- 糸井
-
清水さんは、短大を卒業されてますよね。
学生時代は、ちゃんといい子だったんですか?
- 清水
-
私は、いい子でもなく悪い子でもなく、パッとしないような子だったけど、
糸井さんの「ヘンタイよいこ新聞」とかそういうものを高校のときに読んだり、
『オールナイトニッポン』聞いたりとかして、だんだんそういうお笑いの世界みたいなのを‥‥
- 糸井
- パッとしていったわけ?
- 清水
-
自分の中ではね、パッとしていったけど。
ほかの人はみんな恋愛してる中で、自分だけが「ビックリハウス」載ったとか、
ラジオで投稿読まれたとか、幸せの度合いがちょっと違う感じだった。
- 糸井
-
ラジオで選ばれたり、「ビックリハウス」載ったりするのって、
実はけっこう難しいことだよね。
- 清水
- そうかな。
- 糸井
- うん。今、やれよといって、載る自信、俺ないよ。
- 清水
- 本当ですか。
- 糸井
- うん。それができちゃったわけでしょう?
- 清水
- 青春時代ずっと、そんなことばっかり考えてたからね(笑)。
- 糸井
- ハガキ職人ですよね、いわば。
- 清水
-
そうそう。ハガキ職人ってけっこう幸せっていうか、
夢ありましたよね。
- 糸井
-
そうだよね。
ぼくはね、そういうお笑いが絡むようなものはできなくて、
さっきのゴリラも明治チョコレートだったけど、そこの
ポエムを読んでチョコレートをくれる番組があったんだよ。
誰かが当選したって聞いて、俺もやってみようと思って
やったら、もらったの。
でももし「ビックリハウス」だったら、俺は無理だったと思う。
お笑いじゃない人だったから、俺。二の線だった。
- 清水
- 自分で言った(笑)。そして、社員が笑っている(笑)。
- 糸井
- 昔は二だったんだよ、俺。
- 清水
- 今また言った、2回も言った(笑)。
- 糸井
- おかしいなあ、戻ろうかな(笑)。
- 清水
- (笑)
- 糸井
- いつも考えればできるの?
- 清水
-
今はもう、でも、無理かもしれないですね、そういえば。
そういう試されるときがないから。
もう思いついたらライブのためのネタにしてるっていうかね。
そういうふうになっちゃったから。
- 糸井
-
何だっけ、『IPPON』という番組があるじゃないですか。
めちゃくちゃ面白いじゃないですか(笑)。
- 清水
- すごいよね。
- 糸井
- 清水さん。もしあれにゲストで呼ばれたらどうですか?
- 清水
- いや、全然無理、全然無理です。
- 糸井
- 写真で一言みたいな何か(笑)。
- 清水
- (笑)
- 糸井
- 矢野顕子、ああいうの意外とうまいんだよな。
- 清水
- ツイッターでね。
- 糸井
-
うん。お笑いに行くんじゃなくて、
ちょうどいいの書くんだよね。
- 清水
- ちょうどいいですよね。狙ってない感じでね。
- 糸井
- そうそうそう。え、清水さんはできないですか。
- 清水
- できない。全然できない。
- 糸井
- お金くれよって?(笑)。
- 清水
-
やめなさい(笑)。
金にならないことはやらない、ということじゃあないです(笑)。
- 糸井
-
俺はもしかしたら金になんないとダメなのかなってちょっと思った(笑)。
じゃ、清水さんのあの面白がらせるのは、何あれ。

- 清水
-
私は、やっぱり耳で聞いたことを自分なりに、
こういうふうに感じましたっていうことを提出すると、
実物とは違っててもおかしいんだろうね、きっと。
- 糸井
-
ああ、そうだ。昨日、明日清水さんに会うんだなと思って、
何か一つぐらい自分で、「これを思ったんだよね」
ってこと言いたいなと思って、発見したのが
「清水さんは『私はこう感じてます』
っていうことをしてるんだね」ってことだったの。
- 清水
- あ、当たってます(笑)。
- 糸井
-
なぜそういうことをお風呂に入りながら考えたかというと、
批評してないんだよ、全然。
- 清水
- あ、うれしい。
- 糸井
-
つまり、いいだの悪いだの何も言ってなくて、
そのマネしてる対象の人が、
「私にはこう感じられちゃってますよ」っていう(笑)。
- 清水
- (笑)。そうかも、でも、うん。さすが、うん。
- 糸井
- ねえ。それって芸になるっていうか(笑)。
- 清水
- (笑)。どうなんだろうね、うん。
- 糸井
-
通信販売をする瀬戸内寂聴さんとかあるじゃないですか。
あのとおりしてないんだけど、
私にはそう見えてますよっていうだけでしょう?
