もくじ
第1回実はラブレターを書くのが苦手なんです。 2017-03-28-Tue
第2回「これがいいなぁ」を伝えたい。 2017-03-28-Tue
第3回ばかばかしいことをしながら生きていたい。 2017-03-28-Tue
第4回水たまりでも魚は泳いでいるんです。 2017-03-28-Tue

1993年東京生まれ。一にカレー、二にあんこ、三にビール。とにかくおいしいものに目がない人です。

ドブネズミみたいに美しくなりたい</br>ー等身大で生きるにはー

ドブネズミみたいに美しくなりたい
ー等身大で生きるにはー

担当・柴萌子

第4回 水たまりでも魚は泳いでいるんです。

田中
実は、あとで糸井さんのサインをいただきたいと思って、
会社に入ったときに買った
マドラ出版の『糸井重里全仕事』を
今日、持ってきたんです。
 
この本ですが、
糸井さんの広告の仕事として一区切りついた
「全仕事」という意味であって、
広告の仕事というのは
糸井さんのキャリアの一部なんですよね。
 
ぼくが今日、本当におうかがいしたいことは、
今までの仕事に一区切りつけて、
違うことに踏み出そうとすることなんです。
糸井
去年の4月、
初めて田中さんと京都でお会いしたときに、
田中さんから
「ほぼ日という組織をつくられて、
その中で好きなものを毎日書いていることに
すごく興味があります」と聞かれておどろきました。
「電通のかただけど、こんなことに興味があるんだ」って。
田中
糸井さんが「そこですか?」とおっしゃったんです。
その一言が忘れられなくて。

田中
でも、そのとき、ぼくは電通を辞めるとは
まったく思っていなかったんです。
 
電通を辞めようと決めたのは11月の末で、
辞めたのは12月31日なんです。
永田
11月の末になにかがあったんですか?
田中
それが、理由になっていないような理由で‥‥。
糸井
もしかして、ブルーハーツですか?
田中
そうなんです。ブルーハーツです。
 
ぼくは50歳近くのおっさんですが、
糸井さんがおっしゃるように
中身はまだ20代のつもりでいるので、
ブルーハーツを聴いたときのことを思い出して、
「このように生きなくちゃいけないな」
と思ったんです。
とはいえ、なにか伝えたいことや、
「熱いメッセージを聞け」ということはないんです。
だけど、「ここは出なくちゃいけないな」
と思ったんですよね。
 
「田中泰延が会社を辞めたほんとうの理由、迷走王ボーダーとブルーハーツ」
糸井
ぼくは、広告の仕事を辞めるときに、
なにかをやりたいというよりは、
やりたくないことをやりたくないという
逃げの気持ちのほうが強かったんですよね。
「いや、これはまずいなぁ」と思って、
広告の仕事も
どうしてもやりたくないことになってしまって。
 
田中さんにとってのブルーハーツは、
ぼくにとっての釣りなんだと思います。
ぼく、ずっと釣りをしたかったんですよ。
 
釣りでは誰もが平等に争いごとをするんですよね。
それで、勝ったり負けたりするところで
血が沸いてくるんです。
田中
「釣りを始めた頃は、水たまりを見ても
魚がいるんじゃないか」とおっしゃっていましたね(笑)。
糸井
そうなんです。
 
釣りを始めたのが12月頃だったと思うのですが、
東京湾にスズキがいることがわかっただけでも
うれしかったんです。
 
開高健さんが
「ニューヨークにはニジマスがいる」
ということを書いていて。
それで、開高さんが「ハドソン川には」と書いたときに、
「おぉ!」と思ったんですよね。
同じように、
「東京から富士山が見える」ということも、
みんなを喜ばせるんですよ。
喜びよりも「見たい」という気持ちが、
ウワーっとわいてくるんです。
もう夢そのものじゃないですか。
 
そして、お正月に家族旅行をしたときに、
まったく根拠なく、真冬の砂浜で一生懸命
なにかが釣れるのを待っているという。
しかも、それを妻と子どもが見ているんです。
田中
(笑)。そのときはなにか釣れましたか?
糸井
まったく釣れませんでした。
なにせ根拠のない釣りですから。
でも、根拠がなくても水があるんです。
一同
(笑)

糸井
「根拠がなくても水がある」。
水があれば、水たまりでも魚はいるんですよね。
 
誰もいないところで釣りをしていると、
なにも気配のなかった、静かな水路のような川で
初めて1匹が釣れるんですよ。
まるで泥棒に遭った瞬間のように、
パーっと引かれるんです。
この喜びが、ぼくを変えたと思うんです。
 
広告の仕事を辞めるときの、
「ここから逃げ出したい」という気持ちと同時に、
「水さえあれば魚がいる」と期待する気持ちを
釣りがつなげてくれたんだと思います。 
田中
わぁ。素敵なお話ですね。

糸井
知名度があると、
知っている人が知っている人をつなげてくれるんです。
だから、釣りのプロの人と早くから知り合えるんですよね。
 
それで、ぼくは
坊主(1匹も釣れないこと)から抜け出したいので、
すごく釣りのうまい人に、
「1匹も釣れなかった経験はあるんですか?」
と聞くわけです。
そのときに、
「釣りがある程度わかっていれば、
基本的に坊主ということはないんじゃないでしょうか」
と言われたんですよ。
とてもうれしいじゃないですか。
ぼくにとって魔法のように思っていたことが、
実は科学だったんですよね。
そのようなことを、インターネットでも感じます。
 
だから、ぼくにとってのインターネットは水なんです。
田中
なるほど。
まさか、釣りの話がインターネットにつながるとは
思っていなかったです。
でも、言われてみたら、きっとそのようなことですよね。
糸井
「田中さんがこれからどうなる?」
ということは、おたずねしないのですが、
釣りの当たりを引いたときのような
おもしろさにはたどり着いてみたいですね。
田中
そうですね。それはいい話ですね。
  
今日糸井さんにお会いして、
釣りの話まで行きつくとは思っていませんでした。
これからのぼくは、
やっぱりなにか変わってくると思います。
永田
おもしろかったです。
田中
いやぁ。ぼくもおもしろかったです。
糸井
「これからどうされるんですか」という話は、
公の場所ではなく、
田中さんをもっといじれる場所でしましょう(笑)。
田中
いじめてください(笑)。
永田
それでは、一旦ここで締めますね。
ありがとうございました。
糸井
お疲れ様でした。今日はどうもありがとうございます。
田中
こちらこそ、どうもありがとうございました。