糸井

えーと、質問を受けるっていうのをやります。
手を挙げてみてください。
あ、ダメだ。ちょっと追い詰めちゃったね。
今、テレビカメラ回ってます。

燃え殻

とどめですね（笑）。

糸井

じゃ、みんな１回、目をつぶってください。
質問のある方、手を挙げてみてください。いないですね。
ベストセラー作家に振るしかないね。お願いします。
『嫌われる勇気』の古賀さんです。

古賀

手帳は、捨てようと思う機会はなかったですか。
ぼくは引越しのたびに捨てちゃうんですよ。
なんかリセットしたくなって。
そういう気持ち、どうなんだろうなって思いました。

燃え殻

物を捨てるとか、人と縁が切れることが下手なんです。
付き合ってた人とは縁が切れてるんですけど、
自分の中では終わってないんですよね、気持ちが。
いろんなとこで怒られるんですけど。
気持ち悪いとか（笑）。

燃え殻

自分ですらガラクタだと思うものを
何度も何度も読み返していないと安心しないというか。
そういうのをリセットすると
荷物がなくなった気がして、一歩前に出るのが怖くなっちゃう。
だから、荷物が重くないとぼくダメなんですよ。
そういうものを持ってないとたぶん、
ぼくは前に進めないから、絶対一生捨てないと思う。

糸井

それは個性なんですかね。

燃え殻

そうかもしれない。

糸井

小説のタイトルも、
『ボクたちはみんな大人になれなかった』。
子どもを捨てないと大人になれないじゃないですか。
だから、ずーっとそういうお父さんとかもいますよね。
ぼくなんか、捨てるゲームの痛みが好きなんですよね。
ズルズルズルズル引きずりたいって自分が、
捨てざるを得なくなって捨てるときに、
「捨てちゃったけど、とくに大丈夫だったな」
みたいなことを涙と共に味わうのが好きですね。
それはぼくの個性ですね。

燃え殻

へぇー。じゃ、けっこう捨てるんですね。

糸井

捨てますよ。
やけになって、部屋ごと捨てるとか。

燃え殻

え？

糸井

本棚３つか４つ全部捨てたりします。

燃え殻

えぇー？

糸井

何回もやってます、それは。
で、何の差し支えもないです。

燃え殻

本当は何の差し支えもないとぼくもわかってるんです。

糸井

それは、あるとしたら寂しさです。
本とかモノとかは、よっぽどじゃないと
実は要らなかったっていうことに、わりとなります。
だから、燃え殻さんみたいな人がいると、
ますますぼくは男らしくなっちゃって、
「捨てなさい」とか言いますね。でも、根は同じです。

燃え殻

寂しさを感じちゃう？

糸井

で、その寂しさが好きなんだと思うんだよね。
そのキュンとしてるときの自分のこう、実在感？

燃え殻

「生きてるー」みたいな。

糸井

昨日、ほぼ日のビートルズの手帳で
インタビューされてさ、
若いときの話をするから、
どういうふうに自分がモテなくてフラれたかという話を
軽い気持ちでし始めたら、悲しくなっちゃって。
受け入れられなかった自分が不憫になっちゃって。

燃え殻

ちょっと涙が？

糸井

ちょっとにじんじゃって（笑）、
「ごめん、ちょっと待って」みたいな。

燃え殻

大人になれてないじゃないですか（笑）。

糸井

だから、それは捨てても残ってるんです、やっぱり。
つまり、俺、でこぼこ理論なんで、
型があって、そこに嵌まってる粘土が自分だと思うので。
粘土をギュッとやれば
必ずその人はそのマークができるって型は、
自分じゃないけど、
いくらでも自分の作れるものですよね。
それが世界です。
ぼくがいなくなっちゃっても、
ここにぼくがいるって
みんなが思ってればぼくはいるんです。
という理論なんで、
捨てちゃったら俺じゃなくなっちゃうなって。
そういう気持ちになるから子どもは、捨てたくないんです。

