- 糸井
-
何度も聞かれてると思いますが、
会社は辞めないですか?
- 燃え殻
-
絶対に辞めないです。
今、自分が雑誌に出たりすることを、
うちの社員や若手の子たちが見てくれている。
それがおもしろいし、うれしいんです。
アルバイトで入ったような自分が
社長と試行錯誤しながらやってきて、
やっと何度か社会に認めてもらうことがあって
ようやく「ここにいていい」と思えたんですよね。
そうして、小説を書いて話題になったときに
ある意味、親よりも喜んでくれたのが社長だった。
それがいちばんうれしかったなあ。
だから、絶対に辞めないです。
- 糸井
-
その答えはすごくいいですね。
聞いててうれしい気がしますね。
- 燃え殻
- それは本音ですね。
- 糸井
- 逆に、何か書くってことはやめない?
- 燃え殻
-
やめないつもりではいます。
それが小説にせよ、お客さんからの企画にせよ、
美術制作のフリップ1枚にせよ、
受注があったことに対して全力で取り組んで、
できれば誰かに喜んでもらいたい。
小説を書いたときもそうでした。
こうやったら共感してくれるかなとか、
おもしろいと思ってもらえるかなというのを
常に考えていましたね。
- 糸井
-
誰かが喜んでくれているんだったら、
その人とこれからどうしようかなって思いながら
手をつないでいたいみたいなこと、あるよね。
- 燃え殻
-
もうそれだけですね。
最初は仕事とは関係ないことから始めていたので、
作品性を高めたいって思ってたんですね。
でも、せっかく世に出るものだとしたら、
関わった人も含めてみんなが喜ぶには
どうしたらいいか考えましたし、
それを探すのが楽しかった。
- 糸井
- うんうん。
- 燃え殻
-
自分の作品だと、どんな残酷にもできるじゃないですか。
狂気的なことを書けば、
驚かせるのも悲しませるのもある意味簡単。
でも、おもしろがらせるってけっこう大変だぞって思って。
- 糸井
-
人は案外普段は浮かない気持ちでいるからね。
それをウキウキさせるっていうのは
実は意外と力仕事なんですよね。
- 燃え殻
-
その人がいまどんな気持ちでいるかって
わからないじゃないですか。
自分はそんなに明るい人間ではないので、
僕がこれぐらい喜ぶんだったら、
ほとんどの人は喜んでいて
人生に調子が出てるだろうし。
- 糸井
- 調子が出る(笑)
- 燃え殻
-
自分の物差しというかハードルが低くて
モノを作るのには向いてるかもしれないなって
思うところはありますね。
- 糸井
- それをずっとやってきたんだよね。
- 燃え殻
-
週刊朝日の「山藤章二の似顔絵塾」に
ずっと似顔絵を出してたことがあったんです。
20回以上週刊朝日の裏表紙に載りました。
- 糸井
- 知らなかった。
- 燃え殻
-
1年間、竹中直人だけの似顔絵を
送り続けたこともあったんです。
- 糸井
- (笑)
- 燃え殻
-
学ランでエプロンを着てる竹中直人とか、
茶色い顔の竹中直人とか、バリエーションを変えて
毎週山藤さんに送ってたんです。
- 糸井
- はー!
- 燃え殻
- それが1年に4、5回掲載された。
- 糸井
- 山藤さんも選び続けた。
- 燃え殻
-
そう。「また竹中直人だね」って書いてくれて。
そこで僕は、自分の生存確認をしてました。
生きてるっていうか、山藤さんが選んでくれていることで、
自分は価値がある人間なんじゃないかってこう‥‥。
- 糸井
-
ただ落ちてる石ころじゃないぞと。
ちょっとおもしろい形をしてるぞと。
- 燃え殻
-
そう(笑)
どこかで自分はおもしろいんだと思って出してました。
そう思わないと、たぶんやってられなかったんです。
- 糸井
- それはいつから?
