『生きているのは
なぜだろう。』が
できるまで。

2019年5月15日、
『生きているのはなぜだろう。』という絵本が
刊行されます。
文は脳研究者の池谷裕二さん、
絵は映画界で活躍する田島光二さん。
制作年数は5年2か月。
発売まであと少し日がありますが、
この本の歩みを、まずは編集担当の視点から
読みものにして連載いたします。
このコンテンツの執筆は
菅野綾子が担当いたします。

第7回初対面。

2018年の暮れから、デザインの関根信一さんとともに、
猛スピードで本の制作を進めていきました。
ここで猛スピードを出すのならば
なぜこれまで4年もタラタラしていたのでしょうか。
でも、そういうものなのです。
仕上げは一気にやるのです。
そうでないとほとんどのものはできあがらないのです。

本文デザインがしあがって、最後に
表紙と扉の絵を田島光二さんに
描いていただく段階がやってきました。

その打ち合わせ(ビデオチャット)で、
田島光二さんは
「それ、VRで発想してみます」
と言い出しました。

カナダと日本のビデオチャット。
VR。こういうやつですって。

VRはバーチャルリアリティのこと。
ゴーグルをかけて立体的な世界に飛び込み、
空中でペンを振るようにラフスケッチをしてみる、と
田島さんはおっしゃいました。

田島さんがそのときVRで描いた
ラフスケッチ動画はこちらです。

扉のためのラフスケッチ。
表紙のためのラフスケッチ。

このスケッチがどんなふうに、
実際の表紙や扉として
完成していったのでしょうか。
ぜひ現物の本で確かめてみてください。

扉ページに出てくる町並みは、
田島さんが幼少期に住んでいた家の窓から
いつも見ていた風景なのだそうです。
なぜ、田島さんはVRを
最後の発想の道具に使ったのでしょうか。

この物語は、
池谷裕二さんから生まれたものです。
しかし、
「生きているのはなぜだろう」
「どうしてここにいるのだろう」
という不思議な気持ちは、
たくさんの子どもの心の深いところに
流れている川のようなものだと思います。
田島光二さんのなかにも、
きっとみなさんのなかにも、
その川はあります。

田島さんは本のしあげにVRで自分の世界に飛び込んで、
自分の川底に触るように描く方法を
取ったのではないのかな、と
私は思っています。
田島さんが描いたのは、
窓から入る光と風、そして
幼い頃に窓から見つめていた風景でした。
田島さんにとってそうであったように、
光や風を感じているとき、
私たちは自分の川底にさわることが多いのかもしれません。

最後の年、2019年が明け、1月11日。

お正月休みで、田島光二さんが
日本に戻ってこられました。

ほぼ日オフィスにて。

このとき、やっと田島さんは、
池谷裕二さんと実際に
対面することができました。
(それまではビデオチャットだけでした)

いっしょに東京大学に行きました。

「はじめて会う気がしない」
とおふたりはおっしゃっていました。

関根さんの組んだレイアウトを見るふたり。

池谷さん「最初に田島さんのスケッチを見たとき、
もちろんすばらしいと思ったのですが、
こんなふうに変わるなんて」

田島さん「そうですね、たしかに変わりましたよね」

池谷さん「結果的に、こんなに
共感性のある絵にしあがるなんて
思いませんでした。
特に表紙はすごく雰囲気のある絵ですね。
ずっと見ていたくなるような、
見ているうちに主人公に同化するような、
不思議な気分になります」

田島さん「やってるうちに、なんだか
こうなっちゃったんですよ。
結果的に、これはぼく自身にとって
すごいチャレンジとなりました」

池谷さん「ぼくは、すごく好きです。
いつもの田島さんの絵もすばらしいと思いますが、
この絵本にこんな絵をつけてくださって、
ありがとうございます」

最初のあのラフが。
この感じに。

きっとこのふたりの組み合わせだから、
このお話だから、
田島さんの絵がこうなったのです。

1101教室の前で。

この本には答えがあります。
『生きているのはなぜだろう。』の答えが。

ほぼ日から、『かないくん』以来、
5年ぶりの絵本。
生きているのは
なぜ
だろう。

作 池谷裕二 

東京大学薬学部教授 医学博士
『進化しすぎた脳』『海馬』

絵 田島光二 

コンセプトアーティスト
『ブレードランナー2049』『ヴェノム』

この本には、答えがあります。