- 清水
- はい(笑)。そうですね、うん。
- 糸井
- で、いいとか悪いとか一つも言ってないんですよ(笑)。
- 清水
- (笑)。うん。あんまいい悪いは関係ないかもね。
- 糸井
-
ねえ。たとえばある芸能人がいて、
概ね強気なことを言ってるっていうのは
みんなが感じてることだけど、それを
「私にはあなたのことは、すごく強気なことを言ってる人として
面白いなあと思って見られちゃってますよ」っていう(笑)。
- 清水
-
(笑)。もう一回ちょっと今のことを言いますね。
背中を押すというかね(笑)。
- 糸井
-
で、本人は悪気があるとかないとかのことを
全然言うつもりはないんですけど、
こう見えてるんですよね(笑)。
- 清水
- 確かに、うん。
- 糸井
-
そうするとお客が、
「そう見えてる、そう見えてる」って(笑)。
- 清水
-
「あるある」つって、そうそうそう(笑)。
きっと共感する人が多いでしょうね、お客様も。
- 糸井
-
共感、共感ですよね。
ツッコみ過ぎないじゃないですか。
- 清水
- あ、そうですね(笑)。
- 糸井
- 立ち直れないようなことしないじゃないですか(笑)。
- 清水
- そうかも(笑)。
- 糸井
-
モノマネだから、そういうふうに表現できるわけで、
文章で書いてもつまんないよね。
- 清水
- うん、そうだと思います。多分、うん。
- 糸井
-
それ当たり前か。でも、文章は文章で面白いんですよ。
ぼく、清水さんの文章を
「みんな、このくらい書けるようになりなさい」
って言った覚えありますよ。
- 清水
- 本当?
- 糸井
-
うん。言っては悪いですけど、
文章の修業をしたつもりは全然ないわけだから。
- 清水
- うんうん。
- 糸井
-
「修業したつもりのない人がこんな文章を書ける
っていうことに、もっとおののいてください」
って社内で言ったことありますよ。
- 清水
- わあ、うれしい。頑張ろう。
- 糸井
- 清水さんが練習‥‥
うちで子どものこととか書いてる時代があったじゃないですか。
あのときに、いつもいいなあと思ってて。
- 清水
- へぇー。

- 糸井
- ご本人は、文章は何だと思ってんの?
- 清水
-
ブログなんかはやっぱり寝る前に、
1日こういうふうだったってことを書くと
スッキリして寝られるので、トイレみたいな感じですかね。
排泄(笑)。
- 糸井
-
ほう。でも、何も思わないで生きてたら、
書く段になって書けないじゃないですか。
例えばアシスタントの子が気が利くなあって思ったから、
そのこと書けるわけじゃない?
