第6回 ウォークマンの登場と、ジャズ喫茶の退場。

── ジャズ喫茶の文化って、
話を聞けば聞くほど、おもしろいですね。
高平 ピークの時期には、いろんな店があったからね、実際。

‥‥たとえばさ、
誰かがジャズ喫茶を始めるとするでしょ?
で、同業者が
「どうもあの店は客が多いみたいだぜ」となる。

すると、偵察に行ったりするんだよ、マスターが。
それで、ある日、突然
「モダンジャズ」って看板を出しちゃったりとかね。
── そうなんですか(笑)。
高平 いや、ほんとにそんなことがあったって、
ジャズ喫茶「DUG」の
中平穂積さんに聞いたことがある。
── お客さんは、基本的には
自分のお気に入りの店に通い詰めるんですよね?
高平 うん、それなりに店の特徴はあったからね。

たとえば、どこそこの店に
「JBLのパラゴン」が入ったっていうと、
行ってみようかって。
── その場合は、スピーカーで選んでるわけですね。
高平 その店のオーディオのスペックが
ぜんぶ書いて貼ってあったりしたんだよ。

当店のスピーカーはどこどこのなになにで、
カートリッジ、
つまりレコードの針はこれこれで‥‥って。

本日の蕎麦粉はどこどこ産です、みたいなもんだよね。
手打ち蕎麦屋の(笑)。
── 基本的に、お店にかかるレコードは
お客さんのリクエストなんですよね?
高平 うん、そう。

でも、オヤジがさ
「すみません、セロニアス・モンクは
 2枚ほど前におかけいたしましたので
 少々、先になりますが‥‥」って
合間にべつのものをはさんだりとかはしてたよね。

で、客が増えすぎると、
前衛っぽいジャズかけて、帰しちゃったり。
── 気に入らない曲だと、帰っちゃうんですか!?
高平 コースターをコーヒーカップの上にのせて、
プイって、出てっちゃう。
で、その曲が終るころに、戻ってくる。


そういう、ヘンなやつもいた。
── でも、そんなジャズ喫茶も、
もう、あんまり残ってないんですよね。
高平 今年、横浜の「ちぐさ」も閉店したし。
── ニュースで報道されてましたよね。
高平 でもこのあたり(下北沢)にある
「ジャズ喫茶マサコ」っていう店は、
まだやってるみたいだよ。
── あ、このあいだ買ったジャズの雑誌に、
「いまだに近所から苦情が来る店」という説明つきで、
紹介されてました(笑)。
高平 それ、ようするに何がいいたいかというと、
ふつうの家では聴けないような
大音響で聴けるのが、
ジャズ喫茶のウリだったってことなんだよね。

だから、60年代から70年代のジャズ喫茶を
客として経験した人が
功なり名を遂げて、家を建てる段になると、
まず、考えるのが「自宅にオーディルーム」。
── ああ、防音設備のついた‥‥。
高平 昔なじみのジャズ喫茶のオヤジに
「オーディオセット、組んでくれるか」なんて
頼んだりしてさ。
── ああ、そういう気持ち、わかります。
男の子っぽいというか‥‥。
高平 ジャズ喫茶に行かなくとも、
自分の部屋で、デカい音で聴ける。

‥‥でも、ウォークマン以降は
みんなヘッドフォンで聴くようになったでしょ?

だから、ウォークマンの登場と
ジャズ喫茶がなくなっていく時期が重なってるのって、
何か非常に‥‥象徴的だよね。
── ああ、なるほど。
高平 ジャズ喫茶では
ヘッドフォンで聴くくらいの音量で鳴ってたわけだから。

‥‥「JBLのパラゴン」が、さ。
<続きます>
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2007-11-09-FRI