はじめてのJAZZ2ヒストリーもたのしみなりー!ほとんどまるごと再現ツアー

#04 ジャズ誕生前夜 ゴリウォークのケークウォーク

糸井 冒頭のタモリ教授の講義にも出てきましたけど、
ジャズが生まれるまえからあった
ブルースだとか、ワークソングだとかってうのは
まだ「ジャズ」とは呼べないんですか?
山下 呼べないでしょうね。

ただ、黒人たちの音楽を整理統合して、
西洋音楽の教養でピアノ音楽にした人がいるんです。
糸井 具体的な誰か、がいるんですか?
 
山下 スコット・ジョプリンという黒人で、
70年代の『スティング』という映画の主題歌で使われて、
とても有名になりました。

理論も習っていた黒人ピアニストという、
当時では、かなりめずらしい人でね。

彼の同胞たちがやっていたような
アフリカの節やリズム、
これは西洋音楽には絶対にないんですよ。
糸井 ほう‥‥。
山下 黒人たちの独特なリズム感として伝えられてきたものを
整理統合して、自分の作品として曲集を出した。

それが世にいう、ラグタイムです。
糸井 ラグタイム。
山下 ええ、ダンスミュージックですね。

この音楽が1800年代の終わりごろに出版されて、
それこそ、世界中に大評判を呼んだんです。
もちろん、フランスにだって渡っていったでしょう。

かのドビュッシーも、ラグタイムに影響されて
「ゴリウォークのケークウォーク」という曲を
『子どもの領分』という組曲のなかで書いています。
糸井 昔からあるクラシックが
ラグタイムという新しい音楽に影響されて変化した、と。
山下 ええ、その証拠に、ケークウォークって、
黒人のあいだに発祥したダンスの一種なんですけど、
知らなければ、絶対に出てこない言葉ですからね。
糸井 そのあたりも、演奏してくださる?
山下 ええ、もちろん、やりますよ。
糸井 あ、タモリさんがいらっしゃいました!
タモリ いや、すいません、遅れて。
 
糸井 今まで、どちらへ?
タモリ いやあの、ちょっと仕事があったもんで。
糸井 ついさっき、
似たかたがお見えになってましたけど。
タモリ あ、そうですか。
糸井 ご親戚のかたとかですかね?
タモリ ああ、さっき、すれちがった人かな。
山下 あっはは(笑)。
糸井 いま、山下さんが解説してくださっていまして。
山下 ピアノ音楽によるジャズってところをね。
タモリ ああ、大事ですねぇ。
山下 で、話をもとに戻しますと、
ラグタイムって、いっさい即興がないんです。

今では、ジャズといえば、
もう90%くらい即興が命になっていますから、
ラグタイムを
ジャズとは呼ばないって人もいるぐらいなんです。
糸井 ほおお‥‥。
山下 スコット・ジョプリンの音楽が
黒人コミュニティの踊りに使われて、
で、その踊りを
白人たちがおもしろがって真似して‥‥。

だから、ケークウォークって
黒人か白人か、いったいどっちがはじめたんだって論争が
いまだに、ありますよね。
糸井 奪い合い。
山下 そう、奪い合いです。
こういうことって、よく起きるんですよ。

ブルースにだって、主導権争いがあるし。
糸井 音楽家って、意外と主導権争いするんですね。
山下 白人音楽である「ブルーグラス」なんかも、
あれ、ブルースじゃないかとか、
逆に、黒人のほうが盗んだんだろうとか‥‥。

そういう話は、しょっちゅうありますよ。
タモリ アメリカって国は
何にも生んでないですからね!
 
糸井 出てきたとたんに毒舌です。
タモリ 所場代取ろうとしてんですよ!
糸井 どこか、さっきの「親戚のかた」みたいな‥‥(笑)。
<つづきます>

今日のジャズ語

ラグタイム
19世紀末に流行した黒人音楽。
ピアノ中心のアンサンブルで演奏された
ポピュラー音楽の一種で、西洋音楽的な要素が強い。
ジャズのような即興性はないが、
クラシックとは異なったリズム感を持ち、
ジャズの基盤となった。
2008-03-06-THU