もくじ
第1回渋谷でお店を始めた理由。 2016-12-06-Tue
第2回バーのマスターになるまで。 2016-12-06-Tue
第3回カウンターから見た時代と街の移り変わり。 2016-12-06-Tue
第4回変わっていくもの、残していきたいもの。 2016-12-06-Tue

1989年宮崎生まれ。
宮崎と鹿児島の県境で育ちました。
都内ではたらく編集者です。

渋谷のバーカウンターで</br>あいましょう。

渋谷のバーカウンターで
あいましょう。

担当・竹之内円

第2回 バーのマスターになるまで。

——
林さんがお店を始めるときに
影響を受けたことって、なにかありますか?
林さん
22歳の頃に、下北沢の中古レコード屋で
アルバイトをしていて、一番街を歩いていたら
偶然、「イーハトーボ」っていう看板を見つけたんです。
 
そのお店では、ジンジャエールを
自家製で生姜から作っていたり、
パンを注文されてから焼くので時間がかかったり、
とにかく、こだわりを持っているお店だったんです。


(1977年に下北沢の一番街にオープンした「イーハトーボ」。来年で40周年を迎えるそうです。)

——
当時は、そういうお店って少なかったんですか?
林さん
25年くらい前なので、当時はすごく珍しくて
「なんか、おもしろい!」って思いましたね。
今は飲食店でもレコードやCD、本とかを
売っているのって当たり前ですけどね。
 
店内では中古レコードを扱っていて、
その店主が音楽評論家をやっていたので、
僕もいつかそういうこともやりたいなって思ったんですよ。
——
レコード屋でもカフェでもなく、
バーを開こうって思ったきっかけは
お酒が好きだったからですか?
林さん
いや、そんなにお酒は飲まないんですよ。
下北沢や西荻窪のカフェのような古本があって、
レコードやCDにもこだわっていたり、
焼き物も売っていたりするような
スタイルのものが、もともと好きではあるんですよ。
——
そうだったんですね。
バーのマスターはお酒を飲むのが好きな方が
多いのかと思っていたので意外でした!
林さん
お菓子も焼いて、オーガニックの野菜や
健康的なコーヒー豆もあって、
店主が猫好きで‥‥(笑)。
どちらかというと、そういう感じの人間なんです。
 
レコード屋さんをやりたいって想いも
もちろんあったんですけど、
資本金がかなり必要だなって。
 
例えば、2000円で売っているレコードって
1600円で仕入れて、儲けが600円とかなんですよね。
10枚売れたとしても4000円。
CDやレコードは数を売らないといけないので、
自分で在庫を結構持たないといけなくて。

——
ある程度、自分で在庫を持たないと
経営ができないという問題があったんですね。
林さん
飲食店の方が粗利益が大きいんです。
だったら、お金がなくても
今すぐにできる飲食店を開こうってことで
最初は、カレーのお店をやろうと思っていたんですよ。
 
下北沢に「茄子おやじ」っていう
おいしいカレー屋さんがありまして、
お店のBGMがすごく良くて、
写真集や映画のポスターも貼ってあったり‥‥。
流れる音楽も良くて、
カレーとお酒を出せるようなお店に
しようと思ったんです。
——
最初は「カレーとお酒」を取り扱うお店を始めようと
思っていたんですか?
林さん
普通にカレーだけを食べて、
ドリンクを頼まないで帰ったら、
売上は1000円になっちゃいますけど
夜にデートでカレーを食べに来て、
その後にお酒もあったら頼みますよね。
 
2〜3杯飲んでくれたら、
単価も2人だけで5000円になって、
1人2500円になる計算になります。
1人1000円と2500円って、
全然違うからお酒も出そうかなって‥‥。
 
バーテンダーがカウンターに立って、
ちゃんとしたお酒を作れたら、
すごく、いいなぁって思ったんです。
——
まず、お店を始めるためには、
どんな準備が必要だったんですか?
林さん
何よりも先に“bar bossa”っていう
ボサノヴァのバーをするっていうのを決めてから、
いろんな準備を始めました。
 
