もくじ
第1回好きの理由は嘘っぽい 2016-06-02-Thu
第2回素人以上、経験者未満 2016-06-02-Thu
第3回ピラミッドの頂点 2016-06-02-Thu
第4回雲の上の日の丸 2016-06-02-Thu

1978年、滋賀県生まれ。大学在学中からフリーライター。2010年、デザイン会社ハイモジモジを創業し、2012年度グッドデザイン賞受賞。現在、デザイン会社経営とライター業の二足のわらじ。飼っているネコの名は「ニーポン」。

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好きなものは、いくつもある。
けれど好きな理由は答えにくい。
理由をならべればならべるほど、
好きには理由がない気がして。

わたしが好きなものは何なのか。
わたしはそれがなぜ好きなのか。
案外むずかしいテーマを掘りさげるべく、
今回は自分自身をふたりにわけて、
本人同士で対談しました。

そこで見えてきたのは
「サッカー日本代表」というキーワード。
自分でも気づかなかった
「好き」の理由が見つかりました。

担当の松岡厚志(まつおかあつし)が
「松岡」と「厚志」にわかれてお送りします。
全4回、さいごまでお楽しみください。

第1回 好きの理由は嘘っぽい

松岡
初めまして。
厚志
初めまして、と言ってもいいのかな。
松岡
僕たちはもともと同じ人間ですが、
ふたりにわかれて対談するのは初めてでしょう。
厚志
それもそうですね。今日はよろしくお願いします。

松岡
さて、今回のテーマは「わたしの好きなもの」。
「ほぼ日の塾」塾生に課されたお題その2です。
これは楽勝でしょう。
好きなものなんていっぱいありますし、
ちょいちょいっと書けちゃうんじゃないですか。
厚志
それが、そうでもなくて。
むずかしいですよ、このテーマは。
松岡
自分が好きだなあと思うものを挙げて、
好きな理由をそのまま書けばいいじゃないですか。
厚志
それほど簡単な話には思えないんですよ、ぼくは。
だって、自分の好きなものについて普段から
「ここが好きだなあ」って意識してますか?
松岡
それはあなたと同一人物だから言えますけれど、
してませんね。
厚志
でしょう。
たとえばぼくたちはスイカがめっぽう好きですが、
「なんで?」と訊かれても答えに困ります。
ただ「美味しいから」とか、その程度でしょう。
好きなものはただ好きなだけで、
理由らしい理由はとくになくて。
松岡
「ほどよく甘くて、みずみずしいから」
「どれだけ食べても太らないから」
「夏を感じさせてくれるから」
厚志
強いて挙げればね。
でも、それって本当に正しいのかなあ。
「だからスイカが好きなんです」と結びつけるには
ちょっと自分のなかで説得力に欠ける気がする。
言葉が足りないというか、足りすぎてるというか。

松岡
たしかに、ちょっと嘘っぽいですね。
厚志
むしろ嫌いなものの方が、理由は明らかかもしれない。
「だから嫌いなんだ」とあとに言葉が続くなら、
どんな理由でも腑に落ちる。
松岡
うん、ちょっと分かる。
厚志
たとえばぼくたちはお芋が苦手だけど、
理由は結構はっきりしていて、
口のなかがもさもさするから。
口のなかがお芋で100パーセントになるのが
どうも苦手なんですよね、味はともかく。
松岡
そうそう。だからポテトサラダみたいに、
お芋以外にキュウリやニンジンとかが混じっていると
口のなかがお芋100パーセントにならないから、
意外と大丈夫だったりする。
あと、フライドポテトなんかもオッケー。
揚げてあるから、もさもさしない。
厚志
でも大丈夫だからといって、好きとはまたちがう。
言うほど好きかと問われたら「そうでもないかな」。
松岡
難しいね(笑)。

