「喋る」は、みんなの 極上のぜいたく。 「喋る」は、みんなの 極上のぜいたく。
糸井重里は気づきました。
よかったイベント、おもしろかったラジオ、
楽しかった収録、そのそれぞれに
「また石井玄(ひかる)さんがいる」と! 

石井さんは、オールナイトニッポンの
チーフディレクターを務めたのち
「株式会社玄石」で独立。
現在、約20本の人気ポッドキャストを担当しています。

そんな石井さんと糸井が、石井さんの新刊
『「自分でやらない」ほうがうまくいく』をきっかけに
お話しすることになりました。
「話すこと・聞くこと」が仕事であり、
楽しみでもあるという共通点を持つふたりです。
始まりも終わりもテーマも決めない対談でしたが、
だからこそ、おのずと
「会話」のおもしろさが浮き彫りになりました。
【第4回】500万円かけた家庭料理
糸井
喋るトレーニングといえば、岸田奈美さんと
令和ロマンのくるまさんの対談、
あれは本当に、おもしろい地獄でしたね。
石井
そうですね(笑)。
岸田さんが「人の話を聞く」のを
うまくなりたいということで
始まった対談シリーズの第1弾で。
最初はとんでもなく喋れる人を
ゲストにしないと、
対談として成立しない可能性があるから、
くるまくんを提案させてもらいました。
岸田さん自身もくるまくんと
喋ってみたいと言っていましたし。
そしたら、またあの人が意地悪で(笑)。
打ち合わせで、「この企画は岸田さんが
人の話を聞けるようになるための
イベントなんです」と伝えたら、
「じゃあぼくはなにもしなくていいですね」
と言ったんですよ。
で、対談が始まったらずっと
岸田さんを泳がせるっていう。
写真
糸井
トークのサイコパスですね。
石井
はははは。
くるまくんは自由自在すぎて
なんでもできるから、
そういうこともできちゃうんです。
ギリギリおもしろさは残しつつ、
でも決して岸田さんを助けない。
糸井
いやぁ、あれは現場にいてスリルがあった。
岸田さんが可哀想だって気もしたけど、
絶対やったほうがいいと思った。
親心みたいなもので。
石井
やっぱり、一回チャレンジしないと
できるようにならないですもんね。
岸田さんはもともと、
「自分は糸井さんみたいにいろんな話を
聞き出せると思ってた」と言ってましたから。
糸井
彼女のぼくを見る目が間違ってたんです。
ぼくは聞くの、下手なんですよ。
写真
石井
え、そうなんですか。
糸井
根本的にぼくは下手なんだけど、
下手な人なりにジタバタしてるんです。
それを、彼女は
「うまくならないとできないことを
糸井さんはしている」
と思っていたんですよ。
「うまくやっているように見える人は
技術を持っている」と思い込んでしまうと、
苦しいんです。
ほんとは、下手なままでうまい人って、
いっぱいいるんです。
岸田さんは努力できちゃう人だから、
努力してうまくなろうとするんだ。
努力できちゃう人がぼくを理解するのは
なかなか難しいんだよ。
ぼくはあんまり努力しなくて、
下手なままだから(笑)。
困ったときのごまかし方だって、
きっと上手な人だったらもっとうまいやり方を
知ってると思うけど、ぼくは毎回
「どうしよう」でやってるから。
写真
石井
岸田さんのなかでは、たぶん
「インタビューをする」ということの
理想がすごく高いんです。
岸田さんらしいものになっていけば
それがいちばんいいんですけど。
理想的なインタビューを
うまくやる方法はなくて、
いきなり満点を狙うことは
やっぱりできないんだって、
ぼくも岸田さんを見ていて勉強になります。
糸井
岸田さんは、
書く速度がものすごく速いじゃない。
石井
速いですね。
糸井
あの速度で、成り立つ比喩やおもしろい表現を
文章のなかに入れるからすごいですよね。
でも、あの速度で喋れるかといったら、
誰にとっても難しいはずです。
石井
相手がいることだったらもっと無理ですね。
いまの時代は本当に、
ひとりでできることのほうが
得意だという人が多い気がします。
写真
糸井
しかも、手で書いてる時代と
タイピングで書いてる時代の速度は
違うと思う。
石井
たしかに違います。
手で書くとそれなりの時間がかかるから、
考えてゆっくり書く場合が
多いですけど、
タイピングはすごく速く打てるから、
打ちながら考えることができますもんね。
糸井
だから、話すことと書くことの速度が
どんどん離れていくのかもしれない。
でも、話す筋肉を鍛えていけば、
どこかで話すことと書くことが
合流したりするんでしょうね。
石井
それこそくるまくんは、
「なにも考えずに喋ってる」と
言っていました。
脳が反射して喋ってるみたいなものだって。
それは、才能もあるんですけど、
訓練の賜物でもあると思います。
糸井
ゴール前をうろうろしてる
メッシみたいなもので。
石井
達人ですからね。
自分からなにか
仕掛けるようなことはしないけど、
ボールが来たら絶対ゴールを決める。
糸井
それは練習をし尽くした人ですよね。
上手下手の問題は、これからもっと
大事になるような気がするんだけど、
「上手」っていうだけでは
信用ならないじゃないですか。
写真
石井
ならないですね。
糸井
ぼくは自分がコピーライター出身だから、
「人を誘い入れる人なんだ」
と思い込まれてるわけですよ。
ぼくをよく思ってない人からは
「広告代理店の手先だ」
「どうせなんかで金もらってるんだろう」
とか、すぐ言われるわけ(笑)。
そこまでじゃないにしても、
「うまいこと言って巻き込むんじゃないか」
とは、いろんな人に思われてると思う。
石井
なるほど。言葉が上手だから。
糸井
「訓練をし尽くしたスナイパーだ」と
思われると、相手に
「騙されないぞ」という緊張感が
薄く働いてしまうんです。
立て板に水で喋るセールスマンと喋ってたら、
途中から「もういいです」って
言いたくなるじゃないですか。
ただ上手になるのを目指した結果、
そのセールスマンのようになっちゃうのは
嫌だから、どこかで、裸足で
イガイガしたところを踏んで「いてててて」
みたいな‥‥
素の部分が出る歩みをしていかないと、
もたないんですよね。
たとえば、演じることがものすごく達者な人が
本当に思ったことを言ってくれたときって、
嬉しいじゃないですか。
石井
嬉しいですね。
糸井
よく喋ってくれる人は
本当に素晴らしいんだけど、
その人たちが持ってる
「ただのその人」の部分と
出会いたい気持ちがあるから、
ぼくは人に会うのがすごく好きなんだと思う。
石井さんは、20人とそれがやれてる
気がするんですよね。
だって、石井さんが担当している
ポッドキャストのパーソナリティの
みなさんって、みんなそれぞれの分野で
すごいじゃないですか。
「すごい人」として出会ってたら、
こちらはひれ伏してなきゃいけない。
でも、その分野でのすごさは尊敬しながら、
その人の芯になる柔らかいものを信頼して
見ることを、石井さんはしていると思う。
石井
たしかに、ぼくは相手のひとつ奥の、
いわゆる当たり前の話じゃない話を
なんとかして喋ってもらうために、
あれやこれや手を尽くしてるんだなと
気づきました。
写真
糸井
ぼくは「聞くプロ」ではないから、
それをしないんですよ。
その違いはちょっとありますね。
石井
糸井さんは、話がおもしろければよくて。
一方でぼくは、
コンテンツとしてのおもしろさよりも、
話し手のパーソナルを出すことを
求めているんですね。
糸井
なるほどなぁ。
石井
ぼくは「この話し手のおもしろさ」の最大値は
どこなんだろうと、奥のほうから
引き出していく作業をしているんです。
奥のほうに「おもしろいものがある」と
思っていて。
糸井
ありますね。
そして、それは商品になるものだから、
対価を払う人を集められます。



