糸井重里×浅生 鴨にているふたり。
第2回 ニヤニヤ生きるために。
- 糸井
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学校は荒れてる時代でしたか。
- 浅生
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ちょうど校内暴力時代なんです。
- 糸井
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そういうの聞くと、西部劇の中のならず者みたいな人たちだらけですね。
- 浅生
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「スクールウォーズ」の時代ですから。中学のときはわりと荒れた学園でした。
- 糸井
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その中では、あなた何の役なんですか?

- 浅生
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ぼくはうまく立ち回る。
- 糸井
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何をやったんですか。
- 浅生
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強そうなワルがいたら、そいつの近くにいるけど積極的には関わらないっていう。腰巾着までいかないポジションを確保して。
- 糸井
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戦国時代のドラマに出てきそうな。
- 浅生
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かと言って、正面からいくとやられるので、真っ向から対抗はしない。
- 糸井
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でもさ、考えとしてわかってても相手が決めることだから、なかなかうまくいかないでしょ?
- 浅生
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中学生だから単純で、ほめれば喜ぶわけですよね。その子が思いもしないことでほめてあげれば。
- 糸井
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思いもしないこと。
- 浅生
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つまり喧嘩が強いやつに「喧嘩強いね」っていうのはみんなが言ってるので。でも「字、キレイね」ってちょっと言うと、「おっ」ってなるじゃないですか。
- 糸井
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すっごいね、それ。
- 浅生
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そうやってなんとか自分のポジションを(笑)。
- 糸井
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「字、キレイ」で。
- 浅生
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ものすごい、いやな人間みたい(笑)。
- 糸井
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いやいや(笑)。ま、西部劇だからね。
- 浅生
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生き残らなきゃいけないので。
- 糸井
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そういうのに対抗して「俺はそれでお笑いになった」って方、いるじゃないですか。ああいうのとちょっと似てますね。
- 浅生
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そうですね。
- 糸井
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「字、キレイね」ってお笑いではないんだけど。
- 浅生
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違う切り口でそこに行くっていう。
- 糸井
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一目置かれるってやつですかね。
- 浅生
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ちょっと違う球を投げるというか。
- 糸井
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今も似たようなことやってますね、なんかね。
- 浅生
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常に立ち位置をずらし続けてるかんじが。
- 糸井
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安定してると、弱みも強みもわかってきて、いいことも悪いこともあるんだけど、どっちもなくていいやと。
- 浅生
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はい。
- 糸井
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今日を生きよう、できるだけ楽しく。
- 浅生
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そう。今さえ。
- 糸井
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そこに行き着いたのは、人生を変えるような経験が。
- 浅生
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ええ。
- 糸井
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話しましょう。大人になってからでしたか。

- 浅生
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31歳のときですね。バイクに乗ってて、大型の車とぶつかって。ぼくはそれで「死ぬ」ということがどういうことかを‥‥。もちろんほんとに死んでるわけじゃないんですけど。
- 糸井
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でも、心臓は止まっていた。
- 浅生
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一瞬ですけどね。やっぱり、死ぬとは何かをちょっと理解したんですよ。
- 糸井
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カラダでね。
- 浅生
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体験しました。ほんとかどうかわからないにしても。死ぬのはそんなに怖くないんですけど、だからといって死ぬのいやですから。ああ、死ぬってこういうことかと。
- 糸井
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キモチとしてはどうですかね、そのへんは。

- 浅生
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なんか、すごく淋しい。
- 糸井
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それはね、若くして年寄りの心がわかりましたね。ぼくは年を取るごとに、死ぬ怖さが失われてきたんです。映画の中で、自分が「お父さん」とか呼ばれながら死ぬシーンをもう想像してるわけ。そのときに、何か一言いいたいじゃないですか。
- 浅生
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ええ。
- 糸井
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長いこといいなと思ってたのは「あー、おもしろかった」っていう。これが理想だなと思ったの。嘘でもいいからそう言って死のうと思ってて。この頃は違うんです。さあ命尽きるっていう最期に「人間は死ぬ」(笑)。
- 浅生
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真理を。
- 糸井
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そう。「人間は死ぬもんだから」っていう、それを言って死ぬのを一応みなさまへの最期の言葉にかえさせていただきたいと思いますよ。
- 浅生
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人間は死にますから。
- 糸井
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はい。
- 浅生
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養老先生でしたっけ、人間の致死率は100%であるって。
- 糸井
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うん。それは遺伝子に組み込まれてるからっていう。
- 浅生
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そうなんです。
- 糸井
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同時に「死ぬ」がリアルになったときに「生きる」のことを考える機会が多くなりますよね。それはどうです?
- 浅生
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そうですね。何か世の中にのこしたいとか、そういう気は毛頭なくて。ただ、死ぬということが、ぼくはすごく淋しいことだと体験したので、だから生きてる間は「楽しくしよう」と。
- 糸井
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ポジティブに。
- 浅生
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日頃、ニコニコするのは上手じゃないので、ニヤニヤして生きていこうみたいなかんじです。
- 糸井
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なんか展開がなくていいね。ニヤニヤして生きるって。
- 浅生
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そうですね。ニヤニヤして生きていきたい。