
これはオスがメスと交尾している写真ではない。
オスがオスにマウンティングしている瞬間を撮影したものだ。
「え!?クロザルって同性愛なの?」と思うかもしれない。
いえ、これは格上のクロザルが格下のクロザルの上にのって、
上下関係を確認する行為だ。
マウンティングは他のサルにも見られる行為だが、
平和を好むクロザルは、
他のサルとは一風かわったコミュニケーションをとる。
格上のクロザルが格下のクロザルにむかって
自分のお尻をぷりんと出し、
わざと下になってマウンティングされるのだ。
「ハッハッハッ、おれのほうが上だぜ」と、
格下のクロザルにボス気分を味わわせ、
自分への敵意を減らして、争いの芽を摘む格上のクロザル。
人間でも、こんなことができるリーダーやボスは少ないと思う。
いつもマウンティングをしてくるあの人に、
見習ってほしいと思う人もいるだろう。
このことを知って、ぼくは、高校2年生の頃、
カナダでホームステイしていたときのことを思い出す。
ホストファミリーの6歳の男の子と鬼ごっこをしていたとき、
ぼくが大人気なく逃げたため、彼が泣いてしまったのだ。
窓からその様子を見ていたホストファミリーのお母さんが
「ヒロ、お兄ちゃんなんだから、負けてあげなさい」と言った。
あのときのぼくは、負けてあげられるほど強くなかった。
恥ずかしいことに、ぼくのほうがすごいって
マウンティングしていたんだと思う。
10歳も年の離れた相手に。
ホストファミリーのお父さんは見事に負けられる人だった。
お母さんや子どもたちに「もう、お父さんはー」といじられても、
「ハハハ」とおどけていたのを思い出す。
お父さんは子どもたちに負けてあげられるほど、強い人だった。
お父さんは、負けることで家庭の平和を築いていたのだ。
勝つために努力してきもので、わざと負ける必要はもちろんない。
でも、勝つより大事なことも、ときどきある。
「強さ」ってのは勝つだけではない。
大事なものを守るために、負けられる「強さ」もある。
クロザルは新しいリーダーの姿を見せてくれた。