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江戸時代に史実をもとに創作された物語が、
およそ3百年間、途切れずに上演されています。
いまも年末に時代劇として放映されることのある
「忠臣蔵」の大流行のおおもとは、
江戸時代の浄瑠璃や歌舞伎でした。
とにかくやればあたる演目で、さびれた芝居小屋も
「忠臣蔵」をかければたちまち大人気だったらしい。
「忠臣蔵」のどこがすごいの?
ほぼ日の学校でHayano歌舞伎ゼミを開く
サイエンスフェローの早野龍五に訊きます。
2018年8月29日に草月ホールで行う
「落語で歌舞伎入門」は、
忠臣蔵と落語で歌舞伎に近づく、
はじめての方向けのイベントです。
チケットは7月20日(金)午前11時より販売開始です。
いまごらんのページから
イープラスの特設ページへ移ります。

第3回

なぜ落語で歌舞伎をやるの?

早野
スーパーヒット作の独参湯である忠臣蔵には、
じつはもうひとつのハードルがありましてね。
──
足利時代とのマッピングのほかに、まだハードルが。
早野
「仮名手本忠臣蔵」は、
ぜんぶで十一幕あるわけです。
一幕、まぁ2時間としたらですね‥‥、
──
えーっと、合計22時間。長い!
早野
ですから忠臣蔵はめったに通しで上演されないんです。
2016年に、国立劇場が
開場50周年記念で忠臣蔵を上演しましたが、
それは3か月かけた公演でした。
忠臣蔵は一幕を「段」というんですが、
最初の月は四段目まで。
「来月また来てね」ってんで翌月行くと
五段目から七段目まで。
そして最後の月がクライマックスの
八段目から最後まで。
──
江戸時代の歌舞伎も3か月公演だったんですか?
早野
昔は、夜明けから日の入りまでかけて
1日で演ったんじゃないでしょうか。
途中でサイドストーリーの四谷怪談を入れて、
2日かけて演ることもあったと思います。
ともかく、大序という一段目からはじまって、
二段目、三段目、ずーーーーっと通してやって、
日が暮れそうになってようやく十一段目の仇討ち、
「待ってました」です。
──
そりゃあもう、
「待ってました」と言っていいですね。
早野
でもね、いくら忠臣蔵が独参湯といっても、
現代のみなさんはそんなに何十時間も
歌舞伎を観つづけられないでしょう。
それをこのたび草月ホールで行う
「落語で歌舞伎入門」では、2時間でやるんです。
──
2時間って長いイメージだったんですが、
もともとが何十時間だったと聞いたあとでは
コンパクトな印象になります。
どうやって2時間で?
早野
落語の芝居噺(しばいばなし)でやるんです。
歌舞伎の入門に、
落語の力を借りるというわけです。
──
芝居噺って、なんですか?
早野
芝居噺は、
歌舞伎の見せ場が、噺のなかに
うまく取り入れられている落語のことです。
落語家さんが歌舞伎のひと幕ずつを
演じ切るわけではありません。
でも、落語の流れの中で
歌舞伎の見どころを堪能することができる。
笑いもあってたいへん親しみやすいので
入門としてもうってつけなんです。
──
独参湯を味わう第一歩。
しかも落語。
早野
いくら芝居噺でやるといったって、
「忠臣蔵」を2時間でやるのは無謀な企てなんですよ。
でね、みなさん、いまこう思っていませんか?
なんで歌舞伎を落語にしたんだろう、と。
──
そうですね。
でもまぁ、歌舞伎を観るよりもずいぶん気が楽です。
「やさしいバージョン」なのかな、と。
早野
忠臣蔵は、フィクションのふりをしてはいるものの、
もとは史実です。
有名な事件であり、なおかつ、
くり返し上演された「鉄板の出し物」です。
つまり、ストーリーを
一般の人々が周知していたんです。
充分知れ渡っているからこそ、
いろんなものの題材になった。
落語もそのひとつ。
忠臣蔵に限らず、歌舞伎の芝居を扱った「芝居噺」は、
昔はひじょうにたくさんあったんですよ。
でもいま、東京ではほとんど
観ることができないのではないでしょうか。
──
なぜ減ってしまったんですか。
早野
観客が、もともとの芝居や事件を知らないからです。
