申しわけないんですけれど(笑)。

(つづきます)

2013-05-20-MON

©HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN