燃え殻さんと、ただ、会って話した。
第4回 サービス精神

- 燃え殻
-
小説はあまり売れないという前提に加えて、
ぼくは無名なので、もう二重苦。
売れてる小説家さんの内容自体を
参考にするのは、ぼくには難しすぎる。
みなさんがスマホで
ユーチューブやまとめサイトを使ってる時間を、
どうにか小説のほうに引きずり込みたかった。
だから、できる限り栞を使わずに
すべてサーッと読める言葉で。
やっぱりどこかで、自分のやりたいことを
突き放してでもサービスしたいっていう‥‥

- 糸井
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うん。
- 燃え殻
-
サービスしたいという気持ちじゃないと、
乗ってくれないだろうなと。
読んでいるときのリズム感が文章には、
すごく大事だと思っていて。
そのために書いてあることを変えてもいいと思ったんです。
このリズムがよくないから台詞を変えちゃおう、
「こうするとスッと読めるよね」っていうほうを選んだんです。
一気読みできるようなものにしたいなって。
この小説はユーチューブで聞いてる音楽と
異種格闘技戦をしなければ、
多分読んでくれないという気持ちがありました。
- 糸井
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それは、でも、当たり前なんじゃない?
それがまた楽しかったわけでしょ?
- 燃え殻
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楽しかったですね。
- 糸井
-
書きたいんだって思ったことを書いてるとき、
それに陰影をつけたり、ちょっと補助線を引いたり、
一部を消しちゃったりっていうのは、
音楽を作る人が
「メロディ、あ、こうじゃないな」というのと同じ。
そういうときに初めて、
客が来る前でスケートする人になる。
それまで書いてたものとか、
ひたすら資料を集めたりしてた時代とか、
あるいは自分しか読まないものを書いてた時代とか、
学級の人しか読まない新聞とか、
それらと今回の小説の違いはそこなんじゃないでしょうかね。

- 糸井
-
新人のときには、原稿を直されたりするけど、
そういうやりとりはあったんですか。
- 燃え殻
-
ありました。
- 糸井
-
それはどうでした?
- 燃え殻
-
女性の編集の方だったんで、
ぼく、男としてはアリっていう表現を、
「女性は読んだときに嫌悪感があります」
というものに関しては、
バッサリ捨てました。
例えれば
主人公は、同じラブホテルに、
女の子と、違う女の子と2度泊まります。
で、そのあとに昔好きだった女の子を思い出すというシーンが
一番最初のオープニングなんですけど。
「20年ぐらい経っても同じラブホテルに行ってる男、
引くんですけど」って編集者に言われて(笑)。
- 糸井
-
ああ、なるほど、なるほど。
- 燃え殻
-
「ちょっといいとことか、行かないんですか」みたいな。
- 糸井
-
でも、しょうがないじゃん、ねえ(笑)。

- 燃え殻
-
「別に行ったりとかすると思うんですけど…」って言ったら、
「いや、行かないでください。女性引きますから、そういうの」
って言われて。
それで六本木のシティホテルみたいな
ラブホテルに行くって変えたりとか(笑)。
- 糸井
-
ああ、そうか。
- 燃え殻
-
はい。
途中で出てくる登場人物に、
自分のことよりも好きだって
言ってる彼女がいるのに、
途中で「スー」という子が出てくるんです。
で、その子といい仲になる感じになる。
それも「女子は引きます」と。
「女子は引くつっても、出てきちゃってて、
男としてそういうすごい好きな子がいても、
まあ、あるっちゃあるんだよねえ、ハハ」と言うと、
「ハハじゃねえよ」みたいな感じで(笑)
「そういうことじゃないから」って。
で、スーとの直接的な
セックスシーンみたいなところは‥‥
- 糸井
-
ないないない。
- 燃え殻
-
全部切ったんです。

- 糸井
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だから寂しかったのか。
- 燃え殻
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(笑)。切っちゃったんですよねえ。
- 糸井
-
多分、今、本を作ることは、
作品を出すっていうことと、
商品を出すということと二重の意味がある。
だから、「女子が引くなら引くで、引けよ」というのが
作品じゃないですか(笑)。
- 燃え殻
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ああ。
- 糸井
-
でも、「女子が引くんです」。
「あ、そうですね。それ汚れに見えますもんね」と言って、
「きれいにしましょう」って拭くのが商品。
推理小説の中で描いてる恋愛なんていうのは、
そこにある理由なんかなかったりする。
推理小説は推理小説のようになってないと困るから、
人を殺して入れたりするってことはあるわけでしょ?
それは商品性を高めてるじゃないですか。
だって、ドストエフスキーだってそれこそ殺人とか交ぜて、
来週はどうなるんでしょうねって。
「ドストエフスキーです!
来週はどうなるんでしょう」って(笑)

- 燃え殻
-
「ジャンプ」的な。
- 糸井
-
その商品性を
丸々否定するわけにはいかないし、
女性が引いちゃうんだったら
これはやめとこうかというのも、
伝えたいものがあるんだったら、
バランスの問題。
- 燃え殻
-
そう。
だから、やっぱりゴールデン街の朝や、
ラブホテルのその朝か夜かわからないところの部分って
ぼくとしてはすごく気持ちよかったから、
いろんな人たちと共有したかった。
そうなると、ほかの部分は、
それを補強するものなんですよね。
だから「多くの人に読まれる道は
こっちなんじゃないですか?」と、
されたものに関しては
「じゃ、そっちの道で考えます」っていう形で
どんどんやっていったんです。