もくじ
第1回誘われたときの選択肢。 2017-10-17-Tue
第2回人前で話すということ。 2017-10-17-Tue
第3回不確実なおもしろさ。 2017-10-17-Tue
第4回悩みを手元に置く。 2017-10-17-Tue
第5回誰かが喜ぶ顔を見たい。 2017-10-17-Tue

岐阜で生まれ育ち、現在は東京・武蔵野で家族三人、猫一匹と暮らしています。狂おしいほどナッツが好き。

燃え殻×糸井重里</br>ちょっと長めのアフタートーク

燃え殻×糸井重里
ちょっと長めのアフタートーク

担当・なちまさと

第5回 誰かが喜ぶ顔を見たい。

糸井
何度も聞かれてると思いますが、
会社は辞めないですか?
燃え殻
絶対に辞めないです。
今、自分が雑誌に出たりすることを、
うちの社員や若手の子たちが見てくれている。
それがおもしろいし、うれしいんです。
アルバイトで入ったような自分が
社長と試行錯誤しながらやってきて、
やっと何度か社会に認めてもらうことがあって
ようやく「ここにいていい」と思えたんですよね。
そうして、小説を書いて話題になったときに
ある意味、親よりも喜んでくれたのが社長だった。
それがいちばんうれしかったなあ。
だから、絶対に辞めないです。
 
糸井
その答えはすごくいいですね。
聞いててうれしい気がしますね。
燃え殻
それは本音ですね。
糸井
逆に、何か書くってことはやめない?
燃え殻
やめないつもりではいます。
それが小説にせよ、お客さんからの企画にせよ、
美術制作のフリップ1枚にせよ、
受注があったことに対して全力で取り組んで、
できれば誰かに喜んでもらいたい。
 
小説を書いたときもそうでした。
こうやったら共感してくれるかなとか、
おもしろいと思ってもらえるかなというのを
常に考えていましたね。
糸井
誰かが喜んでくれているんだったら、
その人とこれからどうしようかなって思いながら
手をつないでいたいみたいなこと、あるよね。
燃え殻
もうそれだけですね。
最初は仕事とは関係ないことから始めていたので、
作品性を高めたいって思ってたんですね。
でも、せっかく世に出るものだとしたら、
関わった人も含めてみんなが喜ぶには
どうしたらいいか考えましたし、
それを探すのが楽しかった。
糸井
うんうん。
燃え殻
自分の作品だと、どんな残酷にもできるじゃないですか。
狂気的なことを書けば、
驚かせるのも悲しませるのもある意味簡単。
でも、おもしろがらせるってけっこう大変だぞって思って。
糸井
人は案外普段は浮かない気持ちでいるからね。
それをウキウキさせるっていうのは
実は意外と力仕事なんですよね。
 
燃え殻
その人がいまどんな気持ちでいるかって
わからないじゃないですか。
自分はそんなに明るい人間ではないので、
僕がこれぐらい喜ぶんだったら、
ほとんどの人は喜んでいて
人生に調子が出てるだろうし。
糸井
調子が出る(笑)
燃え殻
自分の物差しというかハードルが低くて
モノを作るのには向いてるかもしれないなって
思うところはありますね。
糸井
それをずっとやってきたんだよね。
燃え殻
週刊朝日の「山藤章二の似顔絵塾」に
ずっと似顔絵を出してたことがあったんです。
20回以上週刊朝日の裏表紙に載りました。
糸井
知らなかった。
燃え殻
1年間、竹中直人だけの似顔絵を
送り続けたこともあったんです。
糸井
(笑)
燃え殻
学ランでエプロンを着てる竹中直人とか、
茶色い顔の竹中直人とか、バリエーションを変えて
毎週山藤さんに送ってたんです。
糸井
はー!
燃え殻
それが1年に4、5回掲載された。
糸井
山藤さんも選び続けた。
燃え殻
そう。「また竹中直人だね」って書いてくれて。
そこで僕は、自分の生存確認をしてました。
生きてるっていうか、山藤さんが選んでくれていることで、
自分は価値がある人間なんじゃないかってこう‥‥。
糸井
ただ落ちてる石ころじゃないぞと。
ちょっとおもしろい形をしてるぞと。
燃え殻
そう(笑)
どこかで自分はおもしろいんだと思って出してました。
そう思わないと、たぶんやってられなかったんです。
糸井
それはいつから?
燃え殻
高校3年生から、広告の専門学校を出て、
エクレア工場でバイトしてたころからずっと。
糸井
やり続けられたんだね。
燃え殻
それは、ラジオでDJが自分のつけたペンネームを
読んでくれたり、雑誌の『宝島』に彼女と映画館に
行ったときに起こった話を投稿したものが
採用されたりしたこともそうなんですが
自分にとってまったく関係のない場所で
突然光を当てられるような感じで、
「あ、自分はいてもいいんだ」って思えたのかも。
だからこそ、うれしくて続けられた。
糸井
そうなんだよね。
その「いてもいいんだ」って感じ。
でも、下手をすると、
ただの有名になりたい病になる可能性もあって、
そうやってダメになってしまう人を山ほど見てきた。
だから、僕はダメになっちゃうみっともなさに対して
すごく慎重だった気がするんですよね。
でも、いい気になって踊っちゃうこともあるし・・・・。
燃え殻
両方ですよね。
 
