- 古賀
- 糸井さんのなかで、「ヒット」についての定義というか
こういうものだ、というものはありますか。

- 糸井
- 『ほぼ日』をはじめてからは、ヒットは多様だな、
と思うようになりましたね。
生物多様性みたいに。ヒット多様性。 - 古賀
- ヒット多様性。
- 糸井
- 何万PVあるとか、いくら利益が出たとか、
そういうわかりやすい基準ではなくて。
売れたけど、ヒットだとは言いにくいものとか、
金銭的にはマイナスだけど、ヒットだなとか。
たとえば事務所を引っ越したことも、
お金がかかったし、引っ越し自体は売上を
産むものではないけどヒットなんですよね。 - 古賀
- 数字とかではない基準があるわけですね。
- 糸井
- そう。社会にすでにある価値観ではない、
自分たちの価値観ですね。
しかも、漠然とした感覚ではなくて、
何がヒットなのかも説明できるんです。
ぼくは、すべてがコンテンツですと言っていますけど、
『ほぼ日』以降、
世間的には評価の対象にならないようなものも
数に入れることで、自分の価値観を増やすというか。
そういうことをするようになりましたね。

- 古賀
- ミリオンセラーはまさにですけど、
ヒットは売上に繋がることが多いと思うんですが。 - 糸井
- 直接的にも、間接的にも売上に繋がることは事実ですね。
だけどミリオンセラーとか、売れた、という実績を出すと
同時にお金についても注目が集まってしまいますよね。
ぼくにとってそれは少し面倒なことで。 - 古賀
- はい。
- 糸井
- やりたいことをやって、結果としてお金がついてくる。
当然会社は利益を出さなくてはいけないので、
お金を稼ぐことは悪いことではないはずなんですが、
その金額が大きいと、何をやったかとか、
なんでそれをやるのかという視点が薄まって、
「お金のためにやっている」
と言われかねない。
そうすると、とても動きにくくなってしまうんです。

- 古賀
- 確かにそうですね。
- 糸井
- たとえば古賀さんが面白いことを考えついたとして。
それを見た誰かが、
「やればやるほど古賀さんが儲かるんだよ」
って言い出したら、動きにくいじゃないですか。 - 古賀
- とてもやりにくいですね。
- 糸井
- 一緒にやりたいって仲間ができにくくなっちゃうし、
離れてしまうかもしれない。
だからぼくは、お金についてこういう風に思ってます、
と表に出すようにしていますね。 - 古賀
- それでも、たとえば100万部売って1億、嬉しい、
という気持ちはあるのでしょうか? - 糸井
- それも、ないですねえ。
ぼくが稼げるお金って、そんな大きくないんですよ。
確かに「一億」という額は大きいけれど、
それは小さなビルも建てられないくらいのお金なんです。
半分税金で取られるし(笑)。 - 古賀
- (笑)
自分の稼ぐお金では事業の元手にしかならないって、
いつぐらいに気づかれたんですか?

- 糸井
- 30代になってからですね。30代のはじめぐらい。
20代の頃は儲かったな、とか思ってたんですが、
やりたいことを考えると小さなもんだなって。 - 古賀
- その感覚は会社員とか、
そういう立場では気づきにくいことですよね。 - 糸井
- 会社員的な発想では難しいんじゃないですかね。
事業をはじめようとしたとき、
だいたいこのぐらいの資金がいるな、
と想像するじゃないですか。
その規模が、サラリーマンと経営者では違いますよね。
お給料を貰う立場からすると、とても大きな額だけど、
実際はすぐに無くなるぐらいの小さなお金なんです。 - 古賀
- お金なしでやればいい、ということとも違いますよね。

- 糸井
- 違いますね。
お金は事業にとってエンジンみたいなものなので。
ないと動くことさえできない。 - 古賀
- おっしゃったように、それなりの事業をするなら、
そこそこ大きな額のお金が必要になりますしね。 - 糸井
- そうですね。
だから、ミリオンセラーを出して稼ぐぞ、
という気持ちはもうないんだけど。
そもそも、もう100万部なんて出ないなあ、
とは思うんですけど、
ヴィジョンとして示すにはいい数字ですよね。
これだけの人に届いたっていう嬉しさというか。
がんばってよかったな、って思えるんじゃないかと。
さらにそれを仲間が同じように感じて、
喜んでくれると嬉しいですよね。 - 古賀
- そうですよね。
他者の存在は大きいという話をしましたけど、
会社をつくって、小さいですけど組織ができると、
嬉しいことも増えますよね。

- 糸井
- 会社の子がヒットを出したんですよね。
- 古賀
- そうです、はい。うちの子が。
10万部いって、自分のこと以上に嬉しかったですね。
気持ちいいなあと思いました。 - 糸井
- そういう感覚、大事ですよね。
人が喜んでくれることが嬉しいって。
経験すればするほど人の喜ぶことが考えつきやすく
なるんですよね。
そうすると打率もあがりますよね。
(つづきます)