サユミ

私は震災後に気仙沼に来て、
いろんな方々に出会いました。
斉吉の社長や和枝さんは、いつも
「明るいほうを見る」「たのしいことをやろう」という
姿勢でおられました。
私はこれまでの数年間、おそらく
そこをいちばん勉強させていただいたと思います。
ほんとうに「うしろに引っ張る力」は強い。
しかも、楽なんです。

糸井

なるほど、楽なんだね。

サユミ

場合によってはそうです。
うしろを向いていたら、援助してくれる人もいます。

糸井

うしろ向きの人を助けるのは必要で、
大事なことだけど。

サユミ

でも、ずっとそれをあてにして
うしろを見ているわけにはいかないです。

糸井

助け方って、ほんとうは
「助けられる人がどうしたいか」によって
方法が変わるんですよね。
だから誰も彼も同じと思うのはよくない。
「先に行ける人は行け」ということを、
ちゃんと考えに入れなくてはなりません。

復興のニュースも、
「ここが前に進んだ」ということを表したくても、
「まだこんなにダメだ」ということのほうが
伝わりやすいです。
でも、斉吉さんのような人たちの
「いまやれることをやっている」という姿を見ると、
ぼくらは手伝う勇気が出ました。

サユミ

私たちが気仙沼で志の輔さんの寄席を開催したときは、
震災から１年でしたから、
「まだそんな状況じゃない」と
言えれば言えた時期だと思います。
「こちらを応援するだけですか、
あっちはどうするんですか」
という声もありました。
でも、そういう意見をくださる方は
当事者じゃない人がほとんどでした。
ほんとうに長靴はいて、道で交通整理してた人たちが
こう言ってるんだから、と知っている勇気が、
気仙沼にいた私にはありました。

和枝

うちはいちばん被害のあったエリアに
会社も店も家もありましたので、
みなさんにお会いすると、
たいへん暗い顔をなさるんです。
つまり、私たちの被害の状況に、
話を合わせてくださろうとするんですね。
そうするとだんだん
「つらい話の連鎖」になってしまいます。

「私もこんなふうだったの」
「同じくらいに大変だったよね」
というところで合わせようとすると、
これはとてもとても、精神状態がよくなくなる。
自分がますますあかるい気持ちになれない。だから
「いや、大丈夫だから、がんばっぺ」
と言ったほうが、あのときの自分が楽でした。

糸井

ぼくたちはのちに
「できることをしよう。」というタイトルの
本を出しましたが、
ほんとうにそのタイトルどおりかもしれませんね。
先を見る、そして、いまできることをする。
このふたつともが重要です。
先を見てばかりで、できることをしなかったら、
死んじゃうから。

和枝

毎日のことと、その先のこと。
生きていくためにはどちらも大事です。

糸井

ちなみに「できないことをしよう」は、
あんまりよくないよ。

サユミ

「できないことをしよう」は、
時間的なことを考えても、ちょっとむだですね。

糸井

じっさい当時は
「それはできないだろう」という提案も
たくさんありましたね。
でも、そんな中、
「できないこと」に見えて
「できる」だった人もいます。
あの三菱自動車販売の千田さんですよ。
震災前から、大島までの橋をかけるって
言ってた。

サユミ

金額の規模もそうとうなものです。
あれは「できないこと」じゃなかったんですね。

和枝

震災後は特に、ああいう
未来につながることを言ってくれる人がいたことに、
心が救われました。

八木澤商店の河野さんも
以前おっしゃってましたけど、
あの震災当日の夜でさえ、
なんとかちょっとでもおもしろいことを
言ったりしようとする人がいて、助かりました。

みんなであの夜を眺めて呆然としながらも、
なにかしら笑ってよ、という話を
ちらほらしてもらえると、落ち着く自分がいました。
いつでもなんでも「バランス」というものがあります。
「これだけ」ということはないんですよね。

糸井

ああ、そういう方が、
震災の夜にもいらっしゃったんですね。
よそ者は、その役はなかなかできません。

和枝

アンカーコーヒーの小野寺家のみなさん、
ほんとうにたのしいです。
いつでもほんとに、
あの方たちがいらっしゃるとたのしい。

サユミ

アンカーコーヒーのみなさんは、
ムードメーカーです。

糸井

おかしいし、たのしいし。

サユミ

おかあさんのかよこさんも、
「気仙沼ニッティング」の編み手として
大活躍されています。

和枝

ああ、そういえばそうですよ、
「気仙沼ニッティング」ですよ。
「気仙沼ニッティング」さんができたことも、
たいへんありがたかったです。
私たち家族にとっても大きなことでした。

糸井

「気仙沼ニッティング」の御手洗瑞子社長は、
長いあいだ
斉吉さんに下宿させていただきましたね。

和枝

おかげであの頃、私たちは
瑞ちゃんと１週間のうちに３日も４日も
いろんな話をさせていただきました。

サユミ

瑞子さん、じっじとばっぱとも
よく議論してましたよね。

和枝

はい（笑）。

糸井

ばっぱは、
瑞子社長を娘だと思ってますし。

和枝

はいはい、ほんとです。
「瑞ちゃんを娘だと思ってる」
と、母は毎回言うんですけど、
‥‥孫だっつうの（笑）。

糸井

それはおもしろいお話ですね（笑）。

サユミ

瑞子社長を、和枝さんと同世代的に思ってて（笑）。

和枝

ほんとうにあの頃の私たちはいつも、
瑞ちゃんと真剣に仕事の話をしました。
瑞子さんがうちの家族になって、
ガッチリ話ができるようになったあの日々は、
うちの財産になっています。

（明日につづきます）

2018-11-05-MON