岡村靖幸×糸井重里結婚への道 完結編

ミュージシャンであり独身である岡村靖幸さんは、
雑誌『GINZA』で「結婚とは?」を様々な方に聞く
「結婚への道」を約6年間連載していました。
糸井重里も2013年に登場し、
「幸せになるのは義務じゃない」という言葉を
岡村さんに残しました。
これまで70人に結婚観を伺ってきた岡村さんと、
あらためて「結婚とはなにか?」をお話することに。
みなさんも2018年を振り返りながら、
結婚について一緒に考えてみませんか。

第1回みんな、幸せを追求している。

岡村
糸井さん、お久しぶりです。
糸井
ごぶさたしています。
お会いするのはいつぶりだろう?
岡村
ライブに来ていただいたり、
いろんな現場でお会いしたり‥‥
糸井
そうだ、そうだ。
GINZA担当編集の方
もともと糸井さんのような方に
結婚の話を聞きたい、というのが
連載のはじまりだったんです。
2018年4月に連載が完結しまして、
今日はあらためて、
「結婚とは?」を対談できたらと。
糸井
桃井かおりさん、ヤマザキマリさん、俵万智さん‥‥
いろんな人に会ったんですね。
こんな連載、なかなかないですよ。
いやー、すごいなあ。
岡村
いろんな結婚の価値観を教えていただいて、
ほんとうに勉強になりました。
結婚とは「十人十色」なんだなあ、と
痛感しました。

人によって言うことが全然違うし、
世の中の1/3は離婚経験者だし、
結婚して幸せな人、
結婚なんてこりごりな人、
事実婚を選ぶ人、
子どもが一番大事な人もいれば
仕事が一番の人もいて。
糸井
うん、うん。
岡村
ユーミンさん(松任谷由実)が仰っていたんですけど、
「誰といても、誰と結婚しても、
自分が変わらなければ一緒よ」という言葉は、
とても心に刺さりました。
糸井
結局、結婚に正解はないんでしょうね。
岡村
みんな違うんですよ、
幸せの形が。
糸井
ああ、そうでしょうね。
岡村
結婚と離婚を繰り返しても「結婚が最高なんだ」
とおっしゃる人もいましたし、
「誰も私のことを束縛できない」と
言っている方もいました。
不思議な理で形成されてる幸せの形も、
あるんだと思いました。

で、6年間で唯一わかったことは、
みんながそれぞれの
「幸せの形」を追求しているということ。
糸井
なるほど。
岡村
人生にとって大事なことは「幸福」であり、
結婚は幸福になるためのひとつの手段だろう、
というのが僕なりの解釈です。
糸井
70人に会ったから、
よーくわかったんですね(笑)。
岡村
はい(笑)。
でも、ジョン・レノン&オノ・ヨーコをはじめ
ビートルズの全員も、糸井さんも、
僕があこがれている人はみんな結婚しているから、
結婚はしてみたい気がします。
糸井
それは、まだ言っているんだ(笑)。
岡村
はい。
糸井
でも、いま名前が挙がった人、
全員結婚と離婚、
両方経験していますね(笑)。
岡村
そうですね!
ただ、なにがなんでも結婚したい、
とは思っていません。
いい人がいれば結婚できたらいいな、
とは思っています。
糸井
お見合いはどうですか?
岡村
うーん‥‥。
糸井
偶然出会う、という意味では、
恋愛も合コンもお見合いも同じですよね。
親世代の保証があるならお見合い、
友だちの保証があれば紹介、
どちらの出会い方も大いに悪くないと思います。
岡村
加齢のせいでしょうか?
昔は好きなタイプが狭くて、
簡単に出会えそうにないと思っていました。
でも今は、色んな意味で、その‥‥
こだわりがわからなくなっているとこもあるんです。
糸井
いいですねえ、岡村さん。
岡村
昔は、美味しいお寿司屋さんがあれば
長距離でタクシー移動して、
1人で小津安二郎の本を読みながら寿司をつまんで、
考えごとにふけたりして。
それくらい嗜好や時間の使い方に
こだわりがあったんです。
糸井
ピシっとしてますね(笑)。
岡村
好きなものをとことん追い求めるし、
そんな自分が好きだったんですよ。
でも、最近はなぜか、
そういうこともやらなくなって。
こだわりがどんどんなくなっていくのは、
年をとったからかもしれません。
糸井
老いではなくて、
たくさん知ったんじゃないですか。
上から下、右から左、いろんなものを。
岡村
そうなんですかね。
でも『美味しんぼ』の海原雄山のように、
何歳になっても「究極」を
追い求める人もいるじゃないですか。
糸井
ああー。
でもね、海原雄山のモデルになった北大路魯山人は
美食家で有名ですけど、
彼は割と「身近なもの」も食べているんですよ。
庶民的なものから高級なものまで。
岡村
へえ。
糸井
彼は晩年、ろくろを回せないから
手びねりでいい感じの陶芸作品を
作っていたんです。
しかも、同じものを6客とかね。
頑固な海原雄山なら同じものを作らなそうだけど、
6客作る魯山人って、かわいくないですか。
岡村
かわいいですね。
糸井
6客作ることを「ええ?俺が?」と
若干不満に思ったとしても、
どこかで「しょうがないな」って
思えたんでしょうね。

その「しょうがない」を
どれくらい自分の考えに取り入れられるかどうかで、
見える世界は明らかに広くなりますよ。
岡村
なるほど。
糸井
一番を選んで究極を求め続ける人生は
カッコいいように見えるけれど、
それって世界の一部分しか生きられていない
可能性もありますから。
岡村
「しょうがない」と受け入れることで、
広がる世界がある、と。
糸井
岡村さんがピシッとしていた時代から時が経って、
今は近所の寿司屋にも行くようになったとして。
岡村
はい。
糸井
歩き出したら途中で美味しそうな店を見つけて
買い食いをして、
その後行き着いた寿司屋も案外美味しくて。
そんな人の方が
たのしみの面積は広いと思います。
岡村
僕のたのしみの面積は広がっているんですね。
糸井
そうだと思います。
いくら高くていい店でも、
一箇所で味わった感動って持続しないんですよ。
買い食い、街並み、近所の寿司屋、
すべての感動が混ざって
おっきな快感が生まれるのかなと。
岡村
でも、人間の場合はどうでしょう?
たとえば会社の人や家族など、
毎日一緒にいると
いろんな側面が見えてきて
生理に合わない人もいます。
毎日一緒にいる人と感動がズレてしまうのは
‥‥怖くないですか?
糸井
僕が夫婦や恋人の間で大事だと思う価値観は、
そうだな、あれだ。
冷房と暖房の設定温度の違いです。
この価値観が違ったら、
一緒には暮らせないと思います。
それ以外は意外と大丈夫じゃないかな。
岡村
冷房と暖房の違いですね(笑)、
覚えておきます。
写真
藤原江理奈
岡村さんスタイリスト
島津由行
岡村さんヘアメイク
マスダハルミ