世界の車窓からナレータの石丸謙二郎さんに聞く 世界の車窓からナレータの石丸謙二郎さんに聞く

第02回 世界が曖昧しゃなくなった。

──
石丸さんは、29年、10000回ちかくも
ナレーションを務めてこられたわけですが
『世界の車窓から』って
あらためて、どんな番組だと思いますか?
石丸
世界中の列車に乗り込んで、
そこで起きる出来事を撮影して流すだけって
ほんと、めずらしい番組だと思うけど
なんだろう‥‥
「世界の観光大使」みたいなものかなあ。
──
車窓越しに
世界各地の風景を日本へ紹介してくれる、
観光大使。
石丸
しかも、それを一気にまとめてじゃなくて
毎日毎日チョコチョコと
数分ずつにちぎって食べやすくしてくれる、
ずいぶんマメな大使ですよ。
──
たしかに、30分とか1時間とかの
ボリューム感があったら
なかなか「毎日」は、難しいかもしれない。
石丸
あるときに、ひと月分くらいの「車窓」を
続けて観たことがあるんですよ。

ビデオに録っておいたものをね、ひと息に。
写真
──
ええ。
石丸
そうするとさ、毎回毎回、
「世界の車窓から。今日は‥‥」って
はじまるんだけど
15本目くらいから「うるさい!」と。
──
ご自身の声ですよね(笑)。
石丸
「わかった、もう車窓はわかりましたから、
 はやく内容に入ってくれ」と。
──
いいです(笑)。
石丸
だから、ああ、車窓という番組は
ひと月ぶん、
いっぺんに観るもんじゃないなと思ったし、
あの「2分ちょっと」って短さが、
これだけ長く続いている
大きな理由のひとつなんだと思ってね。
──
なるほど。
石丸
それに、俺、この「車窓」に関しては、
あまり仕事だと思ってないから。
──
あ、そうなんですか(笑)。
石丸
つまりね、
岡部憲治さんって番組プロデューサーが
「車窓」はじまった当初から
まったく自由にやらせてくれているんで、
「仕事」って気がしないんですよ。

ホラ、たいがい、どんな仕事にも
ストレスや緊張感があるもんでしょう?
──
ええ、自分が好きでやってることでも
きっと、何かしらありますよね。
石丸
俺の場合も
「ああ、今日のドラマの収録は正念場だぞ。
 セリフがこんなにあって、
 きっと、朝から晩まで時間がかかって、
 現場には、例の大御所がいて‥‥
 よーし、気合だ! 出陣だ!」
みたいな感じで出かけてくことも多いけど、
「車窓」の場合は、
「あ~今日は車窓かあ。行ってきまぁ~す」
みたいな感じ。
写真
──
肩の力が抜け切ってませんか(笑)。
石丸
ごめんね。
──
いや、でも、石丸さんのその感じは
明らかに、あの番組に出ていると思いますし、
そこがまた、いいと思います(笑)。
石丸
だって、旅って、
そういう気分でいくもんじゃない。
──
はい、「出陣だ!」と思って行く旅なんて、
なんだか、イヤですもの。
石丸
だから、そのせいもあるのか、
俺、テレビを観ていて
『世界の車窓から』の音楽が流れてくるとさ、
「ああ、『世界の車窓から』かあ‥‥。
 観てみるか‥‥ああ、俺かあ‥‥」という。
──
ほんとですか(笑)。
石丸
「この話、なんか知ってるぞ。
 あの山だろ? で、この川とその湖だろ?
 えぇとね、えぇと、
 あーそうそう、知ってる知ってるー‥‥
 ああ、俺がしゃべってるわ」
みたいな。
写真
──
まるでコントですね。
石丸
つまり自分がナレーションしている番組を
極めて客観的に観られるんですよ。
──
それは、ものすごい境地だと思います。
石丸
15年目くらいから、ずっとそうだよ。
──
番組を10000回、続けるっていうことは、
そういうことなんですね‥‥。
石丸
いや、それは知らないけど(笑)。
──
石丸さんは、世界の車窓から見える風景を
ずっと観てきたわけですから、
他の人より
世界のことを知ってるわけじゃないですか。
石丸
それは、そうかもしれないね。
──
そんな石丸さんからごらんになると
世界とか地球とかって、
どんなものだなって思われますか?
石丸
俺、ウィンドサーフィンやってるんだけど。
──
ええ、相当な腕前でいらして、
昨年12月に
台湾で開催されたスピードチャレンジでは
「時速73.71km」という
猛スピードを記録し、
日本人で2位に入賞されたと聞きました。
石丸
そう、まあまあがんばってるんだけど、
ウィンドサーフィンってね、
やってると「風」がわかるようになる。
写真
──
風。
石丸
それってつまり「大気の移動」でしょ?
地球規模のね。
──
ええ、なるほど。
石丸
‥‥と、いうようなことはね、
ウィンドサーフィンをはじめる前にも
頭では知ってたけど、
本当には、わかってなかったんですよ。

でも、ウィンドサーフィンはじめてからは
たとえば今、東京湾に吹いてる風は
地球のどのあたりから
どんなふうにして、たどり着いたのかって
地球規模で考える癖がつくんだな。
──
へえ、すごいですね。
石丸
今、俺の頬のあたりをかすめていった風は
あのへんの海の上で生まれて、
イギリスあたりで
プッとこかれた屁をちょいと乗せて
今ここでファーっと臭っていったんだなと。
写真
──
地球規模の放屁‥‥。
石丸
それと同じようなことを、
『世界の車窓から』にも感じるんです。

