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第0回私の好きなものは 昼寝だったという話 2016-06-02-Thu

都内でWeb編集の仕事をしています。「毛ガニ」という名前は、とある言いまつがいから生まれました。SNSでは本名なので、なんてことない苗字なんですけどね。よかったら、つながってみてください。Twitterはこちら

こんにちは。こんばんは。
ほぼ日の塾に参加しています、Web編集者の毛ガニです。
100人近くの塾生が参加して、ほぼ日のコンテンツの
作り方を学びましょうという企画「ほぼ日の塾」。
第2回となる課題のテーマは
「好きなもの」についてエッセイを書くことでした。

そう言われて、パッと思い浮かぶものありますか?
‥‥


私も「これかな?」というものがありました。

説明会で講師の永田さんから「自由に書いていいですよ」と
言われたものの。だがしかし。
書き始めてみると、これがすごく難しい‥。
「好きなことなら書くのも楽でしょう」と思ったのですが、
しばらくして「こりゃあ困ったぞ」と気づいたのです。
なにが困ったかというと‥?
「私がほぼ日の読者さんに語れるほど好きなことって、
そんなにない。いや、ほとんどない。」
ってことなんです。これにはまいりました。

ほぼ日にはきのこの話レストランの話
はたまた、たんぽぽの話など、
思わず引き込まれて心揺さぶられる
珠玉のエッセイが並んでいます。
末席とはいえ、同じ土俵にあがらせてもらうことを考えると
正直、足がすくみました。
そして、途方にくれました‥。

でも、なんとか少ない手がかりを元に
泡を吹きながら書き上げることができました。
(毛ガニだけに‥なんて)

ちなみにエッセイの語源は、
フランス語で「試み」という意味のessaiにあるとか。
ということで、未熟者の試みのひとつとして
読んでもらえたらうれしいです。

なお、このエッセイは1ページ完結となってます。
サクッとお楽しみいただけます。

では、どうぞ!

そもそも、なんで昼寝なのか?

昼寝って、
たぶん嫌いな人はあまりいないと思います。

たとえば、南の島とかのリゾートで
ビーチやプールサイドで昼寝なんてどうですか?
波の音とかそよ風を感じながら
時間に追われることもなく過ごす午後。
本を読むのもよし、音楽を聴くのもよし、
手元のテーブルに冷えたビールなんかがあれば最高ですね。
気が付いたらウトウトしてたりして、
目が覚めたときに身体が汗ばんでいたりしたら
水着のままで海にザブン。
気持ちいいですよね。

たとえば、広々とした河川敷にある土手の
草むらに寝転んでする昼寝も捨てがたいものです。
桜や菜の花が咲いていたりする春なんかは、最高ですよね。
まわりには子供と一緒にお出かけしてきた家族連れや
草野球をするために集まってるサークルっぽい人たち
初々しい大学生くらいのカップルとかがいたりして。
なんとも平和な気分になります。
おにぎりやからあげとか、お弁当持参でもいいし
バーベキューとかやりながらというのもいいですね。
食べたり飲んだりやおしゃべりに疲れたら
ごろっと横になったりしてスヤスヤ。
一日中でも寝転がっていたくなります。

こうして想像するだけで
幸せな気分になれませんか? 昼寝って。

まあ、私が昼寝を好きと言っても
別にスペインの人ではないので
毎日2時間の昼寝を欠かさないとか、
はたまた家具屋さんでもないので
世界のあらゆる寝具で昼寝して違いを語れるとか
そういうわけではもちろんなくてですね。
たぶん、そういう意味では「たしなむ程度」なんです。
昼寝。
あ、ちなみに仕事中はたしなんでないです。はい。

今思うと、昼寝との運命的な出会い

昼寝のことを考えたときに
こうして語らせてもらっている
きっかけとなったのは大学生のときに訪れた
オランダのアムステルダムです。
当時、バックパッカーとして海外を何十か国も
まわっていました。
で、それだけたくさんまわるとですね
旅行に飽きてくるんです。
不思議ですよね、「俺は世界を見たいんだー」なんて
威勢よく出発したのに。
遺跡とか美術館とか、たくさんまわりすぎて
お腹いっぱいなんです。よく覚えてないのです。

