もくじ
第1回「作品を出す」と「商品を出す」はちがう 2017-10-17-Tue
第2回子どもを捨てないと、大人になれない 2017-10-17-Tue
第3回勝ちも負けも失敗も成功もなく、「楽しめ」 2017-10-17-Tue
第4回遠い悩みをすると、ロマンチストになる 2017-10-17-Tue
第5回「そこにいていい」いうのがうれしくて 2017-10-17-Tue

川崎生まれ、東京とニュージャージー育ち。会社員とフリーランスを毎日いったりきたりしながら、PRと企画と編集とライティングのおしごとをしています。

燃え殻×糸井重里 対談</br>他の人が表現したことも、ぜんぶ自分の物語。

燃え殻×糸井重里 対談
他の人が表現したことも、ぜんぶ自分の物語。

担当・大原絵理香

第4回 遠い悩みをすると、ロマンチストになる

燃え殻
ぼくの肩書って、また難しいんですよ。ネットで出すときの肩書、新聞で出すときの肩書、その新聞の種類にもよる。向こうからある程度、「この肩書どうですか」って来るんです。
糸井
いくつもあるわけだ。
燃え殻
はい。
糸井
例えば何がある? 「作家」はある?
燃え殻
「作家」もある。
糸井
「会社員」はある?
燃え殻
「会社員」もあった。
糸井
(笑)。あとは何がある?
燃え殻
「コラムニスト」みたいな。
糸井
ああ、なるほど、なるほど。
燃え殻
コラムニストと言っていいの? って(笑)。
糸井
はいはい、でも、まあ、あるだろう。
燃え殻
あと、「ライター」と言われたこともある。で、あと‥‥「テレビ美術制作」。
糸井
ああ、なるほど、なるほど。
燃え殻
「ツイッタラー」。
糸井
「ツイッタラー」。
燃え殻
これね、面白半分に言われたんですよ。
糸井
うん、「ツイッタラー」(笑)。
燃え殻
でも、良かったんです、それで。「作家」だったら炎上するかもしれないですけど、「ツイッタラー」だったら、バカだって言って笑われて終わりじゃないですか。
糸井
うんうん。
燃え殻
で、「会社員」でもいいんです。「会社員」って振りかぶって、すげえ長い文章書かされたんですよ(笑)。なんで「会社員」って肩書でこんなに長いこと文章を書かされなきゃいけないんだって思ったけど(笑)。
糸井
確かに長い文章と「会社員」は合わないな(笑)。
燃え殻
そう、合わないじゃないですか。それでも、「作家でいいですか」って言われるのが一番‥‥。
糸井
やりにくいんだね。
燃え殻
やりにくいんですよ。インタビューのときに、ライターの方が、「ぼくも、新聞だと『コラムニスト』と言えといわれるんです。でも他では、『○○評論家』とか『ライター』とか。ただ、『ライター』はダメだっていう新聞が多いんですよね」と言っていて。それから、色々あるんだなって思って、向こうから言われるのを受け入れることにしたんです。
糸井
もういいかって思ってるわけだね。ぼくももうずっと、もういいかですよ。
燃え殻
糸井さんって肩書は何なんですか。
糸井
いまは「ほぼ日刊イトイ新聞主宰」か、「ほぼ日社長」かな。あとは、「コピーライター」か。その3つ。俺思うんだけど、地方の新聞に出るときの肩書が一番一般的に通用しやすいんじゃないかね。
燃え殻
本当にそう思います。
糸井
ねえ。だから、地方の新聞に俺が出てるときには、「ほぼ日主宰」って書いてあるよりは、「コピーライター」って書いたほうが、なんか落ち着きがいいと思うんですよね。それだったらそれでいいやっていう。あとは最近ほら、「樋口可南子の旦那です」っていうので‥‥。
燃え殻
(笑)
糸井
もういざとなったら、自分から言うからね。
燃え殻
(笑)
糸井
もうね、攻めてくの。さっきの「楽しめ」と同じ。鶴瓶さんから学んだの。鶴瓶さんも、声かけられそうだなと思ったら、「鶴瓶でございます」って言うんだって。
燃え殻
あ、もう先に。
糸井
うん。「どうした。おばちゃんどうした」って。攻めてく。俺、大阪を鶴瓶さんと一緒に歩いたことあるんけど、攻める攻める(笑)。
燃え殻
また目立ちそうですもんね。
糸井
そう。遠くからこっち見てるなって気づいただけで、攻めてくもん。「どこ行くん」。どこ行くかどうだっていい(笑)。
燃え殻
(笑)。あ、質問すらする?
糸井
そう、質問する。あれはすごい(笑)。ほんと、さっきの「楽しめ」と似てますよ。主体は自分で、自分のやることとしてどうしたいんだっていうのを問いかけてるのが「楽しめ」ですよね。
燃え殻
もっと楽しめばいいじゃないか。
糸井
そうそうそう。
燃え殻
でもね、それ、本当そうなんですよねえ。
糸井
本当そうなんですよ。楽しめっていう選択肢はあるんだってだけで変わると思うよ。