ぼくは、じつは「お金を払える
おもしろい話」は求めてないんです。
「まあ、払う人もいるんじゃない」
っていうぐらいがおもしろいというか。
どう言えばいいんでしょうね。
「また会うんじゃない?」と思ってるから、
完璧に引き出さなくてもいいんです。
そこは、だから「手料理」ですよね。
写真
石井
なるほど。
糸井
「手料理だからごめんね、焦げちゃって。
でもおいしいじゃない」みたいな話を
求めているんですけど、
プロがそれを出したらダメですよね。
石井
そうなんでしょうね。
テレビでも、きっとダメでしょう。
その意味で、
ポッドキャストやラジオには
許される部分がたくさんあるんです。
ぼくは「奥のほう」にあるおもしろい話と、
その手前にあるそんなに深くない話、
どっちも好きです。
「なんの意味があるの?」みたいな時間も、
会話としてはおもしろいから。
糸井
奥のほうから引き出す会話を
「レストランの料理」だとしたら、
ぼくが好きな会話は友人などに手軽にふるまう
「手料理」だと思うんです。
となると、石井さんとぼくの考えが一致する場所は
「家庭料理」だね。
石井
ああー、そうですね。
糸井
家庭料理というのは、
レストランのようにお金をとることは
一切考えてないけど、
たとえば家族によろこんでほしいという気持ちは、
手料理よりずいぶん込もっているじゃないですか。
手料理でもなく、レストランの料理でもなく、
「家庭料理」というジャンルで
お客さんが来ることもあるからね。
そうなると、ぼくのいちばんの理想は、
なににも糸目をつけない家庭料理だな。
材料費を500万円かけた家庭料理だって
あり得るわけで。
石井
ありますね。
糸井
それはひとつの理想だな。
いま、自分のことがちょっとわかりました。
石井
よかった。奥を引き出せた(笑)。
写真
(明日に続きます)
2026-10-23-FRI
『「自分でやらない」ほうがうまくいく
信頼されている人だけが知っている
7つのルール』

(PHP研究所)
石井玄さんの最新刊です。
「たくさんの企画を楽しそうに進行している
石井さんに、仕事の仕方を教えてほしい」
という編集者さんの希望から生まれました。
石井さんが実践してきた働き方、考え方が
惜しみなく書かれていて、
多くの「働く人」にとって
いい意味でグサッとくるはず‥‥。

2026年9月29日、PHP研究所から発売されました。
本対談と合わせてお手に取ってみてください。