何かを伝えたり思い出したりする時のよすがとなるのが、
言葉。
風にもさまざまな言葉がつけられています。
「風と雲のことば辞典」に収録されている風にまつわる
言葉は、なんと1040語。
颶風(ぐふう)
激しく恐ろしい〈大風〉。主として海上に発生する暴風。
しまき
風が激しく吹き、雪やしぶきを巻き上げるさま。
漢字で書けば「風巻」。
災害への注意を呼びかけるために、
激しい風には名前が必要だったのでしょう。
でも圧倒的に多いのは、美しさや季節の移ろいなど
感じたことを形に残そうとして付けられたような言葉。
この本を読んでいると、
わたしと昔の人たちが同じ光景を見ていることに感動します。
風の名前は、暮らしという記憶の中に挟まれたしおりのよう。
それを目印に、いつかの
誰かの生活に思いを馳せてみたくなる。
ちょっと大げさかもしれませんが、
この地球に住んできた人々の思いに
手を触れられたような気がするんです。
例えば、第2回で懐かしんだ
風に飛ばされる鳥たちにも名前が。
風吹烏(かざふきがらす)
風に吹きあおられて飛んでいるカラス。
転じて、買う気もないのにうろついている冷やかし客や
浮浪人を指すことば。
(意味が転じるほど、みんながよく見る光景だったんだ!)
恵風(けいふう)
草木に恵みを与える春風。顔に風を感じるほどのそよ風。
(そよそよ吹く春風、大好き!確かに恵みだと感じる!)
清風(せいふう)
清らかな風。爽やかな涼しい風。
「清風に故人来たる」といえば、
爽やかな涼風が吹いてくると、
古い友人が会いに来てくれたような心地がするということ。
(わかるー!清らかな風に吹かれていると、
親友に励まされたような心地がして元気になるんです、
わたし!)
すでにある風の名前や意味に共感すると、
名付けた人やその言葉を口にしたり、
文字にしたりした人たちと握手したくなります。
「わかるわかる!わたしも同じ気持ち!」
「あなたもそうだったんですね」って。
1040語も載っているのだから、
わたしの好きな「露天風呂で感じる気持ちのいい風」の
名前もあるはずだと思っていたのですが…
なんと!載っていなかったんです。
きっと多くの人が味わっているだろう
心地いいあの風に、まだ名前がないなんて。
よし。
いつかわたしのような人と「握手」するために、
名前を考えてみよう。
例えば、「ごくらく風」とか、どうでしょう。
わかりにくいかな。
では、ストレートに「露天風」とか。
うーん。あともうひと息かな。
これは一度風に吹かれた方がよさそうです。
露天風呂で感じる心地いい風の名前がいつか、
あなたのもとにも風の便りで届きますように。
(それでは、ちょっと風に吹かれてきます)