芝居噺のおもしろさは、
本物を知っているからこそわかります。
歌舞伎を知っていたら、必ずおもしろい。
そのことが今回、逆に
「入門編」にするのにうってつけだと気づいたんです。
──
すごい。
短さ、設定の親しみやすさを使って、
入門編にするということですね。
早野
上方(関西)では、
芝居噺を継承している方がおられます。
その若手のおひとりが
今回の「落語で歌舞伎入門」をつとめてくださる
桂吉坊さんです。
──
「知ってるからおもしろい」落語が、
「知らないけどおもしろい」の入門編になる‥‥。
早野
はい、ポイントはそこです。
この日いらしゃるみなさんは、
もとの歌舞伎の忠臣蔵を知らずに
いきなり落語を聴かれるわけです。
──
はい、そうですね。
早野
落語であっても忠臣蔵は
2時間で全部はとてもできません。
ですから、解説を少しずつはさんでいきます。
足利時代に設定を借りていることも、
もちろんお話します。
どの場面をどんな芝居でやるのか、
はじめての方にもわかりやすい構成を
吉坊師匠とみっちり相談しました。
落語を聴いたから芝居がわかった気になるかというと、
そうではないかもしれないけれども、
最初から長い歌舞伎を観たり、
どこかの一幕だけを区切って観るよりは、
いい入門になると思います。
──
あきらめなくてすむ入口があるんだ、
という気になってきました。
早野
一~二段目は、
歌舞伎の場面について描かれた浮世絵や
川柳などをおりまぜて私が解説します。
吉坊師匠の落語は三段目から入ります。
つまり、刀を抜いちゃうとこね。
──
「殿中でござる」のところですね。
早野
そうそう。
落語でやる三段目は、
質屋さんの番頭と手代が出てきて、
三段目の芝居を
いい気分になってやりはじめる設定です。
じっさいの歌舞伎の舞台で何が起きるか、
とてもわかりやすい芝居です。
吉坊さんはひとりで何役もやりながら、
長い三段目を落語で20分ほどでやってしまいます。
で、四段目は、赤穂の殿様が切腹するところ。
──
えっと、赤穂の殿様というのは、浅野内匠頭ですね。
早野
そうそう、それが歌舞伎では
塩冶判官(えんやはんがん)といいます。
吉良とか浅野より、ぼくは
高師直や塩冶判官の名のほうがパッと出てきます。
──
かっこいい。
早野
そうですか?
──
はい、あこがれます。
早野
大石内蔵助は大星由良助(おおぼしゆらのすけ)と
いうんですよ。
──
それはかなり史実と似てますね。
早野
もともとの太平記に
由良之助が出てこないから似てるんですよ。
四段目は判官さんが切腹刀を
おなかに突き立てたところで、由良助がやってくる。
──
はい。
早野
そこで「遅かりし、由良助」って言います。
──
遅かりし、由良助。
早野
殿の無念を察するという場面です。
これもたいへんな名場面で、
吉坊さんが落語で演ります。
そのあと、五段から、六、七、八、九、十‥‥。
──
討ち入りが十一段目ですよね。
早野
そうなんです、長いですよね。
そのあいだはね、
討ち入りする47人がいかに努力したかという話‥‥。
──
なんですよね?
早野
じゃないんですよ。
──
ええ?!?!
早野
ぜんぜんそうではない話が展開するんです。
忠臣蔵は、47人のみんなが
どんな苦労をして集まったか、
その群像を描くという劇には
まったくなっていないんです。
──
そんな長いことかけて、
討ち入りまでの六段は何を描いているんですか?
早野
ほんとほんと、
そんなに長いことかけて何をやるんでしょうね。
じつはそこが、
忠臣蔵の、とっても人気の高い
独参湯たるゆえんの部分なんです。
(明日につづきます)
2018-07-19-THU

ほぼ日の学校スペシャル

落語で歌舞伎入門

  • 8月29日(水)18:00開場 19:00開演
  • 草月ホール(東京・赤坂)
  • 出演:桂吉坊(落語)・早野龍五(解説)
  • 全席指定4,320円(税込)
  • チケットは7月20日(金)午前11時より販売開始
    いまごらんのページからイープラスの特設ページへ移ります。
イベントについてくわしくはこちらをごらんください。