もくじ
第1回あの人の声を届けたい 2016-05-16-Mon
第2回お金とのつきあい方 2016-05-16-Mon
第3回どんな時間軸で生きていくか 2016-05-16-Mon
第4回面白い世界をつくり続けるために 2016-05-16-Mon

熊本県出身。
市場調査会社でリサーチャーや営業を経験したあと、広告代理店でマーケティング、プロモーションをおこなう。その後スタートアップインキュベーターにてアクセラレーターをつとめ、現在はロボットベンチャーでPRやマーケティングなどを担当。

第3回 どんな時間軸で生きていくか

古賀
今、自分でもどうすればいいか迷っていることがあって。
糸井
どうぞどうぞ。
古賀
僕は自分がやっている本のライターという仕事は、
とてもいい仕事だなと思っているんです。
でも、まだいまいち正しく伝わっていない部分があるので、
こういう仕事です、と説明するというか、
アピールするというか、そういうことをやった方が
いいのかなと思うことがあるんです。

でも、裏方の人間として、
誰かの声を届けるという役に徹したほうがいいのかな、
と思う部分もあって。

糸井
うんうん。

古賀
糸井さんはコピーライターとして、テレビとか、
メディアにも出られていたと思うんですけど。
コピーライターという仕事を認知させる、
という意識はありましたか?
糸井
当時は自分でもよくわからずやっていたと思うんですけど
「業界のために」っていうのは複雑な部分があって。
というのも、
自分も業界の中で仕事をして食べているわけだから、
業界がうまくいっていた方が、自分は得をするんです。
そう考えると、
「業界のため」に何かするっていうのは、
自分のが動きやすくすること、得をすることと
イコールなのかなって。
ぼく自身、当時から嘘をついたつもりはないんだけど、
厳密に言うと嘘だったかな、と思いますね。
 
古賀さんはどうですか、
出版業界の一員という立場として振る舞うことについて。

古賀
僕はつい、
「業界のため」ということを言ってしまうし、
考えていますね。
自分が新人だった頃を思い返すと、
こんなカッコいい先輩がいたなとか、
どうしても思い出の方が輝いて見えまして。
糸井
うん、うん。
古賀
だからこそかもしれませんが、
今、出版業界に入ってきた若くて優秀な人が、
カッコいいな、と思ってくれたり、
この業界に入りたいな、という場所になって欲しい
という気持ちもあって。
そのためには、キラキラ感というか、勢いとか、
羽振りの良さも必要なのかなと感じていますね。

糸井
演出ですね。
他の業界でも、あえてやっている人もいますもんね。
古賀
はい。
そういうことも、出版業界の中で、
僕のような立場の人間がやったほうがいいのかな、
と思うこともありますね。
自分の業界が憧れられる場所であって欲しいと
思っているのかもしれません。
糸井
業界のために一生懸命やってくれる人は、
ありがたい存在ですよね。
でもそれって同時に、
ライバルを増やすことだなあとも思うんです。
新しい人、しかも才能のある人が入るって、
業界にとってはプラスだけど、
自分の食い扶持を減らすライバルかもしれないし。
古賀
そうですね。
正直な気持ちで突き詰めたら、
やっぱり、自分がチヤホヤされたい、
という感情があると思うんですよね。

糸井
人間としてごく普通の欲求ですよね。
ぼくも褒められて嬉しいという気持ちは、
特に若い頃は、当然ありましたよ。
でも、実際以上に褒められてしまうと、
居心地が悪いですよね。
悪口も嫌だけど、
拍手を向けられるのもしんどいときがある。
ポジティブな評価にも、ネガティブな声にも、
当時は無意識に対応していたと思うんですけど、
今振り返ると、原寸大の自分がいいなと思いますね。
古賀
糸井さんはよく
「楽になりたいから仕事をしている」
とおっしゃってますよね。
糸井
ええ。仕事は苦しいんですよ。
めんどうくさいし、苦しくてしょうがない。
古賀
『ほぼ日』を始められた頃の感覚とは、
今は違うんでしょうか。
働くことが流行っている、
というのを書かれていたと思うんですけど。

糸井
当時も明らかに我慢していましたね。
苦労もあるし、時間も奪われるし、
体にも心にも負荷が掛かっている。
自分だけじゃなく仲間や家族にも。
でもそれが楽しくて、やりたくてやっているのも
確かなんです。苦しいけど。
今ぼくがやっている『ほぼ日』ですが、
『ほぼ日』という名前がつく前から、
こういうことって面白いぞと思ってたんですよ。
でもひとつずつの仕事は本当に嫌ですねえ。
古賀
僕も本を書くのは嫌です(笑)。
糸井
楽しくないですよね。
古賀
辛いですね、本当は。楽しくないんです。
でも、連休とか、仕事をしなくていいというときでも、
1日はゆっくりしても、
その次の日には、仕事のことを考えてしまうんですよね。

糸井
たとえば震災みたいな大きな出来事があると、
今日を大切にとか、
1日1日を精一杯生きようって流れになると思うんです。
説得力があるし、立派な考え方だと思うんですけど、
だけど、ぼくはそれを繰り返して、
少し考え方が変わったんですよね。
古賀
先日糸井さんが、3年後の話というのを
書かれているのを読んで。
3年先にどこを向いているかで、
今のハンドルの切り方が変わる、というのが響きました。
僕自身、今日明日しかない気持ちで生きる、
という立場だったので、そうやって生きている人に
共感する部分もあるんですけど。
糸井
変なハンドルの切り方をしないと、
道の先が見えないようなことってあるんですよね。
それに、自分が進んできた道を、
あとから辿ってくる人たちがいるわけですけど、
彼らが見ている風景は、ぼくのときとは違うんですよね。
そのことに気づかずに振る舞っちゃって、
今の倫理観で、社会から袋叩きにされちゃうことも、
珍しくないわけじゃないですか。
古賀
そうですね。
僕もチヤホヤされたい自分と向き合って、
人を傷つけたり、下品にならないように進んでいくか、
考えながらやらなくてはいけないのかなと思います。
糸井
ただ、チェックし合って、問題がないように、
というのも少し違うかなとは思いますけどね。
失敗したり、恥ずかしい思いをすることって、
社会とか、人間関係の免疫を作る方法だと思うんです。
感覚をすり合わせることって必要だと思うんですよね。

古賀
うんうん。
糸井
どんどん時間の流れが早くなっていますよね。
先を読むっていうけど、そのための猶予というか、
効果のある時間が極端に短くなっていっているなと。
だから、裏の裏を読んで、ピリピリして、
そういう環境ではいいものは育たない気がしますよね。
古賀
時間軸の設定というのが、すごく大事だなと思いますね。
糸井
はい。瞬間瞬間で生きるのでもなく、
もちろん10年とか20年とか未来を語りすぎて足が重い、
ということにならないように、3年ぐらいかなあ。
少し先を考えながら、
動くことが大切なんじゃないかと思うんです。

(つづきます)

第4回 面白い世界をつくり続けるために