わたしの好きなもの『月百姿』
担当・さとえり
私はいま、下町の雰囲気が漂う町に住んでいます。
高層マンションやビルが無いので、
空気が澄んだ夜の帰り道、少し空を見上げるだけで、
ぽっかりと浮かぶ月がきれいに見えるのです。
もうすぐ日付も変わるような時間、
ひっそりとした暗がりの道路を
電柱の明かりをたどって歩くと、
寝静まった町の中で起きているのが、
私ひとりきりのように思えてくることもありました。
けれども、
アパートからぼんやりと漏れる明かりが見えるとき、
メールを受信したスマホがかすかに振動するとき、
誰かも同じように月を見ているかもしれないと気づいて
なんだかふんわりとした、不思議な気持ちになりました。
わたしの好きなものとして、
書かせていただくのは『月百姿』。
『つきひゃくし』と読むそうです。
これは、今から130年ほど前の浮世絵のタイトルです。
江戸時代の終わりから明治時代にかけて活躍した
「最後の浮世絵師」月岡芳年(つきおかよしとし)が描いた、
月にまつわる連作です。
私がこの作品に出会ったのは、実は今年のこと。
けれども、時間なんて関係なく、
あっという間に好きになってしまったのです。