古賀

昔から100万部いけば、
さすがに俺も天狗になるだろうと思ってたんですよ。
もうちょっと偉そうに世の中に発信したりとか、
ものを申すみたいな活動を躊躇なくできるようになる
と思ってたんですけど、全くできないですね。

糸井

躊躇していたんですか（笑）。

古賀

言いたくなるんだろうなと思ってたんです。
「俺の話を聞け」という欲求が僕にはほんとになくて。
「この人の話を聞いてください」なんです、基本的に。
自分の名前だけで売ってる作家さんとか著者さんだと、
これだけ売れたんだぞっていうふうに、
ちょっとものを申したくなる瞬間ってある
と思うんですけど。

糸井

うん、そうですね。

古賀

人に取材して書いているという
自分の立ち位置みたいなところからすると、
天狗になりようがないみたいな。
「こんなに素晴らしい人、面白い人がいる、
みなさん聞いてください！」
と、ずっとやってきて。
でもその中で何かしらの技術だったりとか、
その人の声を大きくして伝える時に、
こうした方がいいというメソッドは積み重ねてるので、
そこについて大声で言いたくなるだろうな
と思っていたんですけど。それが未だに全くなくて。
次の好きになる人だったり、僕がマイクを渡して
「大きな声で言ってください」みたいな人を
捜し回ってる状態ですね。

糸井

それは、そのままストレートに伝わってきます。

古賀

そうですか（笑）

糸井

ラーメン屋さんでも繁盛すると、
国の税制についてとか語りだすじゃないですか。

古賀

はいはい（笑）。

糸井

自分の場合は、なったんですよ、きっと。
なったかならないかのことについて考えていって、
ならなかったつもりでいたのに…なってたんですよ。

古賀

どれぐらいのタイミングですか。

糸井

30歳そこそこで。
外から過剰に攻撃されたり、無視されたり
というのが聞こえてくるので、それに対して
矛と盾で言うと、盾のつもりで肩を張るんですね。

古賀

わかります。

糸井

そんなところに俺はいないよっていうか、
そこまでチンケな人間じゃない
みたいなことは言いたくなって、
あと、ちょっと気持ちが良くてやっちゃうのは、
「講演してもらえませんか」みたいな依頼とかね。
テレビとかもね。
それはそれで良かったなという面もあるんですが。

古賀

でも糸井さんの、特に30歳ぐらいからの、
メディアやテレビに出たりしてた活動って、
コピーライターっていう仕事をみんなに認知させる
みたいな意識もあったんじゃないかと思うんですよね。
僕もブックライターというのが、どういう仕事なのか
というのを声高に言った方がいいのか、
それはそれとして、裏方の人間として、
マイクを渡す役に徹しているのがいいのかって
まだちょっとわからなくて。
糸井さんが当時、例えば極端な話ですけど、
「たった１行でそんなお金もらっていいね」みたいな
お話ってあるわけじゃないですか。
それに対して、「いやそんなことないよ」
って言いたい気持ちと、敢えて
そこに乗っかって「俺は１行で1000万なんだ」
みたいなふうに言ったりする気持ちと
両方あったんじゃないかと思うんですけど。

糸井

それはね、当時は自分でもよくわかってなくて。
厳密に言うと、たぶん混ざりものだったと思うんです。
「業界のために」っていう言い方とか。
真田幸村の物語で言えば、長野県辺りのね、
あの辺のためにっていう気持ちと、
それから自分の、その方が楽だから
っていう気持ちとか、混ざるんですよね。

古賀

そうですね。

糸井

自分の心地いい状況を、
人は誰でも作りたいんですよ。
嘘をついたつもりはないけど。
厳密に追求すると、ほんとかなと思ってますね。

古賀

それは、今振り返っての。

糸井

振り返ってです。だからわかんないです、ずっと。
お笑いの人がよく言うじゃないですか。
「俺は若手のいいやつなんか芽を摘んでやる」とか。

古賀

はいはい、言いますね。

糸井

あっちの方が、ちょっと本気な気がして。
「お笑いもね、どんどん若くていい人が
入って来たらいいですね」って言うとか。

古賀

ああ、そっか、たしかに。

糸井

本当にほんとかっていうふうに、三日三晩１人で
自問自答したら、ちょっと混ざりものがある…
どうですか、逆に（笑）

古賀

いや、そうだな。僕はやっぱり…
つい業界のためとかっていうことを言っちゃうし、
考えるんですよね。
自分が新人だった頃は、格好いい先輩達がいて、
今自分がそれになれてるんだろうか、とか。
若くて優秀な人が、格好いいなとか、入りたいなって
思う場所になってるかどうかっていうのは。
端的に言うとネット業界とかの方が
キラキラして見えるはずなので。
だから、多少のキラキラとか、羽振りの良さみたいな
サッカーの本田圭佑さんが白いスーツ着たりとか、
ポルシェに乗って成田にやって来ましたみたいな…

糸井

彼は敢えてやってますよね。

古賀

ああいう演出とかも、何かしら出版業界の中とか、
僕らみたいな人間が、多少はやった方がいいのかな
という思いも若干あるんですけど。
でも、今の糸井さんの話を聞いて、
三日三晩自分に、もしそれを問いかけたら（笑）

糸井

（笑）

古賀

やっぱりそうだなあ…
問い詰めると、どこかにチヤホヤして欲しい
という気持ちはあるんで。
でも、それを良くないことと片付けるのは、
あまりにも勿体ない原動力だから。

糸井

人間じゃなくなっちゃうってとこがあるからね。

古賀

はい。だからチヤホヤされたい
といったような気持ちと、どう向き合って
そこを下品にならないようにとか、
人を傷つけたりしないようにとかの中で
自分を前に進めていくというのが、今やるべきこと
なのかなという気はします。

糸井

今ってその人の立場とか意図とか抜きにして、
すぐにチェックし合うみたいなことになるじゃないですか。
歯に青のり付いてない？　みたいなとこから
始まるじゃないですか。
青のり付けちゃうくらいの方が（笑）、
人として健全な免疫みたいなのが
つくんじゃないかなと思うんですよ。

＜つづきます＞