厚志
だからこれ、やっぱり難しいテーマなんです。
「わたしの好きなもの」って。
理由をきちんと語れるほど好きで、
それでいて理由が嘘っぽくないものを探すのは
簡単なようで、案外むずかしい。
好きの理由をつけた途端、自分に嘘をついてる気がして。
松岡
ああ。
厚志
友達に「なんでAちゃんが好きなの?」って訊かれて、
「ポニーテールだからかな」って答えるとするでしょう。
でも、ほんとにポニーテールが理由なのかと。
それってもともとAちゃんが好きで、
たまたまポニーテールが似合ってたってだけで、
たとえショートカットだったとしても
Aちゃんのこと好きでしょう。
丸坊主だったらわからないけど(笑)。
松岡
単なる髪型ですもんね。
たしかに「ポニーテールだから好き」の図式は怪しい。
単純なイコールで結びつけるのは抵抗があります。
正確にいえば
「好きだし、ポニーテールのAちゃんはもっと好き」。
厚志
ポニーテールの前にAちゃんを好きな理由がある。
でもそれは言外のものかもしれない。
もっと無意識に、好きの理由があるんでしょうね。
ほかの誰でもないAちゃんだけに惹かれる理由が。
松岡
それは大きなヒントですね。
好きの理由を言葉にすると怪しいし陳腐化もするけど、
だからといって理由がないわけじゃない。
きちんと掘り下げてみれば、きっと見つかるはずで。
Aちゃんみたいに好きなもの、ほかにないですか?
厚志
Aちゃんは仮の人物だけどね。
松岡
こう、我を失うほど好きというか、
三度の飯よりそれが好きというか、
それがなくなってしまったら困るくらいに好きなもの。
厚志
・・・サッカーかなあ。

松岡
ああ。
厚志
うん、サッカーは好きですね。
とくに日本代表の試合は欠かさず観ています。
たとえ親善試合でも、試合がある日は
手帳にかならず印をつけてありますね。
松岡
その日、その時間に仕事が重ならないように。
厚志
どうしても、どうしても
リアルタイムで観られないときは録画で観ます。
ただしインターネットを完全に遮断して、
事前に結果を知るのを徹底的に避けますね。
電車の中でその試合のことを話している人がいたら
耳をふさぐか、すぐに車両を乗りかえます。
松岡
たとえ録画でも、結果を知らない状態で
ドキドキしながら観戦したいからね。
厚志
電車内はとくにトラップが多いんですよ。
車内に設置されたディスプレイから
「日本2-0で勝利」なんてニュースが飛び込んできて、
あわてて目をそらすけど万事休す、みたいな。
松岡
ははは。
厚志
あと、ちょうど日本代表の試合をやってる時間に
のんきに電車に乗ったりお買い物している人を見ると
「いま試合やってるよ? だいじょうぶ?」
って心配で肩を叩きたくなる。
松岡
みんながみんなサッカー好きじゃないから(笑)。
厚志
自分で言うのもなんですが、
日本代表のこととなると我を失うことがあるんです。
松岡
ああ、ありましたね、コートジボワール戦。
厚志
ん?
松岡
ほら、2014年のワールドカップ・ブラジル大会。
日本代表が初戦でコートジボワールと対戦したでしょう。
厚志
ええ。
松岡
本田圭佑選手が前半16分に先制ゴールをあげたとき、
あなた歓喜のあまり叫びましたよね、
「日本の夜明けじゃー!」って。
部屋のカーテンをシャーッと開けながら、
窓の外に向かって大きな声で。

厚志
言ってないよ(笑)。
松岡
いや、たしかに言いました。
それこそ我を失っていた証拠です。
自分を見失って、記憶に残らないほど
無我夢中だったんですよ。
厚志
そうだったっけなあ。
松岡
あの試合は日本時間で朝10時のキックオフだったんです。
で、ちょうどテレビに日が差して
画面が見えにくくなる時間帯で、
部屋のカーテンを閉めたまま観戦していた。
厚志
あー、ちょっと思い出してきた(笑)。
松岡
日本代表は2002年のワールドカップ日韓大会で
みごとベスト16に入ったものの、
チームが円熟期を迎えた2006年ドイツ大会では
期待とは裏腹にグループリーグで惨敗した。
厚志
うん。
松岡
で、次の2010年南アフリカ大会では
世間のあきらめムードに反してふたたびベスト16入り。
ぼくたちは「ベスト16の次」が大事だと思っていて、
しかもワールドカップは初戦に勝つことがかなり重要で、
だから本田選手の先制ゴールに日本代表の未来を感じた。
「今度こそベスト16以上の歴史を刻めるかも」って。
厚志
それが「日本の夜明けじゃー!」。
完全に記憶がよみがえりました。
松岡
そんなおかしな叫び声を
人目もはばからずにあげる時点で、
やっぱりどうかしてるというか、
大好きなんですよ、サッカーが。
厚志
正しくは「サッカー日本代表が」でしょうね。
サッカー以上に、サッカー日本代表が好き。

松岡
見つかりましたね、わたしの好きなもの。
でも、なんでそんなに好きなんでしょうね。
厚志
自分でもよくわからないんですよね。
松岡
じゃあ、ぼくたちの過去にもぐって
ひも解いていきましょうか。

(つづきます)

第2回 素人以上、経験者未満