こんなにも「行きつけの喫茶店」に憧れていた私。
だがなんという運命のいたずらか、
無事近くに喫茶店の存在する大学に合格したのにも関わらず、
今となってはチェーンのカフェを愛する人間となっている。

弁明させてほしい。
もちろん、行ってはみたのである。

たとえば手作りケーキが美味しい喫茶店。
真紅のベルベッドのような生地が張られた椅子が
木製のテーブルの暗い茶色や
暖色のランプで演出された店内に不思議な効果を与えており、
なんとも私の好みだった。

こんな喫茶店もあった。
私が妄想していた「おじさん」にそっくりの性格・見た目で、
とても気さくなマスターの店。
常連さんがたくさんいて、
ほんとうに「マスター、いつもの」と言っていた。
違ったのは嗜好のみ。
（現実のマスターはイギリスではなく、ブラジル贔屓であった。）

だが、こんなにも魅力的なのにも関わらず
これらのお店が私の行きつけの喫茶店となることはなかった。

いや、私としても通いたい気持ちはあったのだが、
現実はキビシイのである。

まず第一に、
そういう「隠れ家系」喫茶店は
すべてのメニューが比較的、高価なのだ。

これはちょっと考えればわかる理屈である。
なにしろ「隠れ家系」なので、お客さんが少ない。
お客さんが少なければ、
当然店を回していくためにメニューの単価を上げる必要が出てくる。
こうなってくると貧乏学生にはきびしい。

第二に、学生であふれていて、あまり勉強に適さない。
高価とはいえ
「友達やセンパイとお茶をする」というイベントに使う店としては
妥当な価格帯であるため、
サークルの同期でわいわいしたり、女子会をしたり、
OB訪問で貴重なお話を聞いたりという団体が多かった。

サークルわいわいや女子会は歓声がうるさかったし、
OB訪問は聞こえてくる話が本当に貴重なお話すぎて、
思わず聞き入ってしまい、勉強に手がつかないのである。
中でも
「学科で学んだ心理学理論とPDCAサイクルを駆使して元カノと復縁、
ついでに面接でその話をしたら
大手商社総ナメ余裕だった、
などと言った話は非常に興味深く聞いた。

喫茶店に通うためにバイトを入れまくるのでは
結果的に喫茶店に通えないことになり、本末転倒。
それに、読書をしにきて「すべらない話」ばかり仕入れるのでは
なにをしているのかわからないではないか！

そういうわけで、私は、
「不本意だなあ」と思いつつも、
どの駅にも２、３軒はある
チェーン店に行ってみることにしたのであった。