伸坊さんにきいてみよっか?

第5回 伊丹さんのお父さん

伊丹さんは音楽はやられてたんですか?
バイオリンが弾けたみたいだね。
わ、本格的だ。
ほんとに、なんでもできる方なんですねー。
そうですね。
エッセイ、映画、音楽、料理もできるし。
絵もうまいんですよね。
勉強できるし、英語もできるし。
小学校のころは、
英才教育の特別なクラスに入ってたらしいです。
絵はね、もう、無茶苦茶上手だね。
はーー。
ある時期、グラフィックデザイナーだったから、
まさしくプロなんですけど、
子どものころの絵とか見ても、ものすごくうまい。
多才だー。
ほんとにすごいですね。びっくりします。
なにやってもうまくできちゃう。
でもね、本人はそう思ってなかったみたいで、
矢吹(申彦)さんなんかに訊くと、伊丹さんは
自分にすごくコンプレックスを持ってた、
っておっしゃいますよ。
えーー。
これは、伊丹さんと仲がよかった
浅井慎平さんがどこかで書いてたことですけど、
伊丹さんは、自分自身は容れ物みたいなもので、
中身がないって思ってたらしいです。
(※伊丹さんの著書『女たちよ!』にある
 ご本人の同様の記述が引用元のようです)
あんだけおもしろけりゃ、
中身なんていいじゃん、て、
ぼくなんかは思うんですけどね。
(笑)
まぁ、人それぞれといえば、そうですが。
あの、伊丹さんのお父さんって、
映画監督なんですよね。
そうです。伊丹万作さん。
それも、伊丹さんに影響しているんでしょうか?
そう思いますね。
伊丹さんが、いろんなジャンルで
いろんなことをやりつつも、
最終的には映画監督になったというのも、
やっぱりお父さんのことを尊敬されてて、
お父さんのような映画監督なりたいって
思ってたんじゃないかなぁって思いますね。
あー。
ぼくも伊丹さんのお父さんが好きなんだけど、
それは伊丹さんのエッセイで
とってもいいエピソードがあって
それが大好きなんですよ。
子どものころの伊丹さんが
お父さんといっしょに歩いてるんです。
線路の中を、ふたりで、
昔は電車がそんなにしょっちゅう通らないからね。
すると、お父さんが伊丹さんに言うんです。
「ずうっと前を見ると、
 レールがどんどんどんどん狭まって、
 くっついてるみたいに見えるだろう?
 で、自分のほうに近づくほど、
 レールはどんどんどんどん広がってる。
 おまえの後ろのレールも
 どんどんどんどん広がってるぞ。
 ちょっと後ろを見てみろ」って。
で、子どものころの伊丹さんがパッと振り返ると、
まぁ、当たり前ですけど、レールはやっぱり
遠くへ行けば行くほど狭まっているんですよ。
伊丹さんが「あれ?」っていう顔をすると、
すかさずお父さんが言うんです。
「もっと、素早くやんなきゃダメだ」って。
(笑)
ね、いいお父さんだよねぇ。
いいですねー。
かわいい(笑)。
うん。
伊丹さんにも、
息子さんがいらっしゃるんです。
想像ですけど、伊丹さんは、
自分の息子さんにもそういうエピソードを
たくさん残してらっしゃるんじゃないかなぁ。
(つづきます)
2009-08-28-FRI
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伊丹十三さんのモノ、ヒト、コト

28. 伊丹さんと音楽。

クラシック音楽に詳しく、ギターやバイオリンを
演奏した伊丹さんですが、
音楽にははじめ、コンプレックスがあったそうです。

小中学校時代、伊丹さんの周辺には、
幼いころから楽器をたしなみ、クラシック音楽を理解する
友人たちがいたそうで、
伊丹さんは「音楽が解らない」と悩んでいたのだとか。

しかし伊丹さんは音楽を聞き込み、楽器を手にして、
次第にその悩みから抜け出すだけでなく、
最終的には人生に欠くべからざるものにまで
高めていきます。

そのための助けとして、
お父さんである伊丹万作さんが遺された、
蓄音機がありました。
松山で、自分の蓄音機を持っている高校生が
めずらしい時代に、友人と毎日のように集まって
レコードを聴いていたそうです。

伊丹さんがバイオリンを習いはじめたのは、
21歳になってからでした。
カール・フレッシュの『ヴァイオリン奏法全4巻』を
最大の教師とし、本がボロボロになるまで練習をします。
その時のことを『ヨーロッパ退屈日記』に、

「自分の欠点を分析してそれを単純な要素に分解し、その単純な要素を単純な練習方法によって矯正する技術を学んだのである。」

と書かれています。
ここではバイオリンの話ですが、
万能の人、と思われていた伊丹さんが
物事に向かい、努力によって解決する姿勢は
何に対してもこうであったのでは、と想像してしまいます。


テレビ番組の中でバイオリンを弾く伊丹さん(『13の顔を持つ男』より)

またこの他にギターもわがものとし、
『アルハンブラの想い出』などの立派な演奏会用曲目を
澱みなく弾くことができたとか。

また『女たちよ!』の中では、
友人たちと、口笛など口による演奏で
クラシック音楽を奏で、オーケストラを組んで
練習に励んでいたことを書かれています。
音楽の楽しみかたもいろいろ、というところが
伊丹さんらしいですね。

また伊丹さんは、世界で活躍する
日本ギター界の第一人者、荘村清志さんと従兄弟です。
荘村さんによると、伊丹さんは荘村さんにも
カール・フレッシュの本を薦めたり、
スランプの時にはアドバイスをしてくれたりしたそうです。

後年の伊丹さんにとって音楽へのこだわりは、
やはり映画作品で発揮されます。

『タンポポ』のメイキングである
DVD「伊丹十三の『タンポポ』撮影日記」には、
クライマックスのシーンに、
オーケストラの演奏をのせる際の調整の様子が
収録されており、映画音楽の楽しさを味わえます。

本多俊之さんのサックスが印象的な『マルサの女』からは、
テレビで仕事をしたことのあった
立川直樹さんを音楽プロデューサーに迎え、
名パートナーを得た伊丹映画の音楽は、
さらに活き活きとしてきます。

立川さんによると、伊丹さんの注文は
強引だったりしたけれども、
感服することがしばしばあったそうです。
(ほぼ日・りか)

参考:伊丹十三記念館ホームページ
   『伊丹十三記念館 ガイドブック』
   DVD『13の顔を持つ男』
   『伊丹十三の本』『伊丹十三の映画』ほか。