やあ、いらっしゃい ― 中村好文さんと歩く、伊丹十三記念館

糸井重里が、松山の伊丹十三記念館を訪れました。設計のみならず、キュレーターとしても活躍した建築家の中村好文さんと、館長の玉置泰さんの案内で、じっくり、見て回ります。どうぞ、ごいっしょに。

第11回 ぐるっと回ったあとに。その2

常設展示室の13のブースと、
企画展示室をゆっくりと回ったあと、
中庭のベンチやカフェ・タンポポでひと休み。
そのあとまだ公開されていない収蔵品のある
収蔵庫をご案内いただきました。
(いつか公開される時まで、こちらはお待ちくださいね。)

伊丹十三記念館を、ぐるっとひと回りし終えてからの
中村好文さんと玉置泰さん、糸井重里の話を
3回に分けて、ご紹介します。

糸 井 いや、驚いたなあ、
伊丹さんに驚いたし、建物にも驚いたし。
中 村 (笑)。
糸 井 もうこんな仕事は引き受けられないでしょうね。
中 村 なんの、なんの。
お声がかかればまたやりますよ。
本当にそれが自分の仕事だと思えればね。
糸 井 そうですか(笑)。
中 村 というか、住宅だけをやってるとね、
展示のおもしろいのを
考え出したりすることなんて
あんまりないじゃないですか。
糸 井 ああー。
中 村 だけど、この機会があったから、
自分はこんなふうにものを考えることが
できたというかね、
そういう自分の中にある
潜在的な能力に気付かせてもらえた
という感じですかね。
最後までデザインの方針が
決まらないっていうのは、
何かが自分にこう、
ピッタリ合ってないんだよね。
糸 井 はあー!
中 村 でも、スタッフは時間のことを気にして
何をどうすればいいか、
早く指示してくれとぼくに
やいやい言うわけじゃないですよ。
もう間に合わないんだから、
「どうすればいいんですか」って。
こっちも、どうしていいかわかんないんですよ。
だけど、スタッフからなにか
アイディアが出てくると、
これじゃないっていうことはわかる(笑)。
「これじゃないんだよね。
 これでもないんだよね。
 もっとちょっと違うものなんだよね」
って、それを探すのがちょっとね、
大変だけど、わりとおもしろいんです。
例えば、イラストの展示で、
イラストを回す取っ手の形を考えるんだけど、
取っ手の形なんて、
もういろんな形ができるわけですね。
デザインするわけだから。
ところがそこに、ほら、
パッとしたものがないのね。
ピタッと気持ちに合うものが。
糸 井 ああ、ああ。
中 村 で、イラストの展示台のときは
あ、そうだ!
伊丹さんのイラストにあった
蓄音機の取っ手でやればいいんだって
ふと、思いついた。
天啓のようにね(笑)。
糸 井 いい話ですねえ。
中 村 もう忙しい時だから、
そればっかり考えてもいられないんです、
あっちではこれを考え、
こっちでは工事全体のことを考えって
やってますからね。
でも、そういうのがこう、
ピタッと来るものがひらめくまで
やってるんですよ。
糸 井 もともと中村さんは、
家具と一緒に考えていく
みたいな発想があるんですね。
ここではものすごい活きてますよね。
中 村 そうそう。そうかもしれません。
家具デザインをやってるんでね、
多分それがよかったと思うんですけど。
糸 井 一般の家庭で、
それをどんどんやるなんていうこと
できないですもんね。
中 村 結局、建築家のひとりよがりに
なっちゃいますからね(笑)。
糸 井 そうか、そうか、そうか。
中 村 ここではひとりよがり的な発想が
必要だったんでね、よかった。
糸 井 必要だったんですね。
中 村 それがちょうどよかった。
糸 井 逆に1人でやってくれっていうことですよね。
中 村 そうそうそう。そうです。
ひとりよがりの大義名分があったわけね(笑)。
糸 井 ああー。
中 村 だから、すごくいい機会を
与えてもらったと思います。
別な言い方をすると、
「伊丹さんから受けた影響の
 一番いいものを建築の形で返しなさい」
って言われたと僕は考えたんですね、
この記念館を設計するっていうことはね。
「何を学んだの?」って、
「伊丹十三からいろいろ影響を受けたと
 いってるけど、あなた、何を学んだの?」と。
