糸井
ゆり子さんとお会いしていなかったあいだに、
いろんなことがありました。
ぼくも「動物が家にいる」という
暮らしをしているうちに、
よそのうちの子まで
だんだんかわいくなっていくというか、
大事なものだなぁと思うようになっていって。
石田
はい。
糸井
そして、3.11の震災をきっかけに、
いろんな運命のめぐりあわせで
動物を助けるお手伝いのようなことを
するようになりました。
そのことで、動物たちにとって、
「人間の社会にいてよかったね」と思える話と、
「よくなかったね」と思える話と、
両方を見ることになっちゃって。
石田
あぁ。
糸井
たとえば、捨てられる犬というのも
いっぱいいるわけです。
「悪い人が捨てる」と言ってしまえば
簡単なんだけど、それぞれ事情があって。
たとえば高齢のおじいさんが
犬を飼えなくなったときに、
親戚とかを頼るしかないわけで、
相手が「嫌だ」って言ったら、
その犬は手放されていくわけですよね。
石田
捨てるってことですか?
糸井
はい。
もちろん、そうなるまでの前に
やるべきことはあったんでしょうけど。
ほかにも、引っ越しが決まって、
犬だけ置き去りにしたという話もあります。
聞くと「ええ?」ってなるけど、
これだけ人口がいるわけだし、
どこかで絶対に起きているんですよね。
あと、ブリーダーが続けていけなくなったり、
犬を飼っている個人が、
突然バタッと逝っちゃったりってこともあります。
「そうなったらどうする?」ということを、
本当は何重にも考えておかないといけないんです。
石田
そうですよね。
糸井
そういうことを考えて活動している
「ミグノン」という動物愛護団体と知り合って、
自分ができることだけでもしようと思って
お手伝いをはじめました。
石田
はい、はい。
糸井
それから、Twitterというものを
みんなが使いはじめて、
いつのまにか、ぼくのところに
犬猫が迷子になったというツイートが
くるようになったんです。
「今、新宿区なんとか町で、
こういう犬がいなくなってしまいました。
助けてください」
みたいな連絡がくる。
で、何件かに1件は発見されて
「よかったね」となります。
そうすると、また誰かの犬猫がいなくなると、
「糸井さんにツイートしておいたほうがいいですよ」
みたいな雰囲気が生まれて、
なんか知らないけど、
ぼくのところが村役場みたいな状態になって(笑)。
石田
(笑)その様子は、
私もよくTwitterで拝見してました。
糸井
そうですか。
ぼくも、初期のころはコメントを付けて
投稿していたんだけど、
そうすると、何て言うんだろうなぁ、
1つずつに対して、
ちょっと重くなりすぎるんで、
そのままリツイートするだけに変えちゃったんです。
ただ、ツイートってどんどん広まりますから、
「この犬は発見されたから、
もうこの情報は要らない」
というような一覧表を
作っておかないとだめなんですよ。
で、ぼくがその一覧表を作っていて、
正直言って、その管理が
ものすごく大変だったんです。
石田
あぁ。
糸井
1人で静かにやってたからね。
なおかつ、北海道でいなくなった犬を
沖縄の人が探しても、しょうがない。
石田
(笑)
って、笑っちゃいけないけど。
たしかにそうですね。
糸井
本当にそうなんですよ。
今の話は北海道と沖縄という極端な例だから笑うけど、
たとえば、東京と栃木と聞くと、
近いと言えば近いような気もするでしょう。
石田
ああ、そうかもしれませんね。
糸井
そう。でもそれって、
東京の人が栃木の犬のことで騒ぐと、
栃木の人の比重が軽くなるような気がするんですよ。
要するに、
「迷子になった現場はこのあたりなんだから、
自分たちががんばらなきゃ」
という近所の人たちが増えないといけない。
石田
うんうん。
糸井
被災地の話と同じで、
遠くから大声で騒ぐよりは、
現地にいる人ががんばることのほうが
大事なんですよね。
「かわいそう、かわいそう」ばかりだと、
みんなの心ばかりザワザワして、
落ち着かないままに、
「結局、何もできませんでした」
ということになる。
石田
はい。
糸井
そうはならない方法を考えていて、
「あ、そうか。みんなが
犬猫を登録すればいいんだ。
迷子になった場合も、
近くの人が探せる仕組みにすればいいんだ」
と思いついたんです。
今回リリースしたアプリ「ドコノコ」の
コンセプトにあたる発想なんですが、
犬猫の面倒を見ている人が責任を持って、
「うちの犬です」「うちの猫です」
というふうに住民登録して
日々の写真を投稿できるようにしよう、と。
石田
あぁ、なるほど。
糸井
そうすると、「ドコノコ」を見ている人が、
「あのおじいさんは高齢だから、
急になにかあったら、あの犬は」とか、
「あの人最近、全然何も投稿してないけど、
どうしているだろう?」
というふうに気づけますよね。
なんか、同じおせっかいでも‥‥。
石田
察することができる。
糸井
そうそうそう。
「間接話法」になるんです。
石田
なるほど。
糸井
たとえば両親が一人暮らしで心配だから、
ポットが使われたかどうかを
外から調べられるような
安否確認サービスがありますけど‥‥。
石田
あ、今それを言おうと思ってました(笑)。
糸井
そうそうそう(笑)。
あれに似てると思うんです。
石田
そうですね。
糸井
そのネットワークが世界中にできたらいいな、
と思ったんですよ。
それがきっかけとなって、
2年ちょっと前くらいから
「ドコノコ」のプロジェクトをはじめたんです。
(つづきます)
2016-7-26-TUE

イラストレーション:大橋歩

撮影:小川拓洋