燃え殻

ああ、じゃ、ぼく、それだ。

糸井

それだと思う。
だから、大人になれなかったって言ってるじゃないですか。

燃え殻

はい。発売までして（笑）。

糸井

俺ね、若いときに、姿勢が悪かったの。
ロックだから、ね。
で、そして、姿勢が悪いってことを女の子に言われて、
「だって、それが俺じゃん」って自慢そうに言ったら、
「へぇ、それが自分なんだ」って（笑）。

燃え殻

それ飲み屋の会話みたいな（笑）。

糸井

飲み屋の会話に近いけどね、
普通に歩いてって言われて、
ものすごく腹が立ったんだけど、
まったくその通りだと思った（笑）。
だから、ペッて唾して、
「それが俺だからさ、ペッ」なんつったときに、
「それが俺なんだ」って言われたときのバカらしさ。

燃え殻

「それ、おまえ？」みたいな。

糸井

「おまえは、唾をするということでおまえなんだ」
っていうのはすごいインパクトあって、
今、姿勢いいです。

燃え殻

ものすごい影響を受けたんですね。
ああ、でも、わかるなあ。

糸井

古賀さんの質問からだいぶ離れました。
ほかにございませんか。
はい、真ん中の、あ、あなたです。

男性

印象的なツイッターやツイートをされてると思って
楽しく読んでいます。
どういう思いで、きっかけで書こうかなって思ったんですか。
こういうときは書こうかなとかってあるんですか。

燃え殻

何だろうなあ、何もないときに書いてますね。
それこそ習慣づいてて、
最近はもうちょっといい加減にしようと思ってるんですけど、
昔、学級新聞を書いてたときに、
「なんで学級新聞を書いてるの？」って
自分で問いたくなったんです。
読んでる人いなかったから（笑）。
何の意味もないのに書いてるんですよねえ。
でも、どこかで気持ち悪いから
承認されたいとか思ってるんでしょうね。

糸井

気持ち悪いって
言われるうちにそう思うようになったんですか。

燃え殻

言われましたねえ。
ツイッターで
リツイートとか「ふぁぼ」がいっぱいつくと
なんかうれしい、というのがあったんですけど。
つけている側に意味なんかなくても、
それを受けてるほうは、
人気があるんじゃないかって思い始めちゃって、
これヤバい、ヤバいというか気持ち悪いなと。
それ期です、だからぼくは。

糸井

今、そのウケちゃって気持ち悪いなって。

燃え殻

そういうのは勘違いしてはいけないと。
たとえばツイッターとかで
フォロワーが多い人が何かイベントをやります、
っていうときの危うさって（笑）、ありませんか。

糸井

自分を支持してくれる人を集めるのを繰り返すと、
仕事になるんですね。
で、そこで止まるんですよね。

燃え殻

止まる、止まるじゃないですか。

糸井

うん、止まるのがいやだから、したくない。

燃え殻

ぼくもそれがすっごい嫌なんです。
同じ人から何度も気持ちを取るみたいなことを‥‥

糸井

「気持ちを取る」ね、うんうん。

燃え殻

ツイート集みたいなのを出しませんかって言われたら
嫌だなって思ったのは、
その人たちから金をもう１回取るみたいな、
そういう‥‥なんかすごい小さい‥‥

糸井

狭い感じね。
そう思ってる人はなんないです。絶対なんないですよ。
気づいちゃってる人はしないんですよ。
大丈夫です。燃え殻さんはならない。
で、武者修行は好きですよね。

燃え殻

あ、そうそう、それは大好きなんですけど、
もうぼく、糸井さんに会うの超怖かったんですよ。
そりゃ怖いじゃないですか。
糸井さんに会うって怖いですよ。今２回言いましたけど（笑）。
で、怖い人にしかこの夏、会ってないんですよ、ぼく。

糸井

ああ、いいですね、うん。

燃え殻

もうずっと肝試しみたいな。
だって大槻ケンヂさんとか、会田誠さんとか、大根仁さんとか、
そんなの毎週会ってるんですよ。
そうすると、ちょっと違う人が見ると、
「このミーハーめ」と。