- 燃え殻
-
高校3年生から、広告の専門学校を出て、
エクレア工場でバイトしてたころからずっと。
- 糸井
- やり続けられたんだね。
- 燃え殻
-
それは、ラジオでDJが自分のつけたペンネームを
読んでくれたり、雑誌の『宝島』に彼女と映画館に
行ったときに起こった話を投稿したものが
採用されたりしたこともそうなんですが
自分にとってまったく関係のない場所で
突然光を当てられるような感じで、
「あ、自分はいてもいいんだ」って思えたのかも。
だからこそ、うれしくて続けられた。
- 糸井
-
そうなんだよね。
その「いてもいいんだ」って感じ。
でも、下手をすると、
ただの有名になりたい病になる可能性もあって、
そうやってダメになってしまう人を山ほど見てきた。
だから、僕はダメになっちゃうみっともなさに対して
すごく慎重だった気がするんですよね。
でも、いい気になって踊っちゃうこともあるし・・・・。
- 燃え殻
-
両方ですよね。
- 糸井
-
そうですよね。
それで、だんだんと
これは一番だろうみたいなものに出会うと、
もう一回普通に戻る。
普通にすごいって素直に思えて(笑)
だから、そのままでもよかったんだなっていう
答えになるかもしれないよね。
誰にも知られない人のままでも
本当はよかったのかもねって。
- 燃え殻
-
自分が会いたかった人が普通の話をしてくれたことに
感動できたりするんですよね。
特別な話だったり、そこでしか聞けなかった話というのも
もちろんおもしろかったんですが、
最終的にはその人が僕とつながっていたと感じられた。
- 糸井
- そうですね。同じ人間ということに気づける。
- 燃え殻
-
同じ人間だったって確認したかったんですよね。
その人の作る作品が素晴らしいから。
- 糸井
-
うん、そうですね。
だから、みんなが何億円だって言ってるものの価値が
ピカピカに磨かれた100円玉のひとつなんだって思える。
任天堂にいた岩田さんは、
100億円の価値のある人だと思ってたけど、
実はいち100円玉だったというのを、
うちの会社の人たちはみんな知っていた。
その100円玉感をキープすることを、
美意識として持ってますよね。
岩田さんは「それは糸井さんから学んだ」って言い張る。
それで「岩田さんのほうからだよ」って言い返す。
- 燃え殻
- お互いに。
- 糸井
- そうそう。
- 燃え殻
- 僕は糸井さんに会ったときに思いました。
- 糸井
- 100円玉だって?
- 燃え殻
- あ、同じだって。
- 糸井
- ああ、そうですか。
- 燃え殻
- もっと緊張するかと思ったら、緊張しなかったんです。
- 糸井
-
それは僕にとってもうれしいことです。
「いやー、上がっちゃうな」と
100万回言われてもうれしくないですよ。
それはきっと、燃え殻さんからしてみても
「本当に?」と思うわけだよね。
それは、横尾忠則さんがやっぱりそうで。
- 燃え殻
- 横尾さんってそんな気がする。
- 糸井
-
もう本当にしょうもないの。
手土産が何であるかということについて
僕と漫才みたいなことをしゃべったけど、
冗談を言わないんだよね。
- 燃え殻
- 真剣なんですね?
- 糸井
-
ちょっと違うんだよね。ただ、目は動物のように真剣。
横尾さんが、前から何回も聞いてる話をしてて、
「ああ」「へぇー」なんて言ってると、
「でも、糸井くん。この話、ぼく何度もしてるよ」って。
- 燃え殻
-
一回泳がせるんですか!
ひどい(笑)
- 糸井
-
もう横尾さんにはね、本当に参る(笑)
何回も修正してる場合でも、
どっちだかわかんないもん。
- 燃え:
-
横尾さんはやっぱり途中で気づいたのかな。
もしくはフリなんですかね。アーティストだから。
でも、「横尾さん、それ聞いたことありますよ」って
言いづらいですよね。
- 糸井
-
それは言えないです。
だから「知ってたんですか」って返したら
「知ってるよ、そんなこと」みたいな(笑)
- 燃え殻
- (笑)
- 糸井
-
年寄りは同じ話をするって決まってるから。
みんなが聞きたそうにそっちに持ってこうとしてるのも
気づいてるから、「そうそう」とか言いながら、
今まで言ってないおまけはないかなと
探して話してるんだけど、
「もうないよ。おまけも含めて前に言ったよ」って。
- 燃え殻
- 往年のレスラーが必殺技出すみたいな(笑)
- 糸井
-
そうねえ。横尾さんはたどり着き得ない憧れだな。
あの人になりたいわけではないんだけど(笑)
- 燃え殻
-
僕は20数年前に横尾忠則展に行ったんですが
すでに謎でした。もうすごかった。
- 糸井
- (笑)
- 燃え殻
-
そこで横尾さんがパフォーマンスをしたんです。
お客さんたちが全員体育座りみたいな感じで
周りに座っているところで、足の裏を赤く塗って
助手の人たちがキャンバスをサッと出しても
間に合わなくてダダダダって垂れたんですよ。
そこで何か題名を言ったような気がします。
- 糸井
-
もうおかしいですよ。
横尾さんの話は永遠にできますね。
ネタがなくてもふたりで横尾さんについて
考えるだけでもおもしろいね(笑)
横尾さんがテーマじゃない話だったのに。
- 燃え殻
-
横尾さんにはもっていかれますね。
今日はありがとうございました。

(終わりです)