もくじ
第1回宮崎啓一さんインタビュー 2017-05-16-Tue
第2回インタビューを終えて 2017-05-16-Tue

30歳で独立し、会社をつくって3年目。

「どこで」起業するか?

「どこで」起業するか?

担当・尾崎えり子

今年の6月で、私は起業して3年目になる。
去年、2年間貯めた会社の全財産を投資して新しい事業を起こしたが、
それもなんとか軌道に乗り、4年目を無事迎えられそうだ。

私が軌道に乗ることができた一番大きなポイントは
起業した「場所」だと思う。

東京都内で起業したら、うちの会社は今頃潰れていた。
千葉県流山市という、ライバルは少ないが、
人口は増えている場所を選んだことで
私にチャンスがまわり、仕事を増やしていくことができた。

誰もやらない「場所」で勝負する。

今回は私が一番「え?!そんなところで起業?」と驚いた人に
インタビューをしてみた。

33歳で日本郵船からクウェートに出向した後、
会社を辞め、クウェートで起業した宮崎啓一さん。74歳。
クウェートは「仕事が面白すぎて歳をとる暇がない場所」らしい。

第1回 宮崎啓一さんインタビュー

クウェートと日本の時差6時間。
Skypeで宮崎さんにお話をお聞きしました。

ーー
まず、一番初めにお聞きしたいのですが、
クウェートって危なくないのですか?
宮崎
家から車で80キロ行くとイラクとの国境ですから、
危ないと思われても仕方ないと思います。
でも、住んでいる間は何も危ない目に遭ってないんです。
戦争の時はイラクで後ろから撃たれたり、
危険な目にも遭いましたが、
それ以外では本当に危ないときは一度もありません。
ーー
サラッと言いましたが、撃たれたんですか?!
宮崎
もう戦争は終わってたけどね。
あの頃は若者に仕事がなく、
私たちが乗っていた車を奪おうと襲われました。
パジェロだったかな。
私は運転してたので座席に弾がめり込んでましたから
あと1センチというところですよね。
危機一髪ですよ。
ーー
不思議なんですけど、なんで、
そんな怖い思いをした「場所」に住み続けているんですか?
宮崎
現地の方にもよく聞かれるのですが、
正直言うとわからないんです(笑)
変な言い方だけど、流されてきた、という感じ。
会社に出向を命じられて、
クウェートに初めて来て「なんか面白いな」と感じて、
会社を辞めて、自分で起業し、今に至るわけですから。
もう41年も住んでいると日本よりもクウェートの方が
長くなってきましたから、こっちの方が落ち着きます。
近隣国の戦争や国内の政治が不安定だと思われがちですが、
今は近代的なショッピングセンターや高層ビルが建ち、
レストランやブランドショップなどの娯楽も充実してます。


住む分には何の問題もありませんし、
仕事もたくさんありますしね。
ーー
どのようなお仕事をされているのですか?
宮崎
The Kuwait Nippon Associates Ltd.という会社を作って(https://kunaljp.sharepoint.com/Pages/default.aspx
国のインフラに関わる仕事をしています。
一般人には馴染みがないかもしれませんが、
上下水道や発電所用の大型ポンプやパイプ、
建設用機械や特殊装置を取り扱ってます。
政府の案件が多く、何百億という案件もありますよ。
海外企業のクウェート進出の際の
ビジネス支援なんかもやっています。
ーー
クウェートでは仕事がたくさんあるんですか?
宮崎
2015年4月にインフラ案件(14兆円規模)を含む
第二次国家開発計画が開始しました。
人口も増えますから、発電・造水施設の建設、
都市内鉄道網・国内鉄道網の新設、道路網の整備、
住宅・都市開発、空港・港湾の整備、
医療施設・教育施設の新設などなど。
インフラに関わる仕事をやっている私には
面白いことがいっぱいあります。
本当にもう面白いことばっかり。
ーー
想像できないくらいすごい規模ですね。
宮崎
フセインの脅威があったときは
大きなお金をかけてインフラを整備しても壊されるので、
やっていなかったのですが、
今こんなにもインフラ整備に力を入れていることからも、
クウェートはどこの国からも
脅威にさらされていないことがわかりますよね。
ーー
たしかに。
クウェートでのお仕事のどんな点が面白いんですか?
宮崎
新しいものは面白いですよね。
例えば、新しく100万人の都市を作る計画があります。
今までは首都のクウェート市と湾岸エリアの
いくつかの街が中心でしたが、
イラクとの国境の近くなどに新しい街をつくるんです。
きちんとした街を作って攻めてこれないように。
これを「面白い」と思うか「危ない」と思うか。
私は「面白い」と思いました。
 