糸井

ああ、なるほど、なるほど。

燃え殻

何ていうんだろう、プロレス好きなんですけど、
新人レスラーが、強い選手と
夏のシリーズとかで７番勝負とかさせられるんです。
で、バカみたいにやられるの。
で、もうそれに近くて。

糸井

プロ中のプロのトップクラスの人が
どういうふうに恐ろしいか、みたいな。
そこのところで、組手やらせてもらって
ありがとうございましたっていうのって。

燃え殻

それぞれ宗派が違うんですよ。
でも、だから、勉強になるんです。
みんな、いい人でしたよ。
いろんな組手をして、そうするとわかるんですよ。
自分がいかに何でもないかがわかるし、
今、自分が置かれてる立場とかが、
x軸、y軸でわかるんです。
そうすると、すっげえ持ち上げる人がいたとしても、
もうわかるっていうか。

糸井

あなたはすごいですよっていう、はっきりあるものがあって。
それは、あのとんでもない角度から
いろいろ質問受けてる人生相談。
あの答えてる燃え殻さんは、
すっごく同じ場所に立ってて、一生懸命考えてて、
エッセイでも何でもないんだけど、
ものすごい発見もあって、全部面白い。

燃え殻

えー、ありがたい。

糸井

谷川俊太郎さんの人生相談の本を
うちで出してるんだけど、
『谷川俊太郎質問箱』っていうので‥‥

燃え殻

はい、ぼく、持ってます。

糸井

あれぐらい面白い。

燃え殻

ああ、ありがとうございます。

糸井

本当にあれ一生懸命やってますよね。

燃え殻

糸井さんとか堀江さんとか会田さんとかは、
「全然かなわない」って思って。
でも、失礼なんですけど、会ったら、
「あ、人間じゃん」って思ったんですよ。
何十パーセントかは多分、みんな一緒やんって思って。
人生相談みたいのを文春オンラインで
やっているんですけれど、
そういう気持ちに俺もなったことあるよ
っていうことばかりなんですよ。

燃え殻

性別や年代、生きてた場所や職業が違うとしても、
ああ、その気持ちに近い気持ちになったみたいな、
って思うんです。
で、その話をまずしよう。
その人と握手したいというか、
こういうことであなたと同じような気持ちになった。
もしかしてこうなんじゃないかな。
もし、ぼくがあなたの立場だったらこう思う。
違ったらごめんなさい、
ぐらいまで入れるっていう感じですよね。

糸井

何よりもいいのは、
燃え殻さんのいい意味での気の弱さがあるおかげで、
その相談してきた人に
嫌な思いしてほしくないっていうことなんですよ。

燃え殻

ああ、それ思います。

糸井

回答するというのを
効率的だったり、真実に近いところでするんだったら、
いい答えはいっぱい、あるんですよね。
ぼくもそれはよくやるんです。それも。
だけど、燃え殻さんは、
その人が嫌な目をしませんようにっていうのを前提にしながら、
こういうおじさんがいたんだけどとか（笑）。

燃え殻

だから、拙くてもそのまま載せてもらっていて。
なんか、レスキューじゃないですか。
悩みがあって、それをネットにメールするって、
相当悩んでる、もしくは、
自分としても答えが欲しいというか、それくらい真剣なんで。
ということはそれぐらいもう傷ついたり、悩んだんで、
もういいじゃないかってぼくは半分思ってて。
もうそこまで悩んだら、半分いいよ。
投げ出さなかったという時点ですごいなあ、みたいな。

糸井

人生相談に答えてるというよりは、
その人と隣り合わせで慰めてるんですよね。

燃え殻

ああ、そうです。
そう思ってました、ぼくは。

糸井

このところぼくがものすごく考えてる
「慰め」っていうことの大事さ。
燃え殻さんの人生相談の中にそれがあるんです。
この境遇を演歌を歌って慰めて
明日もしかして笑って過ごせるかもしれないと思うことは、
それこそブルースだとも言えるし、
ほかにどんな道があるのっていうのを。

