もくじ
第1回手土産からはじまるもの。 2017-03-28-Tue
第2回読んでいる人として書いている。 2017-03-28-Tue
第3回「これいいなあ」を話したい。 2017-03-28-Tue
第4回「ご近所の人気者」という生き方。 2017-03-28-Tue
第5回根拠はなくても水がある。 2017-03-28-Tue

自然と音楽とお酒と言葉とトライアスロンと晴れの日とバンジージャンプと甘いものとキリンと祭とぶり大根が好きです。

 自分が書いてくれるのを待っている。</br>田中泰延×糸井重里

 自分が書いてくれるのを待っている。
田中泰延×糸井重里

第3回 「これいいなあ」を話したい。

糸井
僕ね、嫌いなんですよ、ものを書くのが。
田中
わかります。
糸井
でも、じゃあ、何も考えてないのかっていうとそんなはずはなくて。そこを探しているから、日々生きてるわけでね。
田中
そうですね。糸井さん、ご存じかどうかわからないですが、ツイッターで糸井さんの口調を真似ているだけのアカウントがあって。
糸井
はいはい(笑)。
田中
つまり、糸井さんのあの物事に感心する口調だけを繰り返していて(笑)。
いろんなことに関して「僕はこれは好きだなぁ」「僕はそれいいと思うなぁ」。
糸井
僕はだいたいそうですね。
田中
そのアカウントがすごく良くて、その時に世の中に対して、何か伝えたいじゃないですか。
たとえば、この水でも、「この水、このボトル、僕好きだなぁ」「僕これを心地よく今思ってます」って。

糸井
そうですね。それは他のボトル見た時には思わなかったんですよ。
田中
ですよね。
糸井
で、そのボトル見た時に思ったから、これを選んだ。また、選んでいる側ですね、受け手として。
田中
そうですよね。
糸井
受け手として生きているんです。で、それがなんでいいかっていうのは、自分の宿題にしているんです。いずれわかったら、またその話をします、っていう(笑)。
で、これはインターネットだから、いずれわかった時にわかったように書けるんですよね。
田中
その日は、とりあえず「これがいいなぁ」ってことをまず伝えることができて。
糸井
そうです、そうです。
田中
で、それは、「前もちょっと話したけど、何がいいかわかった」って話がまたできるんですね。
糸井
そうです。だから、やりかけなんですよね、全部がね。田中さんもこういうパターンは多いですよね。
田中
はい。
糸井
でも、これから自分の名前を出して書いていくっていう立場になると、これは変わりますよね。
田中
そうなんです。これがむずかしい。
糸井
(笑)
田中
今、仕事を辞めて、「青年失業家」として岐路に立っているのは、会社でコピーライターをやっていて、そのついでに何かを書いてる人ではなくなりつつあるので、じゃあ、どうしたらいいのかっていうことことですね。

糸井
はい。
きっとその先には二つあって、一つは書くことで食っていけるようにするっていう、いわゆるプロとしての生き方。で、もう一つは、書くことを食うことと関わりなく自由にして、それによって書けること書くっていうアマチュアとしての生き方。
田中
そうですね。
糸井
で、それでいうと僕はアマチュアなんですよ。つまり、プロとして書くことで食っていこうと思った時に、自分がいる立場がつまんなくなるような気がしたんです。
「お前、ずるいよ、それは」っていう場所にいないと、言い読み手の書き手にはなれないって思ったんで、僕はそっちを選んだんですね。
で、田中さんはまだ答えはでていないですよね。
田中
そうなんです。
糸井
どうなるんだろうねぇ。
田中
僕の「糸井重里論」っていうのは、そういう自由にものを書くために組織を作り、みんなが食べられる仕組みを作り、運営していき、で、自分が好きに書ける場所を作るっていう。自分のクライアントは自分っていう立場を、作り切ったってことですよね。
糸井
そうですね。
あの、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』という小説って、「危ないときはつかまえてあげるから、その場所で自由にみんな遊べ」っていう話ですよね。僕が目指しているのは、まさしくそれで。

田中
ずっとみんなを見張ってあげていると。
糸井
そうなんです。それで、その場を育てたり、譲ったり、そこで商売する人にこう、屋台を貸したりみたいなことが僕の仕事で、その延長線上に何があるかって言うと、僕は書かなくていいんですね。本職は、管理人なんだと思うんですよ(笑)。
田中
管理人(笑)。
糸井
だから、僕は燃えるゴミと燃えないゴミみたいに、やりたいこととやりたくないことを峻別して、で、やりたくないことをどうやってやらないかを考えて、やりたいこととかやってもいいなって思うことだけを選んできたら、こうなったんですよね。
田中
なるほど。
糸井
だからプロでもアマチュアでも、どっちに転んでも全然いいと思うんです。僕の場合、できるだけ全てのものから自由な超アマチュアっていうので一生が終われば、それでもう満足なんですよ(笑)。
田中
糸井さんはずっと、その軽ろみをどう維持するかっていうところで戦ってこられたと思うんですよね。
糸井
そうですね。同時に、その軽さはコンプレックスでもあって、「俺は、逃げちゃいけないと思って勝負してる人たちとは違う生き方をしてるな」って。
田中
めっちゃわかります(笑)。
糸井
中崎タツヤさんという方の漫画で好きなシーンがあって。
田中
はい。
糸井
主人公の青年と彼のお母さんがでてきて、で、彼はお母さんがやってることがすごく馬鹿に見えるんです、庶民の家ですから。
で、そのことにものすごく腹が立って「母さんは、何かものを考えたことあるの?」って怒りをぶつけるんですよ。それは、つまり自分の血筋に対する怒りですよね。
田中
はい、はい。
糸井
そうすると、お母さんが、「あるよ。寝る前にちょっと」って言うんですよ。
田中
(笑)
糸井
この、「寝る前にちょっと」をね、マンガにした人がいて。それは、涙が出るほどうれしかったです。

田中
それは素晴らしい。
糸井
ねぇ。
僕は「寝る前にちょっと」を探す人なんです(笑)。で、「寝る前にちょっと」の人たちと一緒に遊びたい人(笑)。
田中
深夜のその時間、若干活発になってこられますもんね(笑)。
糸井
そう(笑)。だから、何かを書きながら、自分に対して「お前も幸せになれよ」っていうメッセージを投げかけ続けるっていうのは、もう僕にとって僕の生き方しかないんですよ。
田中
はいはい、わかります(笑)。
糸井
「みんなこうしろ」とも言えない。僕はそれを見つけた、というだけで。なので、今の田中さんのこの「青年失業家」としての岐路を、ランニングしている人の横にいる自転車の人の気持ちで見ているわけです。
田中
併走してくれてるんですね(笑)。
糸井
「で、どうなの?」みたいな(笑)。

(つづきます)

第4回 「ご近所の人気者」という生き方。