- 燃え殻
-
ぼく、仕事の手帳を
21冊全部取っているんですよ。

- 糸井
- らしいよね。うんうん。
- 燃え殻
-
21冊あって、6冊、7冊ぐらいは常に置いてるんですよ。
仕事中とかちょっと時間ができたときとかに、
それを読み返すっていうのが、
自分の安定剤というか‥‥
そういう形で手帳を使っているんですね。
日記ではなく、もちろん手帳なので、
予定がもちろん書いてあります。
- 糸井
- 書いてあるね、うんうん。
- 燃え殻
-
で、その他に、
その日たまたま食べた天丼屋が美味しくて、
でも、その天丼屋多分忘れるな
って思って箸袋が貼ってあったりとか。
- 糸井
- 箸袋ね(笑)
- 燃え殻
-
そうそう(笑)
結局、長らく行ってないんですけど‥‥
でも、天丼のシミとか付いてて。
- 糸井
-
行くかもしれないっていうのが、
何ていうか、自分が生きてきた人生に、
ちょっとレリーフされるんだよね。

- 燃え殻
- はいはいはい。
- 糸井
-
でも、行かなくもレリーフとして、
残ってんだよね。
- 燃え殻
- そう、行かなくても残ってる。
- 糸井
-
その感じっていうのは、
燃え殻さんの文章を書くってことが
すごく密接ですよね(笑)
- 燃え殻
-
あと、その断片みたいな手帳の話でいくと、
あとから振り返ったときに、
そのときの自分の悩みも書いてあったり、
そのとき、うれしかったことは
「超ラッキー」王冠マーク
で書いてあるんです(笑)。
- 糸井
- 王冠(笑)

- 燃え殻
-
どれだけうれしいんだみたいな(笑)
でも、今見ると、それがたいしたことじゃない。
で、嫌なこともたいしたことじゃないんです。
「この人に来週また会うのか、嫌過ぎる。死にたい」
とか書いてるけど(笑)
今はその人とゴールデン街に飲みに行く仲
になってたり。
- 糸井
- へえ。
- 燃え殻
-
なんかその、うん。
悩みだったり関係性が
どんどん変わっていく様とかが見えて、
だから手帳を読み返すんですよね。
- 古賀
-
引越しの時とか、捨てようと思ったりとか、
「もうこれ要らねえや」って機会はなかったんですか?
ぼくは同じように、
手帳とかノートとか書き溜めて、
引越しのたびに捨てちゃうんですよ。
なんかリセットしたくなって。
そういう気持ちあるのかなって。

- 燃え殻
-
ぼく、物捨てることとか、
人と縁が切れることが
ものすごい下手なんです。
- 糸井
- うんうん。
- 燃え殻
-
この小説もそうなんですけど、
その付き合ってた人とは、
縁が切れてるんですけど、
自分の中では終わってないんですよね、
気持ちが‥‥
そういうこと言ってるから、
いろんなとこで怒られるんですけど。
気持ち悪いとか(笑)

- 糸井
- (笑)
- 燃え殻
-
話したように学生時代集めてたチラシも、
ずっと取って置いたんですよね。
何だろう‥‥
自分ですらガラクタだと思うんですよ。
でも、そういうのをリセットすると
今までの自分と離れちゃった気がして、
荷物がなくなった気がして、
一歩前に出るのが怖くなっちゃう。
- 糸井
- うんうん。
- 燃え殻
-
だから、荷物が多少あったほうが
ぼくは進めるというか、
「荷物はもう軽いほうがいいよ」みたいな
いろいろな人がいると思うんですけど、
荷物が重くないとぼくダメなんですよ。
誰かから言われることもそうかもしれないし、
任されることもそうかもしれないし、
「あの人はこう言ってたな。いつか見返そう!」
とか、そういう気持ちがあったものを
持ってないと多分ぼくは前に進めないから、
絶対一生捨てないと思います。
- 糸井
-
そういう個性なんですかね。
ぼくは結構、捨てますね。
あと、捨てられます。奥さんに(笑)
- 燃え殻
-
そうかもしれないですね‥‥
本当は捨てても、
きっと何の差し支えもないと、
ぼくもわかってるんです。
- 糸井
-
捨てる時に何かあるとしたら、
それは、寂しさです。
で、その寂しさが好きなんだと
思うんだよね。そのキュンとしてるときの、
自分のこう、実在感?
- 燃え殻
- 「生きてるー」みたいな。

- 糸井
-
あっ昨日、ぼく、インタビューされてさ、
今年ビートルズの手帳があるので、
ビートルズのね‥‥
- 燃え殻
- あ、ありますね。
- 糸井
-
ビートルズについて取材をされて。
で、その話をしてる最中に、
やっぱりビートルズの話をすると、
若い時の話しになるから、
どういうふうに自分がモテなくてフラれたか
という話をもう軽い気持ちでし始めたら、
悲しくなっちゃって。
その受け入れられなかった自分が
不憫になっちゃって。

- 燃え殻
-
えっ、
ちょっと涙が?
- 糸井
-
ちょっと、にじんじゃって(笑)
「ごめん、ちょっと待って」
みたいな。
- 会場
- (笑)
- 燃え殻
-
糸井さんも、
大人になれてないじゃないですか(笑)

- 糸井
-
だから、それは、大人になるために、
子供を捨てても、
ぼくの中に残ってるってことなんです。
やっぱり。
- 燃え殻
- ああ、そっか。
- 糸井
-
ぼくがいなくなっちゃっても、
ここにぼくがいるって、
みんなが思っていればぼくはいるんです。
という理論なんで。
- 燃え殻
- はい。
- 糸井
-
つまり周りにものが全部揃っていれば、
「ぼくはいるんだ!」
という思いになりやすいわけです。
- 燃え殻
- はい。
- 糸井
-
捨てちゃうと、そこのところで、
「あっ、それ捨てちゃったら、
ぼくじゃなくなっちゃう」ってなる。
そういう気持ちになるから子どもは、
捨てたくないんです。
- 燃え殻
- じゃあ、ぼく、それだ。
- 糸井
-
それだと思う。
だから、燃え殻さんの小説のタイトルも、
捨てられないって、
『ボクたちはみんな大人になれなかった』
ですもんね(笑)
子供を捨てないと大人になれないからね。
- 燃え殻
- はい。発売までしました(笑)

- 会場
- (笑)

- 糸井
-
なんか今日はいっぱいしゃべってる、
無口じゃない燃え殻さんが味わえたと思います。

ありがとうございました。