- 清水
- うん。
- 糸井
- 思ってる分量は多いよね。
- 清水
-
うん、きっと多いと思う。
高校のときにもう自分の面白ノートというのがあって、
それにやっぱり真面目なエッセイ欄があって、
それを「今回も書きましたけど、どう? 読む?」
みたいな感じで回して、読んだ人が笑ってると、
もうすごい幸せ、みたいな。
- 糸井
-
ああ。話聞いてると、生い立ちというか成り立ちが、
さくらももこさんに似てるんですよね。
- 清水
- ああ、でも、ちょっとそうかな。
- 糸井
-
思ってることを別に人に言うわけじゃないけど、
あいつがこうしたな、こうしたな、
あ、おかしいことしてるなあって見てて(笑)。
- 清水
- あとで、ちまちまと(笑)。
- 糸井
- 頭とんがらせたりなんかしながら描いて。
- 清水
- で、本人幸せっていうね。
- 糸井
- そう。で、いっくらでも描けるつってたもん。
- 清水
- ああ、そう。
- 糸井
-
「ネタが尽きるってことは私にはないんじゃないか」
つってたよ。
- 清水
- へぇー。
- 糸井
- で、本当に昔のことを覚えてるしね。
- 清水
- もう「りぼん」のときからご存知だったんですもんね。
- 糸井
-
そうです、そうです。子どもたちが面白がり始めた頃で、
うちの娘がちびまる子ちゃんの年齢だったんで、
「どれどれ」って見て、確かに面白いわけですよね。
で、これからこれはいくらでも売れちゃう人なんだろうなと思って。
なんかトランプの柄を作ってもらう
仕事を頼みに行ったのがはじめで。
もうてんやわんやしてたよね、急に売れっ子になってね。
- 清水
- そうでしょうね。
- 糸井
- 今の清水さんの話も、周りの人が面白がるみたいなのが原点。
- 清水
- あ、そうですね、うん。

- 糸井
- 俺は、それはなかったなあ。
- 清水
- あ、ないの?
- 糸井
-
漫画描いたりして回覧板的に回すみたいなことでしょう?
それは少しはしてるんです。してるんだけど‥‥
つかめなかった、お客さんが(笑)。
- 清水
- (笑)。芸人だったらダメな言葉だね(笑)。
- 糸井
-
(笑)。せいぜい何人かで。
結局、女の子のほうが見てくれてた。
- 清水
-
あ、でも、どんな現場行っても女の人多いですよね。
落語行っても女性ばっかり。吉本行っても。
- 糸井
-
男には案外ダメだった。
男は勝ち負けをさ、つい考えちゃうからさ、
認めるの得意じゃないね。
- 清水
-
男って面白い男の人に嫉妬するっていいますもんね、
今でも。
- 糸井
-
ただ、しょうもないことを言っておかしいやつは、
小学校のときとかは自分じゃないやつがもっとおかしかった。
- 清水
- (笑)。へぇー。
- 糸井
-
だから、憧れてた。
そういうことをやってみたいものだなと思って。
- 清水
- クラスの中にやっぱり面白い人っていて?
- 糸井
- いた。いた。
- 清水
- さんまさんみたいな感じね?
- 糸井
-
そうだね。修学旅行でガイドさんがマイク回すと、
そいつが取ったら、もう絶対面白いみたいな。
- 清水
- 任せたみたいな(笑)。
- 糸井
- うん。で、それは思えばね、姉ちゃんがいた。
- 清水
- あ、そう。関係あるのかね、やっぱり。
- 糸井
-
「平凡」とか「明星」みたいの取ってて、
そいつんちに行くとね、
貸本屋から借りて返さない漫画とかいっぱいあったりね。
- 清水
- 大丈夫なの?(笑)
- 糸井
- 悪い、ちょっと悪い。
- 清水
-
え、貸本から借りて返さないってことは、
借金が溜まっていくってことでしょ?
- 糸井
-
そうだと思うよ。
ぼくはそのことで夜も眠れない思いをしたんだけど、
返しそびれたものが毎日、延滞金が溜まっていくので‥‥
- 清水
- 怖い(笑)。
- 糸井
-
もう取り返しがつかないってなって、
布団をかぶって泣いてたんです。
- 清水
- こんなのいるんだろうね、今の世界も(笑)。
- 糸井
- それが小学校の5年生ぐらいです(笑)。
- 清水
- 早い(笑)。
- 糸井
-
どうしたらいいんだろうと思ってたのに、
そいつんちに行ったら、
貸本屋のハンコが押してある漫画がもうじゃんじゃんあるのよ。
で、俺が今まで泣いてたのは何だったんだろうって。
- 清水
- へぇー。でかいのかな、人間が。
