高校時代のわたしの日課は、
個人が運営するaikoファンサイトの掲示板の書き込みに、
かたっぱしから返信をしていくことだった。
TwitterやInstagramはおろか、
mixiやFacebookも普及していなかった当時、
個人サイトはファン同士の数少ない交流の場だった。
「公式サイトでテレビ出演情報が更新されていました!」
「新曲のミュージックビデオが公開されてたよ」
「今日は●●にaikoが出演します!録画予約できてますか?」
新曲リリースやテレビ出演の情報は、
今でこそSNSなどを通してアーティストサイドから
わたしたちに向けて発信されるけれど、
その頃はまだ、自ら公式サイトをチェックすることでしか、
情報を手に入れる手段がなかった。
最新情報をいち早く見つけたファンが、
さらに多くのファンに情報を知らせるために
書き込みをする。すると、その投稿には
「教えてくれてありがとう」「さっそく見てきたよ」など、
たくさんの返信コメントが連なっていく。
わたしが頻繁に公式サイトをチェックしていたのは、
aikoの情報をいち早く知りたかったのもあるけれど、
そうやってaiko情報を共有し合うことで、
ファンサイトに集うみんなと仲良くなりたかったからだ。
見渡す限り山と田んぼしかなく、夜は街灯すらない、
正真正銘の田舎に暮らしていたわたしにとって、
インターネットは「aikoのことが好き」という
ただひとつの共通点から、
新たな人間関係を生み出してくれる画期的なツールだった。
年齢も性別も住んでいる場所もばらばらなのに、
ひとつの価値観を共有することで
たくさんの人と繋がっていけるインターネットの世界は、
わたしに言いようのないときめきを与えてくれた。
学校にいても早く家に帰ってインターネットがしたかったし、
通っていたファンサイトに書き込まれた
すべての投稿に返信をしなければ、
1日を終えることができなかった。
あるとき学校で配られた、
インターネット依存症に警鐘をならすチラシには、
さながら当時のわたしの行動が、
依存症予備軍の特徴として挙げられていたけれど、
それが悪いことだとは全然思わなかった。
掲示板には、aikoに関することに限らず、
進路の悩みや恋の相談など、
さまざまなトピックが書き込まれていた。
ひとりの相談に対して、
大勢の人たちが真剣に答えを考え返信をする、
あたたかな場の雰囲気がとても好きだったし、
わたし自身もファンサイトで知り合った人たちには、
学校の友だち以上に自分の気持ちを正直に話すことができた。
掲示板で仲良くなると、
個人的にメアドを交換して連絡を取り合うこともあった。
東京や神奈川といった都会で暮らす、
同年代の女の子たちとのやりとりはとても刺激的で、
彼女たちは毎日どんな世界を生きているんだろうと
想像しては、小さな憧れを抱いた。
もし、彼女たちと同じ学校に通っていたら、
こんな風に仲良くなることができただろうか?
かわいくてモテるタイプのあの子とは、
クラスが同じだったとしても、話をしなかったかもしれない。
そんなことを考えてみては、
インターネットで生まれた奇跡的な出会いに、
心から感謝した。
十数年前、とあるaikoファンサイトで知り合った女の子とは、
個人サイト文化が廃れた後も連絡を取り合い、
今も一緒にaikoのライブに行ったり、旅行に行ったりしている。
aikoをきっかけにしてできたインターネット上の友だちは、
いつの間にかわたしの人生に欠かせない、
大切な友だちになった。