街をつくって人を住まわせるということは住居を作り、
電話線、下水、電線、雨水の排出、発電所、
下水処理場、道路、交通機関、病院など
新しいインフラを整える必要があります。
そのプロジェクトを中国の会社が受注したのですが、
その中国の会社が街をつくるために
6000人くらいのスタッフのキャンプを作らなきといけない。
6000人というともう小さな街をつくるのと同じですよね。
水やら下水の処理やら。食料も必要。
すると近くの農場で中国野菜を作って、
そこにサプライする話が出てくる。
ビジネスがドンドンつながっていく感覚。
考え始めると、もう面白いことしかないですよ。
ーー
クウェートの面白さは行けばわかるものですか?
宮崎
観光などではなく、
日本人の若い人にはビジネスで来てほしいですね。
ビジネスで来ると腰の据わり方が違ってきます。
腰が据わると同じ場所でも違う景色が見えてきますよ。
最終的に東京に戻って働くという視点ではなく、
この国の10年後20年後を作るという覚悟を持つと、
さらに面白くなってきます。
ーー
この場所に腰を据えていることが、
政府の案件を任される理由にもなりますよね?
宮崎
私は湾岸戦争勃発時はちょうど日本に出張していたので、
それまで一緒に住んでいた家族はそのまま日本に残し、
私だけクウェートに戻りました。
2003年のイラク戦争時にはクウェートに残り、
空襲警報を聞きながら、
ミサイルが事務所の近くに着弾する中、
現地スタッフとともに業務を続けてましたから。
逃げるつもりもなかったし、
本当に腰を据えていたからこそ
「長期で任せられる信頼」を得られたのだと思います。
ーー
新しい場所で信頼を得るために
工夫したことや努力したことってありますか?
宮崎
特に工夫や努力はありません。
クウェートでは人を信用しないのがベーシック。
私も相手をわかって、相手も私をわかってくれて
自然に仲良くなるしかありません。
そのためには喧嘩するのも大事。
クウェートでは二つの感情を持っていません。
日本人のような「本音と建て前」がないんです。
もし、日本だったら小さな会社が
大きな会社の担当者と喧嘩してしまったら、
取引停止になる可能性もあるかもしれません。
でも、こっちはどんなに喧嘩しても、
次の日になって必要だったら電話がかかってくる。
二重性がない。一面だけみていたら良いんです。
そのためには自分も同じように
オープンでいなければいけません。
それが苦痛だったらクウェートで住むのは
厳しいかもしれませんね。
 
また、「クウェート人は働かないでしょ」
という人もいますが、
だからこそ、私たち日本人が必要とされ、
仕事をするができるのだと思ってます。
ーー
面白いですね。オープンでフラットな場所なんですね。
宮崎
クウェートは元々外国人の方が多い国ですから、
外国人とか日本人とか区別されないんですよね。
政府の病院も無料ですし。
国籍や仕事で区別されません。
病院は無料ですが、質はとても良いですよ。
丁寧ですし、最高です。私はすごく信頼しています。
ーー
これからも働き続けるのですか?
宮崎
体力以上に気力、やる気がなくなると終わり。
とにかくクウェートは面白いので
歳をとる暇がありません。
100歳でもまだ現役でやりたい。
ーー
もちろん、場所はクウェートですか?
宮崎
はい。一度、自分で本を書きたいな、と思った時、
題名を考えたのですが、
「クウェートありがとう」しか出てこなかったんです。
ここに40年、生かせてもらって、
仕事やらせてもらって。
「ありがとう」以上の言葉はない。
ビジネスなのでもちろん、
いろんな駆け引きなどもありますが、
働いて、クウェートのためになればいいと思ってます。
少しでもね。
第2回 インタビューを終えて