伊丹さんは、機嫌のいい人だったんですか?

第4回 機嫌のいい人だったんですか?

糸井 伊丹さんは、毎日、
機嫌のいい人だったんですか?
玉置 機嫌ですか?
糸井 うん。
玉置 機嫌は‥‥難しいんじゃないですかね(笑)。
糸井 難しいですか(笑)。
玉置 ただ、機嫌の悪い人でもないです。
とっつきにくいとか、
つねに眉間にシワを寄せているとか、
ムラがあるとかいうのは、誤解です。
映画監督って、現場では怖い人も多いですけど、
伊丹さんはそういうタイプではない。
まったく怒鳴りませんし、
映画のメイキングを観てもらったら
よくわかると思いますけど、
基本的に淡々としてましたから。
まぁ、その、不機嫌になる瞬間は
どうしてもありましたけどね。
糸井 うんうんうん。
玉置 でも、どっちかというと、
映画撮ってるときは、元気で明るくて、
みんなに檄をとばして
引っ張っていくという感じで。
糸井 いろんな人からうかがった
エピソードを積み上げていくと、
伊丹さんって、なんか、
いっつも「見えない戦い」を
していたように感じるんですよ。
玉置 そうですね。
それは、もう、ほんとにそうだと思います。
とくに、自分の知らないこととか、
まだ結論を出せずにいることに関しては
もう、ひとりで、ずぅっと考え続けていました。
必要があればいろんな人に会いに行ったり、
取材のようなことをくり返したり、
自分なりの判断をくだすまでに
すごく真剣で濃密な過程があるんです。
糸井 なるほど。
玉置 で、きちんとした裏づけを得て、
いったん自分で自信を持ったら、
そこはもうあとは、突っ切るっていう感じで。
だから、決して自分のアイディアを
根拠もなくごり押しするような
タイプじゃないんです。
糸井 ああ、なるほど。
見ていて上手だなぁと感じたのは、
誰かに何かの仕事を要求された場合には
きっちりとそれをこなしていましたよね。
等価交換じゃないけれども、
「こういう役を頼むね」って言われたときに
「お返ししましょう」って役割を果たすような、
そういう仕事への覚悟を感じたんですよね。
玉置 借りはつくらない人ですからね。
糸井 ああ、なるほどね。
多くの人が言っている
「伊丹さんはクールだ」っていうのは、
そういうことなのかもなぁ。
玉置 だから、人にごちそうしてもらうよりは、
ごちそうする方が好き。
相手がお金持ちであろうが、関係なく。
糸井 なるほど。借りはつくらないんですね。
「クール」っていうことばで
くくられやすいんだけれど‥‥。
玉置 いわゆる「クール」とはちょっと違う。
糸井 うん。違いますね。
玉置 そうなんですよ。
たんに冷たいとか、
醒めてるということではないと思うんですね。
糸井 クールというよりは、
「借りをつくらない」。
玉置 はい。
伊丹さんの場合はやっぱり、
お父さんが13歳のときに亡くなっていて、
人に甘えるっていうことが
すごく苦手だったんだと思いますね。
それはもう、最後までね。
糸井 それは、大きなポイントですよね。
玉置 そう思います。
糸井 しかし、うかがった話では、
玉置さんは伊丹さんの映画に
お金を出すという立場だったわけですよね。
「借りをつくらない」伊丹さんにとって
玉置さんとの関係は特別だったんじゃないですか?
玉置 そうかもしれませんね。
伊丹さんの最初の映画である
『お葬式』のためにお金を出したんですが、
こちらとしては、当たるとは思ってませんから、
元が返ってくればいいというスタンスですよね。
で、映画の興行がはじまる前のことですが、
伊丹さんがぼくとふたりのときに
「玉置さん、あのお金は、
 一生かかっても返すからね」って
おっしゃったんです。
糸井 はーーー。
玉置 ご存じのように、
映画は大ヒットするわけですけど、
伊丹さんはそういうスタンスで、
「借りはつくらない」という
意識のままだったと思うんです。
糸井 一貫して。
玉置 はい。
(続きます)
前へ このコンテンツのトップへ 次へ
2009-07-09-THU