燃え殻
会田誠さんが、「まあ、別にそんなの緊張する必要ないよ」みたいなことを言って下さったときに、「でも、会田さん、みんなこうやってメモ持って待ち構えてる人がいるんですよ」って言ったんですよ。
糸井
うんうん。
燃え殻
そしたら、「メモのこと忘れるぐらい適当な話しよう」って言ったんです。
糸井
ああ。アーティストだね、やっぱり。
燃え殻
ああって思いました。脱力しました。
糸井
すごくあの人は、でも礼儀正しい人でしょう?
燃え殻
はい。
糸井
大人やれるタイプでもあるよね。仮面かぶって。
燃え殻
そう。スーツ似合うんです。
糸井
ああ、なるほどね。
行ったり来たりできる人がいるんですよ、ときどき。多分ぼくもそのジャンルに入るんだと思う。
燃え殻
あ、そうですよ、きっと。
糸井
だから、下ネタの次のタイミングで、すごく真面目なこと言うみたいな(笑)。
燃え殻
(笑)。
糸井
俺、「赤とんぼとまっているよ竿の先」っていうのがおかしくて(笑)。
燃え殻
(笑)
糸井
でも、ツイッターで書いたら、全然ウケないんだよね。テレビで合唱の番組を見てて、お母さんが自分の子どもの「赤とんぼ」の歌声に感動して泣いてたりするんだよ。そのときに、思いついちゃって、もうおかしくてさ(笑)。
燃え殻
みんなが感動してるのに(笑)。
糸井
で、その男がとまらせようとしてるんだろうなって思っただけでもうおかしくて、「赤とんぼとまっているよ竿の先」って書いて。ダメだったね。
燃え殻
本当にダメですよ(笑)。
糸井
ダメだね。でも、いいでしょう、それ。
燃え殻
でもね、もうそこの行き来ができる‥‥行き来ができない人ってけっこういるじゃないですか。下ネタでも‥‥。
糸井
下に行ったっきりの人とかね(笑)。
燃え殻
そう。あと、女の人でもクスッと笑える下ネタと、潮干狩りができるぐらい引く下ネタってありますよね。
糸井
うん(笑)。
燃え殻
あれ何なんだろうな。
糸井
生理感覚みたいなところに訴えかける下ネタはよしたほうがいいんじゃないですかね。あと、描写として上手過ぎたらダメ。「あの人の下ネタはいやらしい」って言われたら、ダメだと思う。
燃え殻
そう、ダメなんですよね。
糸井
何だろう、「いいお天気ですね」っていうのもさ、心から言ったらいやらしくない?
燃え殻
情感たっぷりな「いいお天気ですね」って、面倒くさいですねえ(笑)。
糸井
嫌でしょう?(笑)
燃え殻
うん、面倒くさい。
糸井
なんですよ。
燃え殻
心が通わないほうがいいことっていうのもあるってことですね。
糸井
ほとんどの時間が通わないほうがいいんじゃないの? 通うにしても、等価交換的な。10円分渡して10円分ね、みたいな。小銭のやりとり。
燃え殻
小銭のやりとりぐらいが、ちょうどいい距離感なのかな。