燃え殻

そうなんですよ。

糸井

と思って。
自分のために詞を書くとか、
自分のために歌を歌うだとか、
私を歌ってるんだと思って涙する、
みたいな、弱いところの自分と、
それを抱きしめたい、撫でたいという、
・・・・そっちがもっと大事になると思うんですよね。
これぼくに案外なかったことなんで。

燃え殻

ああ、そうだと思う。
傷がかさぶたになって、取れて、きれいになりましたって
すごく素晴らしいですけど、そんなことばっかじゃないから。

糸井

そうそうそう。

燃え殻

そのかさぶたでもいいし、
血を止血しながらでも
生きていかなきゃいけないじゃないですか。

糸井

そうそうそう。

燃え殻

「一旦保留にしようぜ」って言う人生相談って
なんでなかったんだろうって。
手帳を見ると解決してないことばっかなんですよ。
それが全部解消して線が引けて、
「はい、これだけ俺、成長した」と。
今の自分はすごい成長してるっていう
優越感のもとに手帳なんか見てるわけじゃなくて、
うわー、昔のほうがちゃんと考えてるとか。

糸井

あるあるある。

燃え殻

でも、それを見られるのもすごくよくて、
保留にしたことによって、自分が忘れられる。
それで一端置いといて、
将来の自分をもう一回置いとこうかって。
そういうほうが、リアルなような気がして。
全部がきれいに片付いてくるほうが、そのほうがいいけど。

糸井

グシャグシャしたことでも、
語ってるうちに泣いちゃって大声出したりする。
テーマ忘れて泣き止むかどうかになりますよね（笑）。

燃え殻

わかります、わかります。

糸井

子どもも、ウワーッて泣いて、止まると終わるじゃないですか。
あの、泣いてるだけって状態に手を差し伸べるのが
「あんた、もう一生の仕事にしなさい、それを」って。
あなた、モテるんですよ。
わかるでしょう、だってこの人モテるの。

燃え殻

モテない、モテない（笑）。

糸井

女の人はものすごく頷く。
今泣いて「痛い」って言ってるときに、
それ説明されても困るんだよね。

燃え殻

答え要らないときって多いと思うんですよ。

糸井

ご飯食べるとかさ。

燃え殻

お腹いっぱいになると、解決したりしません？

糸井

あと、歩く。

燃え殻

ああ、歩くもあるかもしれない。

糸井

俺は自分は歩くで大体ごまかしてるね。

燃え殻

歩くとアイディア出ますしね。

糸井

アイディアも出るし、
これじゃないなっていうところに行きそうになってる問題が忘れられますね。
ぼくはもうね、ここで万歩計売りたいですね。
‥‥ああ、全然ウケないですね。古かったんですかね、万歩計は。

燃え殻

古いですね（笑）
自分の中で少し出していくとか、
書くのもそうなんです。
それが何かにつながるとか、
そんないやらしいことは考えないで書いてて。
そのときは多分、それがいいなと思って
直接的なことしか考えてないけど、
今自分が必要だからやる努力じゃなくて、これは何‥‥

糸井

何したかわかんないけど。

燃え殻

わからないけどって言ったものが
どのくらいあるかっていうことで、
人と対したときに何か言葉が出てきたりすると思うんですね。

糸井

それね、今、ぼくらが読者会やってる
『うらおもて人生緑』という色川武大さんの本の中に、
「言い訳に使えるなと思った種はどんどん仕込んでいきなさい」って。
さすがにいい博打打ちでしょう？

燃え殻

はいはい。

糸井

それでしのげるだけで、
一番大事なヒヨヒヨとした粘膜の中側のところに傷が行かないんだよ。
そういうのは技術なんだけど、子どもに教えてあげたい感じはします。

燃え殻

わかりますね。

糸井

またこの続きは、ほぼ日の中でくっつけた形で話をして。
ほぼ日の塾の生徒さんたちがまとめたものが、やがて載ると思います。
いっぱいしゃべってる無口じゃない燃え殻さんが味わえたと思います。
どうもありがとうございました。

（おわります）