もくじ
第1回IKEUCHI ORGANICを選んだ理由 2017-05-16-Tue
第2回モノづくりで一番大切なこと 2017-05-16-Tue
第3回これからのモノづくり、人づくり 2017-05-16-Tue

「40歳は、戸惑う」に共感する39歳のタオルソムリエです。メーカーでマーケティング・広報を担当しています。妻がジャイ子です。

長く愛されるモノづくり

長く愛されるモノづくり

担当・コットン

第3回 これからのモノづくり、人づくり

10年間の育成スケジュールも無事に終わり、企画マン
としての経験を積んだところで、池内さんは、家業
である池内タオル(現・IKEUCHI ORGANIC)で能力
を活かしたいと思い、12年間勤めたパナソニックの
退職を決意します。

ところが、創業者である父が入社の数日前に急逝。
葬儀の席で「僕が今日から会社を引き継ぎます」と
挨拶をして33歳で引き継ぎのないまま、社長に就任
します。海外製の安いタオルに押され、市場を取り
巻く環境が厳しい状況でもありました。

当時の池内タオルは、OEMとよばれる受託生産で、
自社ブランドではなく、他社ブランドの製品を作り
タオル問屋に販売するのがメイン事業。ほどなくして、
信じられないような事件が起こります。

「取引先の注文が初回は来るんだけど、2回目以降
は全く来なくなって。そしたら、ベトナムのタオル屋
に池内タオルの商品が全部並んでいて、池内の
ショールームみたいだったと連絡が入って。
要は取引先が商品の企画だけうちの会社にさせて、
その後の生産は製造原価の安いベトナムでさせて
いました。知らないのは自分たちだけで。」

30年も前のことだからか、穏やかに笑いながら話して
いたが、当時は心中穏やかではなかったはず。

「このときは嫌な思いをしたけど、よそに真似をされる
ような商品を作るほうが悪いと。だったら、簡単に真似
ができないような商品を作ってやろうと決めて。」

この事件をきっかけに、他社との差別化を徹底的に考え
、1987年にタオル業界としてははじめて、CAD
(コンピューターによる設計)を導入します。

CADを導入してからは、他社が手を使って考えていた
ことを、コンピューターで簡単にデザインできるよう
になったので、ものすごいスピードで企画をすることが
できる会社として、業界の中でも知名度が上がって
いきます。海外の超高級ブランドからも次々に注文が
舞い込み、90年代にはタオルハンカチも作るようになり、
一時期は百貨店で売られているタオルハンカチの30%
近くを,池内タオルで製造するまで生産量を増やして
いきます。

この頃の蓄えをもとに1999年3月に、しまなみ海道の
開通に合わせて,はじめて自社ブランドのタオルを
発売します。その頃は安全安心というコンセプトの
商品も、オーガニックコットン100%のタオルも日本
ではほとんどない時代でした。

「デパートで一番売れるブランドもののハンカチは、
1つのデザインで10万枚売れたけど、売り場は鮮度
を保たないといけないから、惜しげもなく季節ごと
に廃盤にしていくわけ。全部が使い捨てのように
なっていた現状がすごく嫌で、自社ブランドは
そういう風にはしたくなかった。」

 このときから自社ブランドで発売する商品は、
デザインも極力変えず、“永久定番”をうたおうと
決断します。

一番古いモデルの「オーガニック120」という
タオルは、正直いって見た目もさわり心地も、地味
そのもの。だけど、ユーザーにとって一番良いのは、
最初に買ったタオルの品質が長く続くことだと
思います。つい先日も、お客様からこんな感想を
いただきました。プレゼントしたときは「どうも。」
くらいの反応だったのが、半年たって「このタオル、
すごいね。全然変わらない。良いモノをありがとう」
と連絡をもらったと、嬉しそうに話してくれました。

「続けていくことはすごく難しくて。基本ポリシー
が動いたらおしまいだし、かといって同じことを
やり続けるんじゃなくて、同じモデルでも品質を
上げていかないといけない。この商品も発売した
ときはたいしたことなかったと思うんだけど、
18年経って職人のノウハウも蓄積されてきて、年々
品質も上がっている。今なら、世界で一番のロング
セラーのタオルですって言い切れるしね。」

池内さんは今年で68歳ですが、これからはモノづくり
に専念したいと、代表取締役社長を後任の
阿部哲也さんに引き継ぎました。

会社では、毎朝8時から朝礼が行われ、池内さんが
最後に一言コメントをしますが、最近は明らかに
社員に対して、自身の経験を次の世代に伝えようと
していると感じます。

「人に伝えることによって、自分がブレるのを
防いでいるよね、明らかに。会社の方針がブレたら
いけないから、とりあえず言ってしまうのもある
けど。言ってしまえば、自分も次の世代の人も、
ブレることはできないしね」

次の世代に残すモノづくりとして”2073年(創業
120周年)までに赤ちゃんが食べても安全なタオル
を創る”を指針として掲げています。

「社員に口をすっぱくして言っているのは、簡単な
ことと、難しくてやれるかどうかわからないことが
あったら、難しい方を選びなさいと。つい先日も、
次世代の織機(タオルを織る機械)をどのように
選ぶべきか社員の意見を聞いたけど、どれも
現実的な案ばかりで、ほんとに頭に来て(笑)。」

3代目社長の阿部さんは創業家一族以外からはじめて
選ばれました。創業して65年目の会社が転換期を
迎えているのは間違いありません。社是である
「オーガニックな会社は言い訳しない」のもとで、
ひとりひとりが次の世代に残すモノづくりをして
いこうと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

(おわります)