もくじ
第1回「好き」なのに辛くて苦しくなっていく 2016-11-08-Tue
第2回辞めなくてよかった 2016-11-08-Tue

社会人4年目、東京でひとり暮らしをはじめて8年目。
一度の転職を経て、現在は主に電子書籍を扱う仕事をしています。

お酒を飲みながら人と話したり、
本屋さんを探索するのが好きです。
青春群像劇的なものに きゅんとします。

弓道部という居場所

弓道部という居場所

担当・nao

「弓道かっこいい。やってみたい!」

小学生のわたしは大好きな少女マンガを読んで
あっという間に影響された。
けれど、進学する地元の中学には弓道部は無く・・・。
中3になって志望校を考える時に、当時の気持ちがよみがえり
「弓道部」のある高校を探した。

家計の都合上、私立には絶対行けない。
将来大学には行きたかったので、そこそこ進学校で
お祭りごとが好きなので学内行事がたくさんあって、
「弓道部」がある高校。
それが学校の最寄り駅から自転車で20分、
田んぼのド真ん中にあるF高校だった。

意気揚々と入ったものの、「やってみたい!」という
無邪気な気持ちは、こてんぱんに打ちのめされます。
辛くて苦しくてたくさん泣いた。
それでも、それ以上に好きな気持ちがありました。
つたないけれど、そんな好きな気持ちをつづりました。

第1回 「好き」なのに辛くて苦しくなっていく

ほぼ日の塾、課題2は「好きなもの」。
シンプルだけど難しいお題だと思った。

好きなものはたくさんある。
まず、出版物。
この世に出版物が無くなったら生きていけない、と
本気で思っているほど、本とマンガと雑誌はわたしの一部だ。
成人してからはお酒も大好きで
おいしいお酒と肴があれば顔がほころぶ。
誰かと一緒に楽しく呑みながらなら、もっと幸せ。
好きな若手女優の握手会や試写会には必ず足を運んでいるし、
映画とラジオが好きで心の糧にしていたり。
「青」と「水」が好きで、ひとり海辺を散歩したりするのも好きだ。

そんなふうに「好きなもの」はたくさんあるけれど、
トクベツに好きなもの、って考えたときに
「好き」だけじゃないけど、強烈に好きなもの。
「あ、F高校弓道部での日々だな」と思った。

高校1年の4月、昔から憧れていた弓道部を見学。
袴で弓を引く姿はカッコよかったし、
良い意味で厳かすぎることがない、
明るく賑やかな雰囲気がとても心地よくて迷わず入部届を出した。

入部して、すぐにカッコよく弓が引ける・・・というわけではない。
的前で弓を引けるようになるまで地味な練習が続いた。
学校によって色々違いはあると思うけれど、F高校の場合は
まず、射法八節という弓矢を用いて射を行う
射術の基本法則をみっちりと身体に覚えこませる。
棒矢、つまり1本の矢を手に持ち型を覚えるのだが
簡単そうに見えて、全ての基本動作となるので中々侮れない。
これがクリアできたらゴム弓。
ゴムがついた棒を仮想の弓と見立てて、弓を引く動作を練習。
ゴム弓と並行して、手の内という弓の握り方を覚える。
弓道と聞くと、弦を引いているイメージがとても強いが
実は弓を握る左手がとても重要なのだ。
手の内を覚えたら素引き。弓に矢をつがえず、
弦だけを引いて弓を引く動作を練習する。
これで型が崩れなければ、ようやく巻藁練習。
巻藁とは米俵に似た稽古用の的で、約2m先に巻藁を見て矢を放つ。
そこでOKが出たらようやく道場で的前練習だ。
そのころ、季節はすでに夏。中には途中で辞めてしまった子もいた。

的前に入り、弓を構え、的を狙い、射る。
今まで練習してきた基本を思い出し、
この一連の動作を集中して行う。
雑念がすーっと消えて、
心身が研ぎ澄まされていく不思議な感覚。
自分のイメージ通りの射形をやりきることは難しいけど
たまに、ぴったりと思い通りに引けたときの気持ちよさ。
矢が的にあたる瞬間のパアンっという音。
何ともいえないこの快感、私は弓道に病みつきになっていった。

みっちりと練習を続けた高1の夏。
そんなとき9月の大会のメンバーに選ばれた。
当時3年生は既に引退していたので、1・2年の中から3人。
その3人に入れたことが単純に嬉しかった。
認められた気になって、こっそり調子にも乗った。

けれど、わたしはその大会で1本も的に中てることができなかった。

初めての大会は緊張もあってほとんど記憶に無い。
まったくいつも通りに引けなかったことだけ覚えている。

「初めてだから仕方ないよ。」
周りは優しく声をかけてくれて、誰もわたしを攻める人はいなかった。
大会では3人で1チーム、的に中った矢の合計を競うので
わたしが1本も中てられなかったというのは明らかに足を
引っぱっていたというのに。
誰にも攻められないというのは逆に辛いもので
「次こそは」と更に練習に励む日々が続いた。

しかし、そこから思ってもいなかった苦しい日々が始まる。

練習では割と調子が良いので、次の大会でも
割と上位チームのメンバーにはなれた。
けど、大会では1本も中らない。
1本も中らない人なんて、大会中見渡してもほとんどいない。
部内だって、いつもあまり中らない人でも、
正直、わたひより全然練習していない人でも、中る。

「あいつは、大会で中らない。」

だんだんそういうイメージが付いていくようになった。
チームランクもどんどん落ちていった。
大会が終わるたびに悔しくて泣いた。
もう、毎月毎月泣いていた。
涙を隠す強さもなくて、同期の前でもぼろぼろ泣いた。
もう泣きたくなくて、
放課後も土日もがむしゃらに練習した。
それでも、大会では1本も中てることができないまま
日々だけが過ぎていった。

日々の部活は楽しい。弓道も楽しい。
だけど大会があるたびに憂鬱になっていく。
始発電車に乗って会場に向かい、
夕方頃、うなだれて帰路につく。
「また今日もだめだった・・・。」
周りは関東大会やインターハイに出場できるメンバーも
いるなか、わたしだけ結果が出ないにも程がある。

大好きだけど、だからこそ本番で結果を出せないことが辛く、
そんな自分のことも大嫌いになっていく。
結果を出すには練習するしかない。
そう思って、練習量はどんどん増えるのに、まったく結果に出ない。
そんな状況は2年生になっても変わらなかった。

もう、辞めよう。

絶えられなくなって、そう思った。

(つづきます)

第2回 辞めなくてよかった