水野仁輔さんって、どんな人?~糸井重里、水野さんに新しい肩書きをつける。~
日本のカレー界で幅広く活躍されている
水野仁輔さんという人をご存知でしょうか。
東京カリ~番長の調理主任で、東京スパイス番長や、
欧風カレー番長といった活動もされています。
これまで作ってきたカレー本は40冊弱。
「ほぼ日」もカレーの企画が立ち上がるたびに
たくさんお世話になってきました。
「ほぼ日」はこれから、その水野さんと
新プロジェクト「カレーの学校」をはじめます。
そこで、糸井重里との対談というかたちで、
水野さんのことをご紹介いたします。
「自分の肩書きに困ってるんです」と言う水野さんに、
糸井が新しい肩書きを考える場面も出てきますよ。
水野さんのおもしろさ、感じてください。

目次
1.説明しにくいんですよ。
2.糸井のカレーの黒歴史。
3.サイエンス・カルチャー・ノスタルジー。
4.裏側にあるすごいこと。
5.タマネギ炒め、第3の流派。
6.水野さん、何がしたいんですか?
7.カレー世界のドラッカー。
8.新しい肩書きの誕生。
1.説明しにくいんですよ。
糸井
「カレーの学校」のチームから、
「水野さんをあらためて紹介したいんです」
と言われたんです。
何をいまさらとも思うんだけど、
水野さん、「ほぼ日」でまだ
ちゃんと紹介されたことがなかったんですよ。
こんなにたくさん登場してもらってるのに。
水野
たしかにそうですね。
糸井
それから、たぶん自分のことを言ってない。
水野
はい、そうですね。
そこはぼくのほうにも問題があって、
ぼくのやってることって説明しにくいんですよ。
明快な肩書きもないし。
糸井
たしかに「東京カリ~番長」以外の
言い方がないんだよね。
水野
そうなんですよ。
そこはぼく、ほんと昔から困ってて。
糸井
自分で困ってるんだ(笑)。
水野
そうなんです。
よく使ってる「東京カリ~番長」も、
なんだかわからない集団だし。
だけど、なにか取材を受けるとかになると、
全国津々浦々の老若男女に
「この人は何」ってわかる説明が求められますよね。
それで毎回悩んだ結果、
結局「カレー研究家」となっているのが
いちばん多いんです。
糸井
「カレー研究家」ね。
水野
だけどその呼ばれ方はすごく違和感があって、
「自分はカレー研究家ではないよな」
と思いながら、オーケーしてるんです。
だけど「じゃあ何ですか」って言われると
ぼく自身も
「さぁ、なんでしょうねえ‥‥」って。
一同
(笑)
糸井
だけど今日のような話があるということは、
そろそろ、輪郭を作るべき季節が
来たんじゃないでしょうか。
水野
そうかもしれません。
糸井
だけど、たとえば肩書きに、
「=(イコール)カレー」
とか書かれてもね。
水野
それは「なんだろう?」って感じですよね。
ただ、以前ぼくが
「カレーになりたい」と言ってたことがあって、
それはキャッチフレーズとして、
よく使われてましたね。
糸井
たしかにその感じは
いちばん合ってるかもしれない。
「わたしはカレーだ」っていう。
水野
あと、ちょっと違いますけど、
こういう言い方もありかなと思ったのは、
カリ~番長のリーダーが言っていた
「水野は日本人初のインド人だ」。
一同
(笑)
水野
彼も「水野というのは何者だ?」と
よく聞かれてて、そのたびに困るから、
いろいろ考えた結果、
そう説明してると言ってましたね。
糸井
うん、悪くはない、悪くはない。
水野
いま糸井さんに
「悪くはない」と言われたことは、
リーダー、相当喜ぶと思いますよ。
糸井
ただ、どう言ったらいいんでしょうかね。
「カレー」とか「カリ~」と言うと、
やっぱりインドのイメージがあるわけですよ。
「カレー」ということばは
イギリスも日本も含むけど、
どうしてもインドが大きく含まれてる。
水野
そのうえインドという存在は、
「カレー界でいちばん偉い」
みたいな位置にいるんです。
糸井
そうだよね。
だけど水野さんのやってることを思うと、
「インドがいちばん偉いとも限らない」
とも言いたいですよね。
水野
そうなんです。
ぼくの軸はやっぱり「日本のカレー」なので。
だからぼくが自分で
「日本人初のインド人」というのを認めると、
ちょっとそれは都合が悪い。
糸井
そう、だから、
「悪くはないんだけど、悪い」んですね。
水野
「いやいや日本人だろう」って(笑)。
‥‥このあたり、難しい問題なんですよ。
糸井
なにかカタカナ名とかつければいいのかな。
ショーンとか。
水野
ショーンねえ(笑)。
糸井
いっそ思い切りインドに振って、
インド名をつけちゃう?
水野
それもまた、一緒にやってるメンバーで、
「シャンカール・ノグチ」というのがいるんです。
ああいうのがいると、もうダメですね。
糸井
「ああそれか」と思われるもんね。
水野
しかもシャンカール・ノグチなんか、
おじいちゃんがインド人で、
子供のときに「シャンカール」と
呼ばれてたというのが理由だから、
まだよくて。
糸井
ラヴィ・シャンカール(シタール奏者)と同じ
「シャンカール」ですね。
水野
そのシャンカールです。
あと「メタ・バラッツ」というのもいるんです。
しかも「バラッツ」ということば自体が
「インド」という意味ですから、
「ジャパン仁輔」みたいなことなんですよ。
まわりにそういう強者がいるんでね、
そういったつけかたができないんです。
糸井
そうか‥‥。
ならもう水野さんは、ぐっと日本に寄せて
「フジヤマ」とか?(笑)
水野
そうなんですよね。
ぼくの思いとしては、いままでも、これからも、
日本のカレーに軸足を
置いときたいのはあるんです。
だから「日本」という切り口もあるかもしれない。
もちろん「インド」については、
かなり真剣に追求はしてますけれども‥‥。
糸井
してますよね。
水野
とはいえ、そこはやっぱり手段なので。
糸井
「ラーメンを研究するのに
中国を知らないわけには」みたいな?
水野
そういう感じですね。
だから「手段であって目的ではない」んですね。
ぼくが毎年インドに行って、インドを研究しているのは。
糸井
なんだかドラッカーみたいになってきましたね(笑)。
「インドは目的ではなくて手段である」
水野
だからやっぱり、
ぼくのいちばんの興味は日本のカレー。
日本のカレーがいいんですよ。
糸井
だけど、日本のカレーって
なかにものすごく含んでるから、
ぜんぶ入っちゃうんだよね。
水野
そうなんです。それもあってぼくは、
ほんとに自分のことが説明しにくいんですけど。
糸井
なにかいい肩書き、ないものかな。
水野
ないですかねぇ。

(つづきます)
2016-04-29-FRI
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