田中泰延×糸井重里アマチュアのその先に
担当・コットン
第２回 「これいいなぁ」ってお話したいんです
- 糸井
-
僕が文章を書くときは、視線は読者に向かってる
んじゃなくて、自分が読者で、自分が書いて
くれるのを待ってるみたいな感覚で。
- 田中
-
それすごく、すっごくわかります。
- 糸井
-
これ、説明するのむずかしいですねぇ。
- 田中
-
むずかしいですね。でも、発信してるんじゃ
ないんですよね。
- 糸井
-
受信してるんです。自分に言うことがない人間は
書かないって思ってたら大間違いで。読み手というか、
「受け手であることを、自由に味わいたい！」と思って、
「誰がやってくれるのかな」、「俺だよ」っていう。
あぁ、なんて言っていいんだろう、これ。
- 田中
-
なんでしょう。映画を観ても、いろんな人がネットや
雑誌で評論をするじゃないですか。そうしたら、「何で
この中に、この見方はないのか？」。すでにあったら、
書かなくていいんですけど、「じゃあ、今夜俺書くの？」
ということになるんですよね。
- 糸井
-
僕、ずっと、このことを言いたかったんですよ。自分が
やってることの癖とか形式とかは、飽きるっていうのも
あるし、良かったから応用しようっていうのもあるし、
そこをずっと探しているんだと思うんです。田中さんも
自然とついてしまった癖が20数年分あって。
- 田中
-
はい。
- 糸井
-
自分の名前を出して文章を書く立場になると、
変わりますよね？
- 田中
-
そうなんです。
これがむずかしくて。今、「青年失業家」として岐路に
立っているのは、やっぱり会社に所属しながら、ついでに
何かを書く人ではなくなったので。じゃあ、どうしたら
いいのかっていう所ですね。
- 糸井
-
２つ方向があって、書くことで食っていけるようにするのが、
いわゆるプロの発想。それから、書くことと食うことが
関わりなく、自由に書ける方向を目指すのと、
２種類に分かれますよね。
- 田中
-
そうですね。
- 糸井
-
それについてはずっと考えてきて。僕はいつまで経っても
旦那芸でありたいと思ったので、アマチュアの道を
選んだんですね。田中さんはまだ答えはないですよね。
- 田中
-
そうなんです。糸井さんは、そういう好きに、旦那芸として
書くために組織を作り、みんなが食べられる組織を作り、
物販もして、自分のクライアントは自分っていう立場を、
作り切ったってことですよね。
- 糸井
-
その場を育てたり、商売する人に屋台を
貸したりすることが僕の仕事で、その延長線上に何が
あるかと言うと、僕は書かなくていいんですね。
本職は、管理人だと思うんですよ（笑）。
その意味では、田中さんも管理人の素質もあると思います。
- 田中
-
なるほど。
- 糸井
-
だから、僕は、やりたいことと、やりたくないことを、
燃えるゴミと燃えないゴミみたいに、
はっきりと区別して（笑）。やりたくないことを、
どうやってやらないで済むか考えてきた人間で、
「やりたいことだなぁ」とか、「やってもいいなぁ」って
思うことだけを選んできたら、こうなったんですよね。
- 田中
-
そうですね。
- 糸井
-
何かを書くっていうことは、士農工商みたいな
順列、たとえば、トランプ大統領よりもボブ・ディランが
偉いみたいな順列からも自由でありたいなぁって思う。
だから、超アマチュアで一生が終われば、僕はもう
満足なんですよ（笑）。同時に、その軽さはコンプレックス
でもあって、「俺は、逃げちゃいけないと思って勝負してる
人たちとは違う生き方をしてるな」って。
- 田中
-
わかる、メッチャわかる（笑）。
外に向けて書くようになって、たった２年ですけど、
書くことの落とし穴はすでに感じていて。つまり、
僕はこう考えるっていうことを毎日書いていくうちに、
だんだん独善的になっていく。そして、なった果ては、
人間は、九割くらいは右か左に寄ってしまうんですよね。
- 糸井
-
うんうん。
- 田中
-
どんなにフレッシュな書き手が現れて、真ん中あたりで
心が揺れているのを、うまいことキャッチして書いて
くれたっていう人も、10年くらい放っておくと、
右か左どっちかに振り切ってることがいっぱいあって。
- 糸井
-
世界像を安定させたくなるんだと思うんですよね。
- 田中
-
はい。
- 糸井
-
世界像を人に、押し付けるような偉い人になっちゃうって
いうのは、僕はどうも苦手で。
- 田中
-
僕はあくまで読み手だから、世の中をひがむとか、
言いたいことがあるとか政治的主張はないんですよ。
だから、よく言われるのは、何か映画評を書いてたら、
「田中さん、そろそろ小説書きましょうよ」って。
- 糸井
-
言いますよね、必ず言いますよね。
- 田中
-
まぁそれは読みたいっていうのもあるだろうし、
商売になると思っている人もいる。だけど、これが
言いたくて俺は文章を書くというのはなくて、常に、
「あ、これいいですね」、「あ、これ木ですか？」、
「あぁ、木っちゅうのはですね」っていう、
話をしたいんですよ。
- 一同
-
（笑）
- 糸井
-
お話がしたいんですね（笑）。
- 田中
-
そうなんです。
- 糸井
-
なんだろう、「これいいなぁ」っていうの。
「これいいなぁ業」ですよね。
- 田中
-
はい。もう、「これいいなぁ」ですよ、本当に。
＜つづきます＞