で、アムステルダムで有名な観光名所のひとつとして
ガイドブックに載っていたゴッホ美術館に行ったのですが
有名な絵画の『ひまわり』とか『種をまく人』を
見たような気もするし見られなかったような気もするし
そんな記憶しか今はもう残っていません。

ただ、それよりも強く覚えているのは
美術館を出たところに広々とした公園がありまして。
現代美術っぽい雰囲気の建物とか
いい感じに傾斜のついた芝生とかがあったんです。
季節は7月とかの晴れた日で。
ヨーロッパでは過ごしやすい気候だったと思います。
その公園では旅行者だったり地元の人だったりが
おもいおもいに寝そべったり団らんしていたんです。

そこを通りがかったとき、ふいにガイドブックを片手に
美術館や観光地をまわるのがどうでもよくなったというか。
ひとりでしたけど、そのまま芝生の隅のほうで
寝転んだりして時間を過ごしました。
海外でのひとり旅なので、
さすがにグーグーと昼寝することはなかったと思いますが
ウトウトくらいはしてたでしょうね。
ボーっと、なにをしようか考えながら。
きっと旅に疲れてたんでしょうね。
でも、その時間が心地良かったというのは
美術館の記憶よりもはっきりと残っています。

で、大学を卒業してバックパックを背負うこともなくなり
札幌の小さな出版社で働き始めて
昼寝する暇もなくなりました。
もしくは寝るといっても
徹夜明けで頭がまわらないから仮眠しようとか。
そんな感じです。生きるために寝るみたいな。
その後、上京して同じような仕事をするのですが
ここでもぜんぜん暇じゃなくて。
寝たいことは寝たいんですけどね。寝てたら間に合わん!
みたいな締め切りに追われる日々を過ごしていました。
でも‥スキあらば昼寝したかったんでしょうね。

あるとき、取材でハワイへ行くことになったんです。
「仕事で海外取材」というのが当時の夢だったので
そりゃまあうれしかったんですけども。
基本は日本と同じく激務でした。寝る暇もないほどの。
睡眠3時間くらいで1日に20軒くらいお店をまわります。
もう本当に目が回るくらい忙しくて。
しかも取材チームに社長が同行してるものだから、
息を抜く暇もないんですね。
でも、1週間くらいでメインのオアフ島取材が完了して
あとはハワイ島という離島で数日取材したらおしまい
というところで、社長がひと足先に帰国したわけですよ。

「忙しいから、あとの離島は任せた」と。
私も「お任せあれ」とお見送りしまして。
そしたらもうね、昼寝し放題です(笑)。

あ、いや誤解の無いように言っておきますと
離島でもそれなりに激務をこなして、予定よりも1日早く
仕事を全部終わらせたんです。
で、最終日は仕事がほぼ何も無い状態にしておいて
ホテルのプールサイドで半日ずーっと寝てました。
ハワイ島で有名なキラウエア火山とか
見に行けばよかったのかもしれないですけども。
まったくそんな気力もなく。
でも、最高でした。

振り返れば、昼寝

旅行に限らず、仕事とか学校生活とか住んでる家とかにも
当てはまるのかもしれませんが、非日常とか緊張状態って、
しばらくすると飽きるのではないでしょうか。
旅行も最初はウキウキワクワク。
見るものすべてが新鮮で輝いて見えるんでしょうけど
だんだんちょっとやそっとのものでは反応しなくなる。
慣れてきて、疲れてきて、飽きてしまう。
そう思いませんか?
で、本当にやりたかったのは何だっけ?
みたいな時に、私は昼寝がしたかったのですね。
もしかしたら自分の頭のなかをリセットする、
みたいな意味があったのかもしれません。