つまり、たとえば今回はブラジルだと。
──
ええ。
石丸
それって、
日本から見たら「地球の裏っ側」ですよ。

つまり、このブラジルの列車は
今、俺が座ってる地面の裏っ側あたりを
トコトコ走ってるんだってことを
単なる知識じゃなく、
「広がりのある感覚」として
理解するようになってきた‥‥というか。
──
おお。
石丸
世界が曖昧じゃなくなった‥‥というか。
──
実際に、映像として知ってるから。
石丸
で、そのブラジルのふところには
ボリビアという、
空気の澄み渡ったような国がある一方で、
そこからぐるーっと地球を半周し
東南アジアあたりに行けば
ムッと、モワッとするような気候の国も
あるんだけど、そこには
いつも笑ってる人たちばーっかり、とか。
写真
──
国をイメージするときに
国旗とか通貨とか肌の色とかじゃなく、
「ふつうの人の笑顔」が思い浮かぶというのも
『世界の車窓から』の
ナレーターならではって感じがします。
石丸
あるいは北欧あたりに行くと、
寒いし、季節によっては昼がみじかいし、
おかげでみんな、
グッとしかめっ面してる人が多いけど
でも、いい顔してるんだよな‥‥とかね。
──
石丸さんって、「車窓」のナレーションを
はじめられた直後に
ウィンドサーフィンもスタートしていると
思うんですが‥‥。
石丸
あぁ、そんなに間はないかな。
──
その、「車窓」と「ウィンドサーフィン」の、
両輪のおかげで
頭のなかが「地球規模で、具体的に考える」
みたいに、なってきたんでしょうか。
石丸
そうかもしれない。

もちろん、すべての国は無理なんだけど、
たとえば中南米でも
エクアドル、ペルー、ボリビア、チリ、
アルゼンチン、ウルグアイ‥‥とかなんとか、
だいたいの地図は描けるからね。
──
それ、「車窓」をやっているうちに
描けるようになっちゃったってことですか?
石丸
そう、ひとつの国をひと月以上やってるから、
そりゃあ、ま、詳しくもなるよ。
──
あらためて、長く続けることって、すごいです。
なにしろ「10000回」ですものね。
石丸
あのさ‥‥黒柳徹子さんがね。
──
はい。あ、『徹子の部屋』?
石丸
そう、ザックリ同じくらいの放送回数に
なってるらしいんですよ、今。

で、ま、あちらはふつうの長さの番組で、
こちらは2分ちょっとの番組で
ぼくはナレーターで、
徹子さんは、徹子さんご自身が出演されて
やってらっしゃるわけだから
単純には、比較できないと思うんだけど。
──
ええ。
石丸
とても「不思議な感じ」がするんだ。
──
と、おっしゃいますと?
石丸
徹子さんのことを
「うわー、すごいな。かなわないや」
と思うけど、
自分のことはまったくそう思えない。

ほら、回数だけなら
「車窓」だって、同じレベルなのに。
──
そうですよね。でも、そういうものですか。
石丸
「10000回かぁ。
 たしかに、10回を10回やったら100回で
 100回を10回やっても、まだ1000回。
 とすると、10000回というのは
 とんでもなく、たいへんなことなんだなあ」
とは思うんだけど
自分では、
すごいだなんて実感は、ぜんぜんなくて。
──
1回1回、積み重ねてきたって感じですか?
石丸
そうだね‥‥1回1回、うん。

だから、そういう意味では、
「毎回毎回、1回1回の収録をつうじて
 俺を鍛えあげてくれた番組だな」
とは、強く思いますね。
写真
──
なるほど。
石丸
つまりホラ、「ナレーション」って仕事は
ぼくが、役者として、
セリフを喋ることにもつながってますから。
──
ええ、そうですよね。
石丸
他の番組から
ナレーションを頼まれることもあるけど
そのときに
わりと構えずにできるようにもなったし。
──
はい。
石丸
ですから、『世界の車窓から』という
世にも稀な番組は
この「石丸謙二郎」という役者を
29年間、
10000回もの長い長い時間をかけて、
鍛え上げてくれた番組だなあって、
そう思っています。

<つづきます>

番組開始から29年、あと150回くらいで祝・放映10000回!世界の車窓から

たらったったったたーららーらーらー。
チェリスト・溝口肇さん作曲による
印象的なテーマ音楽、
どんな異国情緒も包み込んでしまう
俳優・石丸謙二郎さんのナレーション。
「放映開始から29年め、
 訪れた国は104カ国
 総走行距離75万キロメートル!」
という数分間の長寿番組が
テレビ朝日の『世界の車窓から』です。
漫然とテレビをつけていても
はじまると「お。」って、つい見ちゃう。
そんな番組ですよね。
たらったったったたーららーらーらー。
「世界の車窓から。今日は‥‥」
溝口さんのテーマ音楽と
石丸さんナレーションの黄金コンビで
今夜も、世界のどこかの車窓風景を
テレビの前のぼくらに届けてくれます。
10000回まで、あと約150回。

世界の車窓から

月~金、夜11時10分から、
テレビ朝日(系列)にて放送中。
*地域によっては放送日時が異なります。