「それを建物の形、あるいは展示の形で
 見せて御覧なさい」って言われたという気が
僕はしてるんですよね。
それだから、やらなきゃっていうか、
やれるだけのことはやるんだと。
糸 井 ある程度、それこそ分業で
進めていかなければできないことって
いっぱいありますよね。
で、自分が発想して、
その思ったことをちゃんと伝えて、
力を合わせて分業でやっていくっていうのは、
伊丹さんの映画の作り方と──。
中 村 そうなんです。建築の仕事って、
映画とよく似てるんですよ。
というのは、最終的な作品の
仕上がりっていうのは、
映画は監督しかわからないわけじゃない?
俳優は、その演技だめ、その演技だめって、
何度も何度もやり直しさせられてるけど、
監督が何を求めてるかは
わからないじゃないですか、俳優にも。
最終的に映画が出来上がった時に、
監督はこのことをしたかったから、
あの演技がだめになってたんだなっていうのが
わかるわけじゃないですか。
例えばセットにしてもね、
理想の姿は監督の頭の中にしかないんです。
建築もそういうところあるんですよ。
部分部分はこうだけど、
最終的には建築家の頭の中にしか
最終の仕上がりの形はないんですよね。
それがすごく映画と似てると思います。
糸 井 ひょいと、最初にガレージを拝見したんで
妙に印象があるんですけど、
あの、おまけに1つガレージがあります、
みたいなあの感じが(笑)。
中 村 僕は建物の中に
クルマ入れたくなかったんです。
糸 井 あ、そうなんですか。
中 村 建物の中にクルマが入ると、
なんか外車のショールームみたいな
感じになっちゃう。
あの車がベントレーっていう
立派な外車だけにね。
糸 井 そうか、そうか。
中 村 そう。それが入るとちょっと違うなと思って。
普通なら建物に入れるのが一番簡単だけど。
それで、最初はね、ガレージを円形で考えた。
正方形の建物に対して円で。
設計も全部できてたんですよ。
ところが‥‥すっごい高くて。
玉 置 ぼくが「やめてください」って言った(笑)。
中 村 「やめてください」って言われた(笑)。
で、「厩(うまや)スタイル」に変更した。
糸 井 やっぱり! 僕もそれは思った!
馬だって。
玉 置 はい、そのほうがよかったです。
中 村 よかった、よかった。
糸 井 その厩の向きが、
建物と平行じゃないのは
何なんですか。
中 村 あのね、平行にすると、
母屋の付属物になっちゃうんですよね。
全然これと関係ないルールで
できてるっていうふうにしたかったんです。
糸 井 ああー。馬は馬なんだ。
中 村 そうそうそう(笑)。
糸 井 いや、ものすごくあの厩のおかげで
ここに対しての暖かみみたいなのが
増えてますよね。
中 村 あ、そうかもしれませんね。
糸 井 東北の農家を見学に行った時に、
馬小屋の跡が民家の中にこう、
隣接してあって残ってて。
で、顔だけ出せるようになってて。
「南部曲り家」というんですが。
中 村 あるある。
糸 井 で、そこの人たちは今でも
「馬さん」って言うんですよね。
さん付けなんですよ。
「ここは馬さんがいたところで」って。
その、あのクルマの、なんか伊丹さんが
気張って買ったんだろうなっていうクルマと。
中 村 そうですね(笑)。
糸 井 最初にあれを見るのは本当によかったですね。
中 村 あ、そうですか。よかった、よかった、
厩(うまや)にしといてよかった。
玉 置 クルマが中に入ってるのは裕次郎的ですよね。
ロールスロイスがドーンと。
車の種類ではうちも負けてないですけどね。
糸 井 なるほどね。
玉置さん、時々そういうこと言いますね(笑)。
プロダクション社長(笑)。
玉 置 宮本さんから
「下品だからやめなさい」って。
一 同 (笑)。
(つづきます)
2009-10-20-TUE
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コラム ようおいでたなもし、松山
  伊丹十三記念館のスタッフが、
記念館に来たついでによってもらいたい、
松山近辺の見どころや、おいしいもののお店を
ご紹介します。
第11回 松山のおみやげと海鮮料理のレストラン

図版:トリバタケハルノブ