この話をぼんやりと奥さんとしたらですね、
出会ってから最初のデートで出かけた川べりでも
昼寝をしようとしてたと笑われました。
我ながら、まさかそんなって思ったんですけども。
なんと‥、本当でした!
その後もいい感じの芝生がある公園とか
河川敷とか広々とした場所とか、
とにかく気持ちよさそうなところにデートすると
すぐに寝転がろうとするから困ったと苦笑いされまして。
なんでしょうね。安心したんでしょうねぇ。
奥さんが放つ癒しのオーラに。
ということにしておきましょう(笑)。

それから結婚して息子が生まれて。
知ってます? 赤ん坊って毎日昼寝するんですよ。
私は知りませんでした。
1歳までの息子は、ほとんどいつも寝てたような気がします。
で、本当に幸せそうに眠るんですよね。

逆に1歳までって、寝てない時は泣いてばかりいて
彼なりにおっぱいだおむつだと伝えたいんでしょうけど
できることは全力で泣くしかないので親は大変です。
1時間も2時間も奥さんと変わりばんこで
抱っこしたりなだめたりと息子の相手をするんですけど。
眠ってしまった後はその寝顔を見てるだけでホッとして
隣で一緒に寝てしまったりとか。
でもまあ、そんな風に始まる昼寝も良いものです。
布団で息子を真ん中において、奥さんと川の字で昼寝とか。
バックパッカーのころには想像もできなかった光景です。

2歳になった息子は今「(これは)イヤ!」とか
生意気な言葉を覚えたり自己主張をするようになりました。
お昼ご飯を食べて眠たいはずなのに
まだ寝たくない、遊びたいとグズったりして。
でも、布団で一緒に絵本を読んでるうちに寝てしまいます。
もしくは私のほうが先に寝てしまって
起きたら息子が横で寝息を立ててる場合もあります。
息子のよだれがだらーっと私のシャツの胸元に垂れてたり。
意外と臭いんですけどね。うちの息子のよだれ。
でも、それはそれで幸せです。

なにをしたかで振り返る

こうして「好きなもの」という課題を手がかりに
何を書こうかと私の37年間を振り返ってみると、
見つかったのはなんと。昼寝だったのです。
私としては
もっとカッコイイものを期待していたんですが(笑)。

糸井さんが以前に書かれていたこととして
“人は「なにを言ったか」ではなく、
「なにをしたか」で評価されるものだと思います。”
という言葉がありました。
まさに「なにをしてきたか」を振り返ってみたときに
自分でも気づかない他人からの評価が
見えてくるのかもしれませんね。
これは、私にとっても発見でした。
(それにしても‥昼寝かぁ)

「仕事の効率をあげるためには適度な昼寝をすべき」とか
「20分の昼寝は会社でも推奨しよう」とか
真面目に語られることも多いと思うんです。昼寝って。
でも、目的もなくゴロゴロしてるうちに
気づいたら寝てたくらいのほうが
私の経験としてはいい昼寝と言えそうです。
昼寝の前に本を読んだりぼんやりと考えごとしてる時間って
とても贅沢な時間の使い方だと思いませんか?
あとは、その時間を共有できる家族や仲間がいれば
これ以上の幸せは世界を探してもなかなか見つかりません。
ちょっと強引ですが、世界を見てまわった私が言えることは
これくらいです。

さて、長くなってしまいましたが
私の昼寝の話はこれでおしまいです。
外に出かけるにはいい季節ですしね。
お休みの日とかにゴロリと公園の芝生で昼寝でも、
どうですか?

おまけ

最後に少し余談ですが
今回の課題2を考えるにあたっては
課題1の振り返り会で古賀史健さんが話してくれた
「文章を書く上で大切なことは、書き手が発見した
伝えたいことだけではなく、そこに至った道筋を
疑似体験として読者に追体験してもらうこと」
という言葉に支えられて書き進めることができました。
私にとってこれまで無かった発想だったので
今回の課題2はそれを再現する試みでもありました。
最後まで読んでいただいたあなたに
それが伝わっていれば、こんなにうれしいことはありません。

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気軽に感想などいただけると
真っ赤になってよろこぶことでしょう。
(毛ガニだけに‥て、言うてる場合か!)

ご愛読いただきありがとうございました。
ではまた、課題3でお会いしましょう。
担当はお酒も大好きな毛ガニがお送りしました。