はまっているテレビ番組があったとしても、
すきになるにはもう一歩ある気がします。
なんとなく来週気になるかな、という気持ちで
だらだらと観ている番組はたしかに
何個かはあります。
でも、すきとはまた違う。自分の大事に
しているものを反映していたりしないと、
簡単にすきだと思うことはむずかしいことです。
でも、Bake Offは、はまった上に、「すき!」
と言えるなにかがあります。
多分1番大事なのは、やさしさがあるということ。
「競い合い」という言葉が似合わないくらいです。
たとえ対戦相手であったとしても、
そのまえに共通の趣味をもった
ともだちや家族のような、チームのような関係性が
あるのです。だからこそ、時間内に終わりそうに
ない人を手助けしたり、焦っていたら声をかけたり
という行動が、自然とできています。
共通の趣味を通して結ばれた
絆がとても強い。
でも、決してやさしすぎてふにゃっとしている
わけではありません。それはみんな本当に真剣で、
勝ちにきているから。でも、ほかの人と比べて、
ではなく、自分の趣味を通して培った実力を
試しているのです。
なので、くやしがったりすることはあっても、
それは練習時にはできてたのに、本番で
うまくいかなかった自分へのくやしさです。
これはきれいごとではなく、ほんとうに。
だから、回が進むにつれて出てきても
よさそうな妬みや嫉みがありません。
誰かが審査員にほめられたら「やったじゃん!」
と素直に言ってハイタッチできるし、
お互いの完成したものをほめ合うこと
もできる。でも、これらは無理して、テレビ的にいいこと
言おう、という考えのもと取っている行動ではなく、
自然に出てくる言葉。
そう、この自然さや、正直であることも大事です。
正直であることの大切さは、ほぼ日の塾で学び、
すごく納得したので今回初めて気づくことの
できた点ですが、視聴者として素直に楽しめる
要因はここにある気がします。
だから、起こったハプニングを隠したりはすることかないし、
でもそれを大げさに表現することもありません。
そういう演出なしに、出場者のこころに
寄り添っているから、感情のアップダウンを一緒に
味わっているような感覚になれます。
ある出場者のムースを使ったケーキを型から外したら
固まってなくてくずれていったことがありました。
思い通りにできなくて、でも時間は巻き戻せないし、
不甲斐ない。そんな状況でその人のこぼれ
落ちた涙を見ると、画面越しに泣きそうになります。
そして、うまくいったときには
思わずガッツポーズしてしまう。これは、カメラの裏で
起きていることがそのまま私たちに届いているという
信頼があるからだと思います。

実は最近、Bake offをめぐってちょっとした騒ぎが
ありました。それは、いままで放送してたBBCという
CM無しの公共放送から、Channel 4という民放のテレビ局
にうつると番組の制作会社が発表したからです。
発表時、ツイッターなどでみんな「番組のよかった
時代はおわった・・・・」なんて嘆いていました。
「Channel 4になったら、視聴率稼ぎのために
演出しだすに違いない!」
「CMの前に誰かがケーキを落として、ドラマティックな
音楽が流れて泣き崩れるという演出をしそう・・・・」
と落胆した声が多く上がったのです。
局を移行してから初めての放送が今まさに
流れていて、番組上の変化は予想よりはなかったそう
なのですが、この一件でどれだけみんなが
自然で正直な放送に信頼を寄せていたか気づきました。
この信頼は、最初に放送したときから自然体な、
ありのままの様子をずっと放映してきたから。
最初に放送した年とそれ以降の年では、若干構成に差があったり、
週ごとのテーマも「精製された砂糖をつかわない」など
ちょっと健康志向な時代背景を反映させたりはしていますが、
おおもとの正直さはいつもあります。それを崩さないことが、
信頼へとつながり、多くのファンを生み出してきたのです。
最後に、おもしろいを前提としている空気感。
もちろん毎回観ていて、「なるほどー!」と発見
が何かしらあり、そういう知らなかったことを
知ることができる「おもしろさ」もあるのですが、
ここでは笑っちゃうほうの「おもしろい」です。
まず、司会者が2人のコメディアンで、
番組冒頭にその週のテーマにまつわるだじゃれを言ったりします。
その後もだじゃれや冗談を連発するのですが、
まあ、それがおもしろいかどうかは別として、
緊張感のあふれるテントの中の緊迫感を
ほぐします。
この2人が、出場者と会話することによって
生まれたおもしろ発言や行動がとりあげられたりと、
おもしろさを重要視しています。司会の2人はちょっかいを
出したりはして、実際1回だれかの生地を思いっきりつぶして
しまったことはあったけれど、困っている人を手伝ったり、
落ち着かせたりと、優しい人柄だから憎めないのです。
そして、番組公式のツイッターでもおもしろい発言や
場面をとりあげて、盛り上げます。番組終了後、
ツイッターでその週に題名をつけるなら・・・・を募集。
みんなおもしろいのを投稿しようと
大喜利合戦みたいなのが始まって、
これをみるのもまたおかしくて、たのしい。
また、2014年からから、その週をおもしろおかしくふりかえったり、
未公開シーンを見せたり、その週に脱落してしまった出場者への
インタビューや、視聴者の失敗ケーキ集を紹介する兄弟番組が
スタートしました。
司会のコメディアンが、「おもしろい」を基準に選ばれた
であろう、投稿された失敗したケーキを冗談を交えて紹介します。
よくあるのは動物をケーキで表現しようとしたら、
結果こうなってしまった・・・・というものです。
いや、たしかにくだらないんですよ。くだらないんです。
でも、そのおもしろさという視点を大事にできているのが
いいなあ、と思います。
というのも、わたしが海外で生活していて、ちょっとは
なじめたかな?と思う瞬間は、おもしろいことを
言えたり、理解したときなんです。
おもしろさや冗談が通じるのは、言語もそうだけど、
文化や相手のことも含めて丸々理解できたときです。
だからこそ、bake offのちょっとした発言にくすっと
できたのが本当にうれしかった。
そういう意味でも、「おもしろさ」をわたしは一種の
判断軸として使っていて、その「おもしろさ」
が大事にされている番組がとてもすきなのです。
でも、やさしさのあるおもしろさでなければ、
意味がありません。相手が悲しむようだったら、
それはおもしろさではない気がします。
なので、この2つをうまく両立させるのは
わたしの目標でもあるし、
番組としてちゃんとはじめから基準としてあって
いいな、と感じます。
おもしろさはあるものの、みんな本当に真剣で、
まじめで、全力で取り組んでいる。それは出せる力を
全部出し切って戦うスポーツ選手を応援するのと
ちょっと似ていたり。
そして、本当にお菓子作りすきなんだなぁ、
と実感します。自分が趣味として
かかげていて恥ずかしいような、でもだからこそ
もっと作りたいと奮い立たされるような・・・・。
あることをここまで「すき」で
いられるパワーは、強いなあ、と思います。
そこから生まれるやさしさも、強い。
このやさしさと、おもしろさの詰まった
真剣な「競い合い」が、とてもすきなのです。
(おわります)