糸井重里×浅生 鴨にているふたり。
第4回 やっぱり、表現したい。
- 糸井
-
「ドコノコ」では、プロジェクトの立ち上げメンバーとして。
- 浅生
-
そうですね。
- 糸井
-
いまだに本棚のページと全体の。

- 浅生
-
ストラクチャーの構築を。
- 糸井
-
参加してもらってから、どのくらい経ちますか。
- 浅生
-
2年です。
- 糸井
-
フリーになってわりと早くからですね。
- 浅生
-
そうです。7月いっぱいでNHKを辞めて、8月に始めたと思うんですよね、たしか。
- 糸井
-
そうでしたね。小説の方はもっと前からですよね。
- 浅生
-
最初は2012年かな。そのころ、ツイッターがちょっと炎上して、落ち込んでたんです。そのときに、新潮社の編集者がきて「何でもいいから、何かちょっと書いてもらえませんか」って。
- 糸井
-
そこは不思議ですねえ。
- 浅生
-
依頼がきて「はぁ」と。新潮の『yom yom』という雑誌で「何が足りないと思いますか」って言われたので、「若い男の子向けのSFは、今この中にないですよね」みたいな話をしたら「では、そういうような作品を」って。
- 糸井
-
えっ。そんなかんじだったの(笑)。

- 浅生
-
10枚ぐらい書いてみたら、SFの原型みたいなのになっていて。編集者が読んで「これおもしろいから、ちゃんと物語にして連載しましょう」と。そこから一緒に‥‥。
- 糸井
-
ストラクチャーをつくったんですね。
- 浅生
-
そうですね。「あ、こういう物語なんだ」って書いてみるまで、自分でもわからなかったです。
- 糸井
-
終わったとき、作家としての新しい喜びはありましたか。
- 浅生
-
「終わった」っていう。
- 糸井
-
仕事が終わったっていう感じですか。
- 浅生
-
何だろう、マラソンを最後までちゃんと走れたっていう。
- 糸井
-
達成感。
- 浅生
-
達成感というか、「よかった」っていうか。自分で走ろうと思って走り出したマラソンではなくて、誰かにエントリーされて走るみたいなかんじです。
- 糸井
-
「これだけのことをやってるな」っというのが見えるから、手をあげなくてもあげたことになっちゃうんですよ。たとえば、このあと「小津安二郎の『秋刀魚の味』風で、少年が読んでおもしろいのを書いてください」とかありそうですよね。
- 浅生
-
まさに今、ちょっとそういうかんじの準備を始めてます。
- 糸井
-
ちょっとそっち振りたくなりますもん。浅生さんって、日本の古い映画とかけっこう観てますよね。
- 浅生
-
観てます。
- 糸井
-
観てるんですよね。実感を持って「原節子」や「田中絹代」って思ってるんです。
- 浅生
-
ええ。
- 糸井
-
この人ね、‥‥そのへんがずるいのよ。
- 浅生
-
ずるくないですよ(笑)。

- 糸井
-
この人を「ずるい」と言えるのが「ほぼ日」というメディアです(笑)。SFも好きだった?
- 浅生
-
きらいではないですけど、そんなマニアではないです。
- 糸井
-
でも、いっぱいは読んでるでしょ。
- 浅生
-
いっぱいは読んでます。
- 糸井
-
もうねえ、ずるいんだよ(笑)。
- 浅生
-
糸井さんも小説を書いてますよね。
- 糸井
-
ぼくはいやでしょうがなかった。
- 浅生
-
頼まれて?
- 糸井
-
ぼくも新潮社(笑)。
- 浅生
-
やっぱり。
- 糸井
-
浅生さんはまた頼まれたら書きますか。
- 浅生
-
たぶんきらいじゃないんです。
- 糸井
-
観るのがそんなに好きだっていう人なんですからね。ぼくとは違いますね。
- 浅生
-
でも18年間、毎日原稿を書いてますよね。
- 糸井
-
ほんとにいやなんだ(笑)。
- 浅生
-
ぼく、毎日は書いてないですもん。
- 糸井
-
毎日の方が楽なんですよ、アリバイができるから。毎日やってる、そば屋がまずくてもね、しょうがないよって言って(笑)。
- 浅生
-
毎日やってるという。
- 糸井
-
そう。努力賞をめざして。

