純次と、直樹と、重里と。
高田純次さんと浦沢直樹さんが毎週日曜に放送している
文化放送のラジオ番組「純次と直樹」に
糸井重里がゲストで招かれ、
特別番組としてオンエアされました。
その番組の収録時間は余裕の2時間半超え!
3人の短い言葉のやりとりに潜む
絶妙な味わい深さをあらためて楽しんでいただけるように
「ほぼ日」のテキストにして、
みなさまにお届けいたします。
ラストの高田さんのノーパンの話は、
同席したスタッフは今も忘れることはできません。
第4回 言葉にならないもの。
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浦沢
ここでちょっとみんなで
選曲してきた歌を流しましょうか。
「それぞれのキャラクターを作った曲」を
挙げたんでしたっけ。
高田
あ、そう? そんなの準備してある?
浦沢
「結婚し、子供がいる中で
舞台役者で食べていこうと決めた頃に
聴いていた思い出の曲」
高田
ああ! なんだか選んだな、それ。
え、なんて曲?
浦沢
自分で選んだくせに(笑)。
高田
あ、これね。
森進一の『望郷』(笑)!
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糸井
そんなに笑いながら
紹介するような曲じゃないよ(笑)。

(森進一『望郷』が流れる)
糸井
あぁ~、いいねぇ。
高田
当時は女の悲しさ、苦しみを歌う曲が
多かったんですよ。
僕は意外と、それがすごく好きだったんです。
浦沢
これが街に流れたんですから、
こってりした時代でしたね。
糸井
すごいよね。
これを街に流したら、
なんだか景色変わっちゃいますよ。
浦沢
いわば、日本が失ったものの一つですね。
高田
あ、そうね。今はもうないね。
写真
糸井
このあたりの世界にあるものは、
たしかに「ないもの」になってますね。
高田
まあ、俺のことはともかく、
次は糸井さんの選んだ曲に行きましょう。
糸井
俺のことはともかく(笑)。
僕はビートルズです、やっぱり。
高田
ああ、やっぱねえ。
糸井
『抱きしめたい(I Want To Hold Your Hand)』
を選びました。
この曲がジャジャーンって鳴ったときに、
「こんな大きい音、出していいんだ」
と思いませんでした?
それまでプレスリーのような音楽もあったけど、
音量に「ここまで」という
リミッターのようなものがあったと思うんですよ。
でもこの曲は、ボリュームが想像の上をいってた。
ちっちゃいポータブルレコードプレーヤーでかけても
大人に「こんなの聞いて!」って
怒られるんじゃないかという音。
それがビートルズでした。
そのなかでも『抱きしめたい』は
一番インパクトがありました。
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浦沢
これ、大人に怒られそうな、悪~い音がしますよね。

(ザ・ビートルズ『抱きしめたい』が流れる)
高田
浦沢さんが選んだのは、ロックに目覚めた曲ですね。
浦沢
僕は昔、
ボブ・ディランをなんとか理解しようと思って、
ラジオに流れる『風に吹かれて』とかを大量に
カセットテープに録音して、
修業のように毎日聴いていたことがあるんです。
だけど、全然わからないの。
糸井
何がわからないの?
浦沢
僕の好きな吉田拓郎さんが
「ボブ・ディランが好きだ」と言っている、
その感じが。
「なんでこれがいいの?」
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糸井
ああ、なるほど。
浦沢
ボブ・ディランは1974年に
8年ぶりの復活ライブを開催して、
ライブ音源が発売されました。
それがラジオで流れたんですよ。
そしたら本当にね、
天空から稲妻がボーン! と落ちてきたみたいに、
「わかったあーーーーー!」って叫んだ。
高田
おお!
才能のある人は違うねえ。
糸井
ねえ。
浦沢
その翌日、そのライブ盤を買いに、
レコード屋さんに走りました。
糸井
その音源がいいわけだね。
浦沢
後にも先にもこんなにシャウトしてる
ボブ・ディランいないぞ、という音源でした。
でも、そのときに自分が何を「わかった」のかは
わからない。いまだに研究中なんです。
糸井
言葉になんないものって、
実は山ほどありますよねえ。
その体験、いいなあ。
うらやましい。

(ボブ・ディラン&ザ・バンド
『Like a Rolling Stone』が流れる)
浦沢
僕はこれを聴いてワーッ! となったので、
今これを聴いてワーッ! となる人が、
いてくれればいいなと思います。
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(つづく)
2018-12-14-FRI