もくじ
第1回ただ友だちがほしかった。 2019-03-19-Tue
第2回傷つけないやさしさ。 2019-03-19-Tue
第3回負けられる強さ。 2019-03-19-Tue
第4回それでも、信じたい。 2019-03-19-Tue
第5回見ていて元気になる。 2019-03-19-Tue

自由をつくるメディア「The U(ザ・ユー)」ウェブマガジン編集長。イラストレーター。デザイナー。1987年埼玉県生まれ。犬と太陽とアイデアが好き。

笑うクロザル、笑えないボク。

笑うクロザル、笑えないボク。

担当・マスダ ヒロシ

第3回 負けられる強さ。

これはオスがメスと交尾している写真ではない。
オスがオスにマウンティングしている瞬間を撮影したものだ。
「え!?クロザルって同性愛なの?」と思うかもしれない。
いえ、これは格上のクロザルが格下のクロザルの上にのって、
上下関係を確認する行為だ。

マウンティングは他のサルにも見られる行為だが、
平和を好むクロザルは、
他のサルとは一風かわったコミュニケーションをとる。

格上のクロザルが格下のクロザルにむかって
自分のお尻をぷりんと出し、
わざと下になってマウンティングされるのだ。

「ハッハッハッ、おれのほうが上だぜ」と、
格下のクロザルにボス気分を味わわせ、
自分への敵意を減らして、争いの芽を摘む格上のクロザル。

人間でも、こんなことができるリーダーやボスは少ないと思う。
いつもマウンティングをしてくるあの人に、
見習ってほしいと思う人もいるだろう。

このことを知って、ぼくは、高校2年生の頃、
カナダでホームステイしていたときのことを思い出す。

ホストファミリーの6歳の男の子と鬼ごっこをしていたとき、
ぼくが大人気なく逃げたため、彼が泣いてしまったのだ。
窓からその様子を見ていたホストファミリーのお母さんが
「ヒロ、お兄ちゃんなんだから、負けてあげなさい」と言った。

あのときのぼくは、負けてあげられるほど強くなかった。
恥ずかしいことに、ぼくのほうがすごいって
マウンティングしていたんだと思う。
10歳も年の離れた相手に。

ホストファミリーのお父さんは見事に負けられる人だった。
お母さんや子どもたちに「もう、お父さんはー」といじられても、
「ハハハ」とおどけていたのを思い出す。
お父さんは子どもたちに負けてあげられるほど、強い人だった。
お父さんは、負けることで家庭の平和を築いていたのだ。

勝つために努力してきもので、わざと負ける必要はもちろんない。
でも、勝つより大事なことも、ときどきある。

「強さ」ってのは勝つだけではない。
大事なものを守るために、負けられる「強さ」もある。
クロザルは新しいリーダーの姿を見せてくれた。

第4回 それでも、信じたい。