糸井
例えばぼくが今、燃え殻さんに100円あげたとするじゃない。冗談で「まあ、これで温かいものでも食べて」って。そしたら、そのまま受け取っても、お互いにギャグになるじゃないですか。これが6800円渡すと、「どうしたんですか」ってなりますよね。
燃え殻
それで「温かいもの食べて」つったら、ちょっと‥‥。
糸井
自分がどう見られたんだろうって思って、気持ち悪いですよね。だから、100円玉の流通ですよ、基本は。
燃え殻
日常というか、コミュニケーションというか。
糸井
そうですね。だから、燃え殻さんが小さいエッセイみたいなツイートするときとか、あれ100円とか10円の話なんだけど、その100円がうれしいんですよね。Twitterにどっさり載せるのはやっぱり、しょっちゅうやっちゃダメですよね。
燃え殻
そうですね。Twitterでもどっさりの人いますね。だから、本当に難しい。
糸井
古賀さんが犬のこと書いてるときとかってさ、もう1円玉みたいじゃない(笑)。それは、なんかあってほしいよね。
燃え殻
そういうことが常に練習じゃないけど、あいだに入ってないと。
糸井
そうそうそう、そうそうそう。
燃え殻
逆に110円のときもあるからね。
糸井
あるある(笑)。
燃え殻
古賀さんはほっといたら150円ぐらいになっちゃう‥‥。
糸井
そうそうそう。
燃え殻
だから、逆に1円でバランスいいんですよね、そっちのほうが。150円が効いてくるから。ずーっと、150円の人もいるしなあ。
糸井
古賀さんは多分、毎日書くっていうのを自分に課して、毎日書くと書くことがない日がどんどん出てきて、そういうときでも毎日書くって決めたから、1円玉とか使えるようになったんじゃない? それは多分、自分でそうしたかったんだろうねと思う。
燃え殻
なるほど。
糸井
横尾さんがさ、俺が何回も聞いてる話をしててさ、でも俺らが「ああ」「へぇー」なんつってると、「でも糸井くん、この話、ぼく何度もしてるよ」。俺ね、ひどいと思う、あの人(笑)。
燃え殻
(笑)。そんな、1回泳がせることアリですか。
糸井
うん。もう横尾さんにはね、本当に参る(笑)。
燃え殻
でも、横尾さんすごいですね。途中で思い出すんですかね。それか、もうフリなんですかね。アーティストだから。
糸井
わかんないけど、こう宇宙全体から自分を見るような視線を、もう1個持ってるからね。
燃え殻
(笑)。そうですよね。本当に持ってるから困ったなあ。
糸井
点で見てるんじゃなくて、自分以外の大宇宙から私を見てるって視線を持ってるからね。だから、なにか言って、そこがちょっと言い足りない場合は足すし、引くし。次があるんだ、いつでも。やることなすこと。
燃え殻
「それ横尾さん、聞いたことあるよ」って言いづらいですもんね。でも、人に教訓めいた話とか、なにかこう導かなきゃいけないとかいうバリエーションとして。
糸井
そのときは、「これはもう何度も言ってるけど」って言う。
燃え殻
ああ、枕として。
糸井
うん。だから、さっきの「楽しめ」なんていうのは、もう何回言ってるかわかんないわけ。あと、「考えたことあるんだよ」っていうのは、すごく好きなフレーズで。なにも考えてなさそうな人に、「ああ、それはさんざん考えたことあるんだね」って言うと、「ええ」って言うんだよ。で、それは絶対面白いんですよ。
燃え殻
うーん‥‥。
糸井
このあいだ、イケちゃんという、すごく普段は軽薄そうに生きてるカメラマンと話したら、ちゃんと考えたんだってことが、ポロッポロッと出てきて。
燃え殻
ああ。
糸井
燃え殻さんは、その考えた節があるっていうのが、もう小説になったりエッセイになったりしてるわけだけど。
燃え殻
考えてるっていうことを、出してるというか。
糸井
そうだよね。
燃え殻
はい。悩みとかも常にそうですよね。
糸井
(笑)
燃え殻
悩みが解消しない。悩みは、置いとくか、変わるか、枝分かれするか。
糸井
知り合いでね、五十肩の痛みが痛風で意識されなくなった人がいて。
燃え殻
(笑)
糸井
痛風は何にも勝るんだね。「五十肩どうしたの?」って(笑)。
燃え殻
痛風だと、いまは。
糸井
悩みも、ちょっとそういうとこあるよね。
燃え殻
ありますね。悩みは悩みで、消すみたいのがありますよ。やっぱりずっと悩んでると、病みますからね。

糸井
そんなに悩むんだ。
燃え殻
うん‥‥。
糸井
タイプ的に。
燃え殻
タイプ的に。でも、そこでダメになるわけにはいかないというふうには思って、解消法として、ほかのことを悩むという。「おまえ、同じことばっかり悩んでて、つまんねえよ」って自分で言うんですよ。「もっと面白いことないの?」って。「新しい悩みが欲しいなあ」みたいな。
糸井
あ、そう言われると、自分にもそういうとこあるかもしれない。でも、余計にややこしくなって‥‥。
燃え殻
そう。それ本当にわかる。
糸井
そう? (笑)。
燃え殻
はい。面倒くさくしちゃったほうがいいってときあるんです。
糸井
面倒くさくないと、することが見つからないのかね。
燃え殻
うーん。何ていうんですかね、手元にいろいろあったほうがいいですね。悩んで解決しない人ってね、「人生が」とかすぐ言うんですよ。
糸井
ああ、ああ。
燃え殻
でかいんですよ、悩みが。
糸井
うんうん。
燃え殻
宇宙から見ないと解決しない悩みを言うんですよね。
糸井
うんうん、あるね。
燃え殻
そういう人にはやっぱり、手元に悩みを置くことをおすすめしますね。そうするとね、それに集中しなきゃいけないんでね。これはオススメです。ちょっと遠い悩みって、ロマンチストになるじゃないですか。お酒とか飲むと、とくに言いがちなんです。「やっぱり人生ってさ」って(笑)。「来週の納期ってさ」とはならないじゃないですか。
糸井
うんうん。
燃え殻
やっぱり来週の納期とかの話をしてると、いいですよね。本当の意味で解決しますね。
糸井
その「来週の納期」の積み重ねが、「人生ってさ」の裾野だもんね。
燃え殻
そうです。「人生ってさ」っていうのは、振り返っていう話なので、ふりかぶって言っちゃダメだなって思うんですよね。
糸井
本当に。
第5回 「そこにいていい」いうのがうれしくて