- 浅生
-
『アグニオン』でつらかったのは、自分で始末をしなきゃいけないことで。
- 糸井
-
それは当たり前じゃん(笑)。
- 浅生
-
連載の1話とか2話から、この先が自分でもどうなるかわかんないわけです。いろいろ伏線を仕込むから、回収をしてかなきゃいけなくて。
- 糸井
-
決めていなかったんですか。
- 浅生
-
ざっくり何となく決めてたんですけど、2話の途中ぐらいから話が変わってきてて。
- 糸井
-
『おそ松くん』とかを連載で読んだ経験のあるぼくには、そういうのって気にすることないよって思いますよ。だって『おそ松くん』は六つ子の物語を書いたはずなのに、チビ太とかデカパンたちの話になっちゃってる。
- 浅生
-
これも元々そうで、実は1回、原稿用紙で500枚ぐらい書いたんですよ。最後にそれまでの物語を解決するために1人キャラクターが出てくるんですけど。それを読んだ編集が「このキャラがいいね。これを主人公にもう1回書きませんか」って。
- 糸井
-
「では、もう1回」と。
- 浅生
-
はい。だからその500枚はもう全部捨てて、もう1回そこからゼロから書き直したっていう。
- 糸井
-
めんどくさがりに見えて。
- 浅生
-
受注ですから(笑)。
- 糸井
-
『アグニオン』はもう、2刷?

- 浅生
-
いや、2刷いってないです。
- 糸井
-
じゃあ2刷までがんばりましょうか。
- 浅生
-
そうなんですよね。
- 糸井
-
まず読むことかな。
- 浅生
-
いや。
- 糸井
-
買うことかな。
- 浅生
-
買うことです。
- 糸井
-
3冊買うことかな。
- 浅生
-
もうね、こうなったら買わなくっても遊ぶお金だけ送っていただければ。読んだつもりで送金してくださいっていう(笑)。
- 糸井
-
でも立ち返ってみれば、受注きっかけなわけですけど、表現しなくて一生を送ることだってできたじゃないですか。
- 浅生
-
そうですね。
- 糸井
-
表現しない人生は考えられないでしょう。
- 浅生
-
そうなんです。困ったもので。
- 糸井
-
そこですよね、ポイントはね。
- 浅生
-
そこがたぶん、いちばんの矛盾。
- 糸井
-
矛盾ですよね。「何にも書くことないんですよ」とか「言いたいことないです」「仕事もしたくないです」。だけど、何かを表現してないと‥‥。
- 浅生
-
生きてられないです。
- 糸井
-
生きてられない。
- 浅生
-
でも、受注がないかぎりはやらないっていう。ひどいですね。
- 糸井
-
だから、「受注があったら、ぼくは表現する欲が満たされるから、好きでやりますよ」ですよね。
- 浅生
-
何かにかこつけてるんですかね。
- 糸井
-
そうねえ。何かを変えたい欲じゃないですよね。
- 浅生
-
うん。変えたいわけではないです。
- 糸井
-
何かを表したい欲って、その裏表の関係に「じっと見たい欲」がありますよね。
- 浅生
-
「じっと見たい欲」?
- 糸井
-
うん。たぶん表現したいってことは、「よーく見たい」とか「もっと知りたい」とか「えっ、今の動きみたいなのいいな」とか、そういうことでしょう?
- 浅生
-
ええ。つまり、画家の目がほしいんです。あの人たちって、違うものを見るじゃないですか。
- 糸井
-
画家は個性によって、じつは違う目だったりしますよね。それはぼくが考える「女の目がほしい」とか、そういうのと同じじゃないですかね。
- 浅生
-
そうかもしれません。
- 糸井
-
それでは、しめにかこつけて「受注」してもらいましょうか。
- 浅生
-
ここで受注ですか(笑)。

- 糸井
-
浅生さん今、自分の最期の言葉って何でしょう。
- 浅生
-
死ぬときですよね。
- 糸井
-
あれですよ、NHK_PRのときの「ムニュ」とかそういうのはダメよ(笑)。
- 浅生
-
前に死にかけたそのときは「死にたくない」って思ったんですが。
- 糸井
-
うん。
- 浅生
-
今もし急に死ぬとしたら‥‥「仕方ないかな」。
- 糸井
-
いいですね。これで終わりにしましょう。ぼくの「人間は死ぬ」にちかいですね。
- 浅生
-
あ、そうかも(笑)。