糸井
そうですよね。
それで、だんだんと
これは一番だろうみたいなものに出会うと、
もう一回普通に戻る。
普通にすごいって素直に思えて(笑)
だから、そのままでもよかったんだなっていう
答えになるかもしれないよね。
誰にも知られない人のままでも
本当はよかったのかもねって。
燃え殻
自分が会いたかった人が普通の話をしてくれたことに
感動できたりするんですよね。
特別な話だったり、そこでしか聞けなかった話というのも
もちろんおもしろかったんですが、
最終的にはその人が僕とつながっていたと感じられた。
糸井
そうですね。同じ人間ということに気づける。
燃え殻
同じ人間だったって確認したかったんですよね。
その人の作る作品が素晴らしいから。
糸井
うん、そうですね。
だから、みんなが何億円だって言ってるものの価値が
ピカピカに磨かれた100円玉のひとつなんだって思える。
任天堂にいた岩田さんは、
100億円の価値のある人だと思ってたけど、
実はいち100円玉だったというのを、
うちの会社の人たちはみんな知っていた。
その100円玉感をキープすることを、
美意識として持ってますよね。
岩田さんは「それは糸井さんから学んだ」って言い張る。
それで「岩田さんのほうからだよ」って言い返す。
燃え殻
お互いに。
糸井
そうそう。
燃え殻
僕は糸井さんに会ったときに思いました。
糸井
100円玉だって?
燃え殻
あ、同じだって。
糸井
ああ、そうですか。
燃え殻
もっと緊張するかと思ったら、緊張しなかったんです。
糸井
それは僕にとってもうれしいことです。
「いやー、上がっちゃうな」と
100万回言われてもうれしくないですよ。
それはきっと、燃え殻さんからしてみても
「本当に?」と思うわけだよね。
それは、横尾忠則さんがやっぱりそうで。
燃え殻
横尾さんってそんな気がする。
糸井
もう本当にしょうもないの。
手土産が何であるかということについて
僕と漫才みたいなことをしゃべったけど、
冗談を言わないんだよね。
燃え殻
真剣なんですね?
糸井
ちょっと違うんだよね。ただ、目は動物のように真剣。
横尾さんが、前から何回も聞いてる話をしてて、
「ああ」「へぇー」なんて言ってると、
「でも、糸井くん。この話、ぼく何度もしてるよ」って。
 
燃え殻
一回泳がせるんですか!
ひどい(笑)
糸井
もう横尾さんにはね、本当に参る(笑)
何回も修正してる場合でも、
どっちだかわかんないもん。
燃え:
横尾さんはやっぱり途中で気づいたのかな。
もしくはフリなんですかね。アーティストだから。
でも、「横尾さん、それ聞いたことありますよ」って
言いづらいですよね。
糸井
それは言えないです。
だから「知ってたんですか」って返したら
「知ってるよ、そんなこと」みたいな(笑)
燃え殻
(笑)
糸井
年寄りは同じ話をするって決まってるから。
みんなが聞きたそうにそっちに持ってこうとしてるのも
気づいてるから、「そうそう」とか言いながら、
今まで言ってないおまけはないかなと
探して話してるんだけど、
「もうないよ。おまけも含めて前に言ったよ」って。
燃え殻
往年のレスラーが必殺技出すみたいな(笑)
糸井
そうねえ。横尾さんはたどり着き得ない憧れだな。
あの人になりたいわけではないんだけど(笑)
燃え殻
僕は20数年前に横尾忠則展に行ったんですが
すでに謎でした。もうすごかった。
糸井
(笑)
燃え殻
そこで横尾さんがパフォーマンスをしたんです。
お客さんたちが全員体育座りみたいな感じで
周りに座っているところで、足の裏を赤く塗って
助手の人たちがキャンバスをサッと出しても
間に合わなくてダダダダって垂れたんですよ。
そこで何か題名を言ったような気がします。
糸井
もうおかしいですよ。
横尾さんの話は永遠にできますね。
ネタがなくてもふたりで横尾さんについて
考えるだけでもおもしろいね(笑)
横尾さんがテーマじゃない話だったのに。
燃え殻
横尾さんにはもっていかれますね。
今日はありがとうございました。

(終わりです)