第6回 頭、貸して。

もうひとつ挙げるとすれば
「頑固なところと
 引くべきところのタイミング」でしょうか。

伊賀

両方、わかってないとダメ?

糸井

たとえば、相手の言うことをぜんぶ
「そうですね、そうですね」って言ってたら、
自分の意見なんて
何にも、なくなっちゃうじゃないですか。

「あなたの意見は?」と問われる会社では
それじゃ、ダメですよね。

でも「俺の意見は」ばっかりだと
その人の意見以上のものが、出てきません。

伊賀

ええ。

糸井

どこまで主張して、
どこまで受け入れるかというバランスには
それぞれ個性がありますが
少なくとも、
私とキャッチボールをしているときに
「合う」ということ。

伊賀

なるほど。

糸井

私なんて、マッキンゼーのなかでは
「やさしい人」の部類です。

入社したら、
私よりもっともっと厳しい人たちと
仕事をするわけですから
主張するところと、
受け入れるところのバランス感覚って
すごく大事だと思います。

伊賀

僕、今のはものすごくピンときますね。

糸井

じゃあ、すくなくとも
スフィンクスは通過できますね(笑)。

伊賀

キャッチボールって
本当によくできた遊びだと思うんです。

僕、ある球団のファンなんですが‥‥。

糸井

はい(笑)。

伊賀

まあ、つまりジャイアンツなんですけど、
うちの子がまだ小学生のころ、
巨人軍のキャンプに連れて行ったときに
桑田真澄投手に
キャッチボールしてもらったことがあるんです。

で、桑田投手が相手だと
小学生でも
上手にキャッチボールできるんですよ。

糸井

会場:へぇー。

糸井

すごいでしょ?

つまり、相手が構えるグラブの位置とか、
どういうふうに動くのかまで考えて
桑田投手は、投げてくれてたんですよね。

糸井

プロって、そういうことなんですね。
話が通じてる、というか‥‥。

伊賀

そう、そこの「通じてる感」というのは、
キャリアみたいなもの、ですよね。

もし学生さんでそれができる人がいたら
「ちょっと老けてる人」だよね。

糸井

会場:(笑)

糸井

学生は「上手い」必要はぜんぜんなくて、
変なところに投げちゃっても
「すみません」って言えればそれでいい。

でも、少なくとも
「キャッチボールをしてるんだ」という
感覚は持ってもらわないと。

ひとりで壁打ちしてる人、いますから。

伊賀

「相手が人間だ」ってことですもんね。

その意味では、聞いているだけなのに
「この人にしゃべりたい」って
思わせてくれる人は、すごいですよね。

糸井

はい、それはすごいです。

伊賀

この人と話すと自分の頭が動き出す、
みたいな感覚って、たまにありますから。

糸井

マッキンゼーの中でも
よく「頭貸して」って言うんですよ。

私も使うんですけど
残業してるときとかに「ごめん、頭貸して」。

伊賀

それって、日本だけ?

糸井

たぶん、英語で言う場合には
「ブレストに、付き合ってくれない?」
とかだと思うんですけど。

伊賀

僕も同じような経験があって、
『MOTHER』というゲームをつくってるとき、
タイピングをしてもらってたんです。

僕が書いたりしゃべったりした文章を
タイプしてもらうわけですけど
その人が文章を見てクスっと笑ったり、
吹き出したりする。

それが、すごくうれしかったんです。
もう、この人がいないと
やる気が出ないなと思ったくらいで。

糸井

なるほど。

伊賀

その人が「いいですね!」なんて
言ってくれたりしたらもう‥‥。

糸井

飛び上がるほど嬉しい、みたいな?

伊賀

そういうときのテンションは
次を呼び込むから、いい循環があるんです。

糸井

それってまさに「頭借りてる状態」ですね。

伊賀

会社でも「聞いてくれる人」がいなかったら
出てこないことって、たくさんありますし。

糸井

思考をひとりで進めるのって難しいんです。

さっきの「頭を借りる」というのは
誰かとキャッチボールしながら
高みを目指すという、そういうやり方です。

伊賀

なるほど、そうか。

糸井

今だって、ただふたりでしゃべってるのと、
みなさんが
目の前で「クスッ」としてくださるのでは
ぜんぜん、ちがうでしょうし。

伊賀

みなさん、「頭、借りてます」。

糸井

会場のみなさんの反応を拾いながら
トークが完成する、そういう感覚ですよね。

伊賀

<つづきます>
2013-09-05-THU