- 糸井
- 全然わかんない。つまりルールに対する、こう(笑)‥‥。
- 清水
- 外国人が来た、ペリーが(笑)。
- 糸井
-
そうかもしれない(笑)。
あ、俺、そういう学びはけっこう多いわ。
このあいだ文章で書いたんだけど、
エレキを買って練習してるときに、
まったく音楽もできないし、勉強も何もできないやつが、
タンタカタンタン、タンタカタンタン
弾き始めちゃったのを見て、
何だったんだ、俺はって思った(笑)。
- 清水
- あいつに俺、負けてんだっていう(笑)。
- 糸井
-
負けてるどころじゃなくて、
登れない山をあいつは上で逆立ちしてるよと思った。
- 清水
- そう。価値観がもうひっくり返ったんだね。
- 糸井
-
そう。親とか老人たちが言う、
「何でも基礎をしっかりしとけば何とでもなるんだから」
って言葉を信じて俺、バイエルとか習ったんだから、
一時は。ピアノ教室も行ったよ。嫌でやめたけど。
- 清水
- ハッハッハ。
- 糸井
-
そういうことの延長線上に自分も、
ビートルズとか弾ける私が作られると思ったら大間違いで。
「ちょっと貸してみ?」つったんですよ、ギターを。
で、急にミッシェルを歌ったんですよ。
- 清水
- 同級生でしたっけ。
- 糸井
-
同級生だけど、誰とも遊んでないようなやつだった。
まあ、高校デビューみたいなことなんだろうね。
- 清水
- うんうん。
- 糸井
-
そういう、自分が守ってた価値観の延長線上の
遠くにあったような夢を、
今日の明日叶えちゃってる人とか見ちゃうわけで、
あれは今の自分に影響与えてますね。
- 清水
- そうか。自分は大したものじゃないんだって感じ。
- 清水
-
習うものじゃないものは確かに
芸能ってあるかもしれないですね。
なぜかできるって人、多いですもんね。

- 糸井
-
清水さん自身は、なにごとも基礎が必要だっていうことと、
習うものではなくてやりゃいいんだよっていうのと、自分ではどう思ってる?
- 清水
- どうなんだろう。
- 糸井
- 弾き語りモノマネはできないよね、今日の明日じゃ。
- 清水
-
ああ、そうかもね。
それはやっぱり私が10代の頃にすごい感銘受けたから。
悔しかったんでしょうね、きっと。
「私が矢野顕子になるはずだったのに」みたいな(笑)。
- 糸井
- (笑)。
- 清水
- 頭おかしい(笑)。
- 糸井
-
いやいやいや、いやいやいや、その心って大事かもね。
その、何ていうの、不遜な(笑)。
- 清水
-
何という自信なんですかね(笑)。
でも、今も、今でも、練習してて、もうちょっと頑張ったら
なれるんじゃないかと思ってる自分がいるの。
- 糸井
- ああ。
- 清水
-
基本ができてないだけで、もう少しやればとか、
そういう変な希望みたいのがあるんですよね。
- 糸井
- 矢野顕子にあって清水ミチコにないものは何なの?
- 清水
- あ、それは音感。
- 糸井
- 音感、ああ。指の動きとかではなくて。
- 清水
- あ、指ももちろん。ピアノから何から、そうそう、音楽性。
- 糸井
-
でも、同じ道で、振り向いたら後ろに清水がいた、
ぐらいのとこにいるわけだ。
- 清水
- 矢野さん?
- 糸井
- うん。
- 清水
-
いない、いない、全然。
全然レベル違う、それは。電車の中で言われますよ(笑)。
- 糸井
- でも、遠くに見えるっていうぐらいにはいるんじゃない?(笑)
- 清水
- いないと思う、多分。
- 糸井
- でも、ピアノ2台くっつけて両方でやってたじゃないですか。
- 清水
-
あれも、矢野さんは一筆書きでササッと書いてるんだけど、
私はそれを綿密に、どういう一筆書きをやったかっていうのを
コピーして頭の中に入れて、
さも今弾きましたみたいなふりをしてるだけで、
それはやっぱりすぐわかりますよ。全然違う。
- 糸井
-
さっきの瀬戸内寂聴さんをやるときと同じともいえるね。
「あなたのやってることはこう見えてますよ」
っていうことだよね。
- 清水
-
あ、そうですね(笑)。
それだったらうれしいね、でも。
- 糸井
- そういうことですよね。似顔絵とかもそうじゃないですか。
- 清水
- ああ、本当だ。
- 糸井
-
「こう見えてますよ」って。
で、そこには尊敬が入ってる場合と、
そうでもない場合がある(笑)。