まず、カレーとバーテンダー修行をしようと思って‥‥。
すぐにカレー屋で働くことは決まっていたので、
同時にバーテンダー修行も始めようってことで、
下北沢の「フェアグランド」というバーで働きました。
 
お店のボスである中村悌二さんから
「飲食店をやりたいんだったら、
うちのお店1本にしてくれ」って言われて、
カレー屋さんを断るんだったら
うちで雇ってあげるっていう条件だったので、
結局はバーだけに絞って、そこで2年間働いたんです。

——
バーだけに絞ったんですね。
その選択がターニングポイントだったんでしょうか。
林さん
そこでカレーも続けていたら、
どうなっていたんですかね‥‥。
ここはバーじゃなくて、カレー屋だったかもしれない。
——
バーテンダー修行って
具体的にはどういうことを学ぶんですか?
林さん
お酒の作り方は、真剣にやれば
3ヶ月くらいで覚えられます。
 
でも、接客の仕方って
3ヶ月では覚えられないんですね。
酔ったお客さんにはこうやって接するとか、
あしらい方を体で覚えるのに、
2年以上はかかっちゃうんですよ。
結局、現場で見たり聞いたりしながら、
いろんな失敗をしながら学んでいくんですけどね。
——
実際に、修行期間で学んだことや、
印象に残っていることってありましたか?
林さん
当時、ボスに言われたのは、
バーのカウンター席が全部あいているのに、
真ん中に座る人は変な人が多いから
気をつけた方がいいとか。
 
バーに来るお客さんって
端の席か、端から2番目の席を選びがちなんですけど
真ん中に座る人って、
バーテンダーと話がしたくってしょうがない人か、
少し変わった人なのか、
そのどちらかという場合が多いんですよね。

——
カウンターの座る位置でも分かっちゃうものなんですね。
気をつけよう‥‥(笑)。
林さん
当時はたばこを吸うお客さんも多くて、
hi-liteやショートホープを吸っている人は、
結構頑固で、少し面倒くさい人が
多かった印象なんですけど、
一回気に入ってくれたら、
ずっとお店に通ってくれたり‥‥。
 
その人は趣味がいいって
周りからも信頼されているので、
そこからいろんなお客さんを
紹介してくれるようになったこともありましたね。
——
カウンターから見る人間模様っておもしろいですね。
バーで注文するときって緊張しちゃうんですが、
選び方のコツってありますか?
林さん
ワインってすごく難しいんですよね。
最近はビオワインとか、いろんな流行りがあって、
好きなものを自由に頼んだらいいと思うんですけどね。
 
あと、メニュー看板に少し解説を書いたり、
味の印象を表現したりして
こういう黒板看板って重宝していますね。
これがカタカナにしか見えない方もいますし、
すごく好きな方はもっと知りたいだろうし‥‥。

——
自分の好みの味を伝えてもらうってすごく難しいですよね。
林さん
さっぱりした味が好きって注文を受けて、
僕がさっぱりするワインを選んで、おすすめしても
人によっては、「さっぱりした味じゃないな」って
感じることもあるんですよね。
味覚って本当に人によって違うし、
おいしいって思う感覚もそれぞれですからね。
——
例えば、どうやって伝えたら分かりやすいですかね?
林さん
味を言葉にするのって難しいですよね‥‥。
料理で例えると、
「普段はハンバーガーしか食べていないんです」って
言われたら、普段はジャンクなものが多いんだなって
想像できますよね。
 
そのお客さんの味覚が分かるような
“具体的な気持ち”を伝えてもらえたら嬉しいですね。
「普段はワインって飲まないんですけど、
おいしいのが飲みたい」って言われたら、
マニアックなものワインは出さないで、
誰が飲んでもおいしいと思えるものを
おすすめできますしね。
第3回 カウンターから見